19×17
ナミの故郷、ココヤシ村。
その村の療養所でゾロは全治2年と絶対安静を言い渡され、ベッドの上にいる。
と言ってもたくさん寝たので、もう治っていると自分じゃ思う。
さっさと抜糸をして貰いたいところだが……医者ってのはなかなか煩い。
動く度に傷が引きつれて痛いし痒い。そんなことを医者に言おうものなら「だったら大人しく寝てろ」と返ってくる、ため息しか出てこない。
医者だろうと他人に従うタチじゃないゾロは、腹筋や腕立てをしては怒られていい加減うんざりなのだ。
たまにやってくる見舞い客(仲間や気のいい村人達)や、一緒に入院中のヨサクとジョニーと雑談くらいはするが、紛れる時間はたかが知れていて。
正直、かなりのヒマを持て余しているところだった。
どうやら今日は村を上げての宴会をやるらしい。
早くもドンチャン騒ぎが聞こえてきている。
「酒のみてェ……」
もちろん、言っても無駄である。
「うまいメシがたっくさんあるんだ! おれが全部食ってやる」
そんな折りにやって来たのが今やこの村の救世主、そしてナミの人生を変えたと言っても過言ではない、麦わらの船長ことルフィだった。
お見舞いに来たぞーと、ゾロのベッド脇で嬉しそうに骨付き肉をもしゃもしゃ食っている。
「そりゃよかったな」
「ゾロも食うか?」
「いらん」
会話はてんで弾まない。
ルフィはゾロが野望を賭けて敗けたことにも、「もう二度と敗けねェ」と誓ったことにも、忘れたように触れてはこない。
あの「誓い」について今後この船長が持ち出すことはあるのだろうか。
忘れたならそれでも構わないが、ゾロはあんな惨敗した姿を目の前で見せても船長の自分に対する信頼が揺るがないことを、なぜか確信してしまっている。
ルフィはバカだし勝手だしめちゃくちゃだ。けれど一旦ふところに入れた者を決して諦めないし、疑わない。それがコイツの強さの根幹なのだと思った。
「ルフィ、ナミはおれ達と一緒に来んのか?」
「そりゃ来るだろ! あいつの居場所はおれがぶっ壊してやったからな」
「だったらこの村が居場所だろうが」
「えっ!!」
えって……。つまりはナミ次第と言うことか。
「そういやあのぐる眉コック連れてきたんだな……」
「無理やりじゃねェからな!?」
「んなこたぁ解ってる」
危険を承知でルフィの為に海へ飛び込んだサンジ。それがゾロを止める為でもあったことは気に食わないが、そんな男を仲間と認めないわけにいかない。
どうにも馬が合いそうにねェが……。
ルフィを知れば誰もが“希望”を見るのだろう。
“夢”を持つ者は、だからついて行きたくなる。
けれどゾロは別の目的も生まれ、ルフィが海賊王になるその瞬間をこの目で見届けたいと願っている。
「ゾロ包帯ぐるぐる巻きだなー」
「お前も肩んとこでっけーガーゼ貼ってんじゃねェか。苦戦したか? 途中で寝ちまったから解らん」
「あ、そういやあんときは放り投げて悪かったな!」
「全くだ」
二度とあんな交代の仕方ごめんだぜ、とゾロが悪態をついてもゲラゲラとルフィは笑うだけ。ちっとも反省している様子はない。
「おれはあちこち噛まれちまってよォ~」
と赤いベストをチラッと捲った腹に、白い包帯……。
「ふぅん」
──面白くねェ。
このもやもやした感情は嫉妬に似ている、気持ち悪い。
「ゾロもなんか食いに行こう!」
片方の頬袋を肉で膨らませてにこっと笑うルフィに、ゾロは己の欲を満たすべく顔を近付けると、口の動きを止めたルフィが目を閉じるなりその油でてかてかした唇にキスした。
時間にして、3秒。
離せばまたもごもごと口が動く。
