19×17

「ゾロ気をつけ!」
「……あ?」

怪訝そうな顔でメリー号の手すりに凭れたままの剣士に、ルフィは口をヘの字にして「船長命令だ」と職権乱用に打って出る。
ゾロがこれに弱いのはぼんやりと解っている。
思った通り、渋々姿勢を正したゾロは「気をつけ」といかないまでも言うことを聞いてくれたが、手すりに座って釣りをしていたウソップ(いました)の「何の遊びだ?」の問いかけには無視。
ルフィはゾロの組んでいた腕もご丁寧に解かせて、「ビシッとしろ」とか文句をつけ、ニマリと笑った。
「じゃあ目ェ瞑れ!」
「歯ァ食いしばれじゃなくてか?」
「……なんで?」
「なんか気に入らねェから殴られんのかと」
「?」
困ったように首を傾げるルフィにゾロはさっさと投降する。
このバカに説明すんのは骨が折れる、どうせ言い出したら聞きゃしないのだから。
「こんでいいか」
ゾロが姿勢を正したまま二重のまぶたを閉じると、掘りの深い顔立ちはまるで彫刻のようで、ルフィは満足気に「よし」と頷くと仁王立ちのゾロにギリギリまで体を寄せた。
それから、ちょこっと背伸びして、ゾロの薄い唇にうちゅっとキス……。
「!?」
思いきり体を引いたゾロはしたたか腰を手すりにぶつけて悶絶し、目撃したウソップは白目を剥いて甲板に落下した。

ドカッ×2

「な、なんだよいきなり!」
激怒したのはもちろんゾロだ。
慌てて飛び起きたウソップも「何事だ!?」とルフィを凝視。
「くちびる」
「唇……?」
「ゴムのおれとどっちがやわっけェかなぁと思ってよ」
そんなことでか、とゾロは頭を抱えるも疑問だらけですっきりしない。
「で、どっちだった?」
一応は聞いておく。
「おれ?」
疑問形だが、ほぼ確定だろう。確信を深めるべくゾロがウソップを見ると彼はこくんと頷き、
「まぁルフィだろうな。けどゴム関係あるか??」
体質の問題だろ、と真面目に答えた。
「体質??」
「ウソップが言いてェのは元々ルフィの方がおれより肉質が柔らけェんじゃねェかって話だ」
「えー!?おれだって筋肉あるのに!」
「筋肉も関係ねェだろ」
一蹴。要は男としてお子ちゃまかそうでないかなので。
「うー…」
ルフィは納得がいかないのか、なかなか認めようとしない。気持ちは解らなくもないが。
そこへウソップが話題を逸らせるべく、
「それよかルフィ、なんでゾロなんだよ」
「へ?」
「なんでゾロで試そうと思ったんだ?まぁナミで試すチャレンジャーはこの船にゃいねェと思うが……」
「おお、ナミはねェな。金持ってねェもんおれ。でもロビンじゃおれが背伸びしても届かねェだろ?チョッパーは唇ねェし、ウソップは鼻が邪魔だし」
「オイ」
「そんなわけだ!」
どーん。
「……コックは?」
ボソッと、なぜか聞きにくそうにゾロが問いただした。
それに「あ」と言うような顔をしたルフィは、
「忘れてた」
「それはラッキーだったなぁ、サンジ君……」
しみじみ頷くウソップは今、自分の鼻に感謝している。
「つーか聞いてきたのサンジだもんよ」
「コックが?」
「おう!ゴムの唇ってのは普通の人間のとどっちが柔らかいんだ?って」
「そんで?」
「キスして試してみようっつーから、そうだな!って。ゾロにちゅーしにきた」
「あんまラッキーじゃなかったのかなぁ、サンジ君……」
「コックの口車に乗せられなかったとこだけは称賛に値するぜ」
「無意識だけどな……。てかサンジのヤツ飢えすぎだろ!?」
「お前なんとかしろよ。船長に被害が及ぶ」
「人身御供か!!」
「二人で何コソコソ喋ってんだー?」
「一味のアッチの事情について」
「???」

そんなこんなの出来事も、幾多の冒険で忙殺され──。


2年後。


「ゾロ気をつけ!」
「……」

のろのろとだが、いきなりの船長命令にゾロが凭れていた手摺りから背を離し、当惑顔で言われた通り直立した。それでもゾロの持つ威圧感が損なわれることはなかったが。
「ビシッとしろ」
「……なんかデジャブを感じるんだが」
「おれもだ」
とは、今しがたゾロと談笑していたウソップ(いました)である。
今回も軽く二人をスルーしたルフィは、ゾロに「目ェ瞑れ」と次の指令。
「キスしてェのか?」
「まぁそうなんだけど……」
2年前と違って、某船長と某剣士はすっかり“そういう仲”なので、今回は不測の事態には陥らなかったようだ。
すかさず腰を抱いてきたゾロの腕をルフィはすげなくはたき落とし、
「おれがするんだ!」
言い出したら聞かないル(略)、ゾロは言われた通りに目を閉じた。
ルフィが納得いったようにニンッと笑うと、ゾロに体を寄せてくる。
ウソップ君は学習能力が高いので明後日を向いている。
うんせっ、とルフィが背伸びをして……。
「んしょ、ちきしょっ、と、届かねェ……!」
キスしようとタコ口を必死にゾロの唇に近付けるも、結果は顎にぶつかって終わった。
ちーん……。
「やっぱ届かねェじゃねェか!ゾロ伸びすぎだ!」
「伸びんのはお前の専売特許だろう」
「そんなラッキョは知らん」
「ラッキョじゃねェよ……」
「おいルフィ、今度は何を試してんだ?」
こいつらじゃ埒あかねェ、と渋々ながら本題を切り出してやるウソップだった。
「あぁいつかのアレの続きか。今度はなんつってコックの野郎にそそのかされたんだよ」
「そそのかされてねェ!ゾロにちゅーしにくくなったって言われたっつったら、じゃあお前もか?って」
「そんで?」
「背伸びしたら届く筈だ!つったらよ、もし届かなかったら唇伸ばしゃいいだろって」
「キスして試してみよう、って?」
「うんまぁ」
「まさかクソコックとも試したんじゃねェだろうな……」
「んなわけねェだろ!だからゾロんとこ来たんじゃんか」
「その成長は称賛に値するぜ」
「は~いゾロ議長、それは議長だけだと思われまーす!」
「とりあえず・エロ眉毛・斬る」
「まーまー待て待て。あれはサンジの発作のようなもんだろう?思い出したように船長にちょっかい出す病」
「病気はウソップだけで充分だ。責任取れ」
「何のだよ!!」
「だから二人だけで喋んな~~!」

「たく、しょうがねェなぁ」
肩を竦めたゾロが、ルフィをひょいと抱っこしてルフィの顔を自分の顔の位置に合わせる。
「ホラよ、キスしろ」
「にひゃひゃひゃ!」
結局、チュッチュし始めた二人をウソップ君は白~い目で見て、
「キミ達いちゃいちゃしたいだけなら他所でやってね……」
精神的にもすこ~し強くなった自分を自画自賛しつつも、同時に2年の変化を実感するわけであり。

この二人のいちゃいちゃとごたごたが、今や一味の切実な“アッチ事情”である。



(おわるとも)

1部2部混合でした。
すいませんしょうもなくてー!
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