19×17

「ん~どれにすっかなー。これかな?いやいやこっちにすっか!待てよこっちも捨てがたい」
「ルフィがそんなに悩むなんて珍しいじゃねぇかよ……」

寄港した島のとあるホームセンターで。
船長ルフィが商品の枕を抱っこしながら、あれでもないこれでもないと唸っている。
お目付け役でついてきただけのサンジはルフィが不眠症にでもなったのかと、ちょっと心配になったのだが……。
なにせコイツなら薬なんて手は思い付かず、枕がワリィ、とか言いそうだから。
いやそもそもルフィと不眠症って。そりゃありえねぇ。
「お前のこったから枕をぶったたいて破裂さしちまったとか?」
「あはは。パーーン!」
ふかふか枕にパンチしてふざけるルフィにおいおいと店員の目を気にしながら、サンジはルフィから枕を取り上げた。
「違うならただの買い換えか?」
すると、ルフィから返ってきた意外な答えは。

「ゾロにやるんだ」
「はぁ?まりもに?なんでまた……」
「今月11日はゾロの誕生日なんだぞ?知らねぇのか?」
「野郎の誕生日なんざ知るか!」
とか言いつつ、ルフィの誕生日は5月5日だと知っている。
「そうかまりももゾロ目か」
11月11日で。
「ん?」
「なんで枕なんだよ。あの酒好きに酒をやらない手はねぇだろ?」
「おれの誕生日に貰ったんだよ。そしたらえらい目にあって……。ゾロのヤツ酔ったふりしやがってよー」
「?」
「とにかく、ゾロって言や昼寝だろ!?」
「あーなるほど。けどだいたい甲板で寝てねぇ?枕なんかいるのか?」
「あぁー!そうかぁ!」
「やめとけやめとけ。あんな奴にプレゼントなんて。小遣いの無駄だ」
「え~~」
「つーかおれにはくれたことねぇよな……ルフィ?」
「誕生日知らねぇもんゾロ以外の」
「聞けよ!」
「…いつだ?」
「3月2日。ナミさんが7月3日で、ロビンちゃんが2月6日で、ビビちゃんが2月2日で、それから──」
「この枕にすっかな~♪」
「だから聞けよおめぇ!!」
ルフィが細長い緑色の枕をぎゅうっと抱っこして、にこにこご機嫌、サンジなど全くムシのスルーでもう脱力である。
「あ、サンジも食料とか買ってきていいぞ?」
「それは人手がいるからこのあと男衆は町の広場に集合な」
「おぉそっか。だってサンジおれのあとばっかついて来るからよ」
「好きでついてんじゃねぇ!」
と、言い返したが、自分はデートのとき女の子の買い物に付き合って後ろにくっついてく方だよなぁ、とふと思った。
ルフィみたいな彼女と来た日にゃあちこち振り回されまくって超大変。でも我儘ベビーフェイス女子かわいい……とか妄想してしまい、サンジはぶんぶん頭を振った。
ルフィとデートなんてとんでもねぇ……!!
「つーかルフィ、その枕は二人用だぜ」
「うん。いいんだ。昼寝に使えねぇんだったら夜一緒に使うヤツにしたんだ♪」
「え、夜……?一緒に……?」
そのココロは??

「えっちしたあと一緒の枕で寝るんだぞ!いいだろ~vv」
ばーーん☆

「ちっともよくねぇー!てめぇらいつからそういう関係だよっ」
「今年のおれの誕生日」
「あ、えらい目って…酔ったふりって、そういうことか……」
「うん襲われた。でも惚れてるって言ってくれたから別にいいかなって……。今からゾロの誕生日が楽しみだなーっ!!」
「そうですね……」
ただのバカップルだったとは、よく半年も気づかなかったよおれ……。
どこでえっちしてんだろう、いやこの妄想は厳禁だ。
「んじゃおれこれ買ってくるな!?そんでいっぺん船戻って隠してくる」
「ああ」
ウキウキと嬉しそうにレジへ向かうルフィに、なんとなくスッキリしない気持ちでサンジは無意識にルフィの肩をつかんで止めた。
そうして、
「おれが同じことしたらどーする?」
と聞きそうになったところを、
「ちゃんとラッピングして貰えよ。プレゼント用ですっつえばいいから」
とか、親切心出しちゃってどうすんのー!
「おうっ!」
ルフィがぱあっと花が咲いたように笑うので、釣られてにぃっと返しながらなに嫉妬してんだおれぁ、とガッカリしてしまった。
てけてけとルフィが駈けていく。両手いっぱい、枕を抱えながら。

「好きだって言われりゃ誰にでもヤらせんのかよ」
ぼそりとつく悪態は誰にも聞き咎められなかったが。
どうやら自分は、その点にイライラしているらしい。
片想いのレディに恋人がいたときの心境……?
いや違う。
「こりゃ妹に彼氏がいたと知らされた兄の心境だぜ……」

お兄さんは許しません。

なんとかあの枕を使わせないよう嫌がらせしてやる、と画策してサンジはゴゴゴっと闘志を燃やして。
ルフィとは別の意味で、来たるゾロ誕が楽しみになった。



(つづかない)
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