19×17

「これどうしたんだ?」
いきなり捕まれた手首に、薄っぺらい船長の身体は簡単に引き寄せられる。
「んあ?」
「これ……」
目線の先、男の手の下の。
「ああ。これ?」
黒いブレスリングとリストバンド。
そんなもん自分は知らない、と男は思う。形のいい眉を片方、剣呑に釣り上げて目の前の人物を一睨みもしてみたり。
あからさまな、不機嫌な顔。
「………」
「町でな……。って、なんでゾロ、機嫌悪ィの?」
「ああ? 悪ィわけねェだろ」
酒も有るし食いモンはまぁ、あのクソエロコックには口が裂けても言わないが美味いし、隣の空獣も機嫌良く呑んでるし。明日からのサバイバルに敵も多く心が躍らない訳がないし。
そう、こんな雲の上の島まで来て機嫌の悪い要素はどこにもなかった、のだが。
これを見た途端。
「手、」
「あ?」
「離せって」
「………」
そうしたならまたどこかへ行ってしまうのではないか、そんな風に思って。
ゾロはルフィの手を自分の脇へと容赦なく引っぱると、軽いその身体を無理やり自分の隣へ座らせた。
「おわっ!」
「ルフィ」
「な、なに……」
それから上体をルフィの方へ反転させすばやい動作で肩を掴んで押し倒す。ついでに片足で相手の片足を押さえ込んで、肩を掴んでいない方の手はその問題の物を填めた手首を掴んだまま。
ルフィの手に持っていた骨付き肉がころん、と地面に転がった。
「あー勿体ね!」
この地域には土地がある。下の世界と同じ土がある。この国の、争いの象徴――。
どこもかしこも雲で出来た足場と違って、肉に着いたならもう食べられない。……普通の者ならば。
ルフィは慌てて拾おうと手を伸ばすも肩を浮かす事すら真上の男が封じていて、腕力自慢の船長なれどこの剣士を前にどうにも巧くいきそうにない。
「諦めろ」
「コラ、ゾロ。どけよ」
「どかねェ」
「肉!」
「もっといいもんやるから……」
そんな子供だましの釣り餌に、食いつくこの船長はバカだと思う。
「う~うん…」
ちょろいな、ホント。

そうしてデカイ月が隠れて辺りが真っ暗になったなら。
「どっから食いたい?」
「くち」
食うのはおれだけどな。

文字通り、噛み付くようなキスを執拗に送って。
ゾロはルフィが夢中になってきたころを見計らって、忌々しいリングとバンドを密かに外した。

お前を縛るもんは、何であろうと許さねェ――。




(END)

2004.01.05に書いたらしいです;
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