ぱちり開いたでっかい目はなんのてらいもなくゾロを見て、ごっくんと飲み込むと、
「ゾロの口もう熱くなくなったな! だいぶ熱下がったんじゃねェ?」
「熱なんかねェよ」
「そうかぁ?」
「キスくらいでわかんのか?」
わかるぞ!と偉そうに言うルフィに自分はもう何度キスしただろうか。
初めてのときはよく解らないという風に瞬きしただけのルフィも、2度目はちゃんと目を閉じた。
3度目のキスでさっそく深いものに変え、ゾロの記憶が正しければルフィの口の中の方がよっぽど熱かったし、残念ながら酒味ではなかった。
今ではゾロが顔を寄せればルフィは素直に目を瞑る。
ゾロに、キスされるために。
「ゾロはよっぽど退屈なんだろ」
「否定はしねェよ。体が鈍りそうだ」
「おれにチューすんのはヒマつぶしか?」
「……その言葉は好きじゃねェ」
ヒマつぶし。あの鷹のような鋭い目をした男を思い出すから、とは女々しくて言わないが。それに、
「ヒマだからじゃねェ。なんでか解んねェがお前見てるとしたくなるんだ、しょうがねェだろうが」
「そっかしょうがねェな」
「……お前は?」
同情、ではないだろう。ルフィにそんな感情は似合わない。
だからって甘い感情があるとも思えない。
「ゾロと一緒だよ」
「……あ?」
「チューしたいからじゃん、ゾロと。不思議だな。不思議チューだ」
いや不思議ゾロか?と首を傾げるルフィはそれから自分の両手を見るなり食いもんなくなったー!と、それは悲壮感溢れる顔をした。
ハハハ、とゾロはその間抜け面に思わず大口を開けて笑ってしまう。
ルフィがぷうと頬を膨らませようが、面白いもんは面白い。
目が合って、今度はもう少し長めのキスをして。
二人で笑っていると、まだそう過去でもない昔を懐かしく感じた。
「楽しみだなぁゾロ、グランドライン!」
「そうだな」
あの最強の男が待つ海へ。もう“井の中の蛙”なんて言わせない。
うちの船長はいつだって前だけを見ているのだから。
余計なことは考えない、入る隙もない。
実にシンプルなのにどこか掴み所がなく、深みにハマるとなかなか抜け出せない。
「不思議なのはお前だな。不思議ルフィだ」
「はっ?」
とぼけた顔にまたゾロはくつくつと笑うも、ルフィという男は知れば知るほど面白いから。
「お前は……」
仲間達が同じ海を見ていてくれれば、それだけでいくらでも強くなれるんだろう。
ならおれは……?
「ゾロ?」
「もう治った。メシ食いに行くか? 酒がのみてェ」
「ホントか!? 行こう行こう!」
この鈍感な二人が情を交わし合うのはもう少し先の話しになるのだが……。
「おいヨサク、行っちまったぜアニキ達……。どうする、追うか?」
「見張ってろと医者に言われた手前……いややっぱあっしにゃあ無理よジョニー!」
「だ、だよなだよなァ! だってよ、あの二人はここここ」
「あぁ間違いなく恋人同士さァ!!」
「しーっしーっ。そいつァ恐らく紙一重で禁句だぜ相棒……!!」
早くもここに約2名、彼らのイチャイチャに当てられた絶賛勘違い野郎がいることなど、全く知る由もないのであった。
(ちーん)
色々台無しオチで失礼しました;
その村の療養所でゾロは全治2年と絶対安静を言い渡され、ベッドの上にいる。
と言ってもたくさん寝たので、もう治っていると自分じゃ思う。
さっさと抜糸をして貰いたいところだが……医者ってのはなかなか煩い。
動く度に傷が引きつれて痛いし痒い。そんなことを医者に言おうものなら「だったら大人しく寝てろ」と返ってくる、ため息しか出てこない。
医者だろうと他人に従うタチじゃないゾロは、腹筋や腕立てをしては怒られていい加減うんざりなのだ。
たまにやってくる見舞い客(仲間や気のいい村人達)や、一緒に入院中のヨサクとジョニーと雑談くらいはするが、紛れる時間はたかが知れていて。
正直、かなりのヒマを持て余しているところだった。
どうやら今日は村を上げての宴会をやるらしい。
早くもドンチャン騒ぎが聞こえてきている。
「酒のみてェ……」
もちろん、言っても無駄である。
「うまいメシがたっくさんあるんだ! おれが全部食ってやる」
そんな折りにやって来たのが今やこの村の救世主、そしてナミの人生を変えたと言っても過言ではない、麦わらの船長ことルフィだった。
お見舞いに来たぞーと、ゾロのベッド脇で嬉しそうに骨付き肉をもしゃもしゃ食っている。
「そりゃよかったな」
「ゾロも食うか?」
「いらん」
会話はてんで弾まない。
ルフィはゾロが野望を賭けて敗けたことにも、「もう二度と敗けねェ」と誓ったことにも、忘れたように触れてはこない。
あの「誓い」について今後この船長が持ち出すことはあるのだろうか。
忘れたならそれでも構わないが、ゾロはあんな惨敗した姿を目の前で見せても船長の自分に対する信頼が揺るがないことを、なぜか確信してしまっている。
ルフィはバカだし勝手だしめちゃくちゃだ。けれど一旦ふところに入れた者を決して諦めないし、疑わない。それがコイツの強さの根幹なのだと思った。
「ルフィ、ナミはおれ達と一緒に来んのか?」
「そりゃ来るだろ! あいつの居場所はおれがぶっ壊してやったからな」
「だったらこの村が居場所だろうが」
「えっ!!」
えって……。つまりはナミ次第と言うことか。
「そういやあのぐる眉コック連れてきたんだな……」
「無理やりじゃねェからな!?」
「んなこたぁ解ってる」
危険を承知でルフィの為に海へ飛び込んだサンジ。それがゾロを止める為でもあったことは気に食わないが、そんな男を仲間と認めないわけにいかない。
どうにも馬が合いそうにねェが……。
ルフィを知れば誰もが“希望”を見るのだろう。
“夢”を持つ者は、だからついて行きたくなる。
けれどゾロは別の目的も生まれ、ルフィが海賊王になるその瞬間をこの目で見届けたいと願っている。
「ゾロ包帯ぐるぐる巻きだなー」
「お前も肩んとこでっけーガーゼ貼ってんじゃねェか。苦戦したか? 途中で寝ちまったから解らん」
「あ、そういやあんときは放り投げて悪かったな!」
「全くだ」
二度とあんな交代の仕方ごめんだぜ、とゾロが悪態をついてもゲラゲラとルフィは笑うだけ。ちっとも反省している様子はない。
「おれはあちこち噛まれちまってよォ~」
と赤いベストをチラッと捲った腹に、白い包帯……。
「ふぅん」
──面白くねェ。
このもやもやした感情は嫉妬に似ている、気持ち悪い。
「ゾロもなんか食いに行こう!」
片方の頬袋を肉で膨らませてにこっと笑うルフィに、ゾロは己の欲を満たすべく顔を近付けると、口の動きを止めたルフィが目を閉じるなりその油でてかてかした唇にキスした。
時間にして、3秒。
離せばまたもごもごと口が動く。
ぱちり開いたでっかい目はなんのてらいもなくゾロを見て、ごっくんと飲み込むと、
「ゾロの口もう熱くなくなったな! だいぶ熱下がったんじゃねェ?」
「熱なんかねェよ」
「そうかぁ?」
「キスくらいでわかんのか?」
わかるぞ!と偉そうに言うルフィに自分はもう何度キスしただろうか。
初めてのときはよく解らないという風に瞬きしただけのルフィも、2度目はちゃんと目を閉じた。
3度目のキスでさっそく深いものに変え、ゾロの記憶が正しければルフィの口の中の方がよっぽど熱かったし、残念ながら