19×17

上甲板のデッキには、ロビンが丹精こめて育てている花々が花壇に咲き乱れている。
その赤や黄色の花たちをバックに、目蓋を閉じているルフィの顔をじっと見ていたゾロは、ふとその睫毛に意識がいった。
ルフィの睫毛は決して多くないが、意外に長い。
大きすぎるくらい大きな目を開けているとそんなことを思わせないので、それに気づくとギャップを感じさせるというか。
……一重だからか?
一重というか、奥二重というか。
うーむ……。
ちなみにゾロはくっきり二重だ。
ナミもロビンも二重だ、ったと思う。ウソップはバッチリ一重。
チョッパーは──、シカに一重も二重もあんのか?←トナカイです
他は記憶にない。じっくり見たこともない(特にコック)。
ううーむ……。
あぁ、そうそう、ブルックは骨だから睫毛すらねェよな。アフロなのに。
と、そんなくだらない考察をしていたら、パチッと目を開けたルフィがしだいにむぅぅ~っとうろんな視線を送ってきた。
そしてフキゲン丸出しの声で、ボソリと。

「なんでチューしねェんだよ……」
「あ……」
しまった。「チューしたい」とルフィに言われてたのだった。
「したくねェならわかったとか言うな!」
なぜか正座でキス待ちだった船長が勢いよく立ち上がった。
プンスカと立ち去ろうとしたその手を咄嗟に掴む。
当然、みよよ~~んと伸びたが、気合いで引っ張ったらルフィは床板に足を滑らせ、ばっちーんとゾロの腕の中に背中から戻ってきた。
「……お帰り」
「ただいま。──じゃねェ!」
ジタバタ暴れ始めた細い体を後ろから羽交い締めにする。
それから潰す勢いで甲板にべちゃっと押し倒して、顔を「ブヘ」とぶつけたルフィをくるんっと仰向けに。
軽い体重のルフィなど、ゾロがころんころんするのは余裕なのだ。
夜なんかも結構ころんころんと体位を……いやいやゴッホン。
それどころではない。
ゾロは文句を言おうとした船長の口を噛みつくように塞ぎ、肩をバシバシ叩いてくる両手をデッキの上へ押しつけた。
ヘソを曲げた船長はなかなか厄介だったり。
だけど単純だから、口のなかの弱い部分を舌でくすぐったら思った通り、だんだんと大人しくなっていった。
「ん…っ」
その後はすぐに翻弄される。
ゾロはルフィの胸元に手を這わせるや金色のボタンをひとつ、またひとつと外していき、するっとベストのなかへ手を滑らせスベスベの肌をまさぐった。
が、またジタバタ、ジタバタ……。
「んっ待……! ゾ…ぷはっ、今からおれおやつ食うんだ!!!」
どーん。
「おやつかよ……」
別に獲って食おうってわけじゃないのにルフィは食い物が絡むと必死である。
言うまでもなく一切甘いムードになることなく、二人揃って下の食堂へ降りた。


食堂へ入ると、ナミとチョッパーとウソップが3人でひとつの新聞を覗き込み、なにやらきゃっきゃしていた。
なんでも今年行われた首脳会談の記事が出ていたらしく、アラバスタの国王コブラの後ろにビビが映っていたそうで。
「ビビだ!なっつかし~なぁ~~」
ルフィも一緒になって覗き込んでは興奮気味に頬を上気させている。
ラブコックに至っては、
「ビビちゃんまた一段と女らしくなって……!」
とおやつのホラー梨タルトが乗ったトレイを両手にくるくる己の眉毛のように回り、目からハートを撒き散らした。
ゾロが「酒」と言ってみても、もちろん無視。
ま、いいけどよ。自分で拝借すっから……。

「ビビって言えば!」
不意にナミが何かを思い出したらしく笑顔でポンと手を打った。
「どうしたんですかナミさん?」
サンジがそんな航海士をうっとり見つめ問いかける。
「なんだ!?ビビのことか!?」
年下3人組も、ナミに注目。
ゾロが「ビビ」でいちばんに思い出すことと言ったら、てっきり仲間になると思っていた彼女がいなくなって、ぐじぐじ泣いて淋しがる船長をクルーに内緒で慰めてやった記憶に尽きる。
さんざん四刀流四刀流と八つ当たりされながらも抱いたこととか……いやゴッホンゴッホン。
しかしそう言えば、泣き寝入りした(これは虐めすぎて)船長の頬をさすりながらあのときも、濡れた睫毛を眺めて意外と長ェんだなァ、と思っていたような……。

「ほらほら、砂漠で見つけたラクダがいたじゃない?元気かしら」
「あーあ、あのラクダかぁ」
「いたいた。やったらナミさんになついてやがった女好きの……」
ナミ、ウソップ、サンジと順に記憶を巡らせれば。

「マツゲかぁ~~!!」

一際大きな声で通訳役だったチョッパーがなつかしげにその名前を叫んだ。

「ゴホゴホゲホガホ!!!」

ついつい“まつげ”に反応してしまったゾロが盛大に酒に噎せる。
「ゾ、ゾロ!?どーしたんだ!?」
ルフィがびっくりして背中をバンバン叩いてくれるが、力が半端ないからやめてくれ……。
余計にゾロが噎せるのでルフィはムニと唇を噛んで、不思議そうに睫毛をパタパタした。

その後しばらくルフィの顔を直視できなかったゾロにまた船長がヘソを曲げてしまったとか、しまわなかったとか……。



(オチなかった)
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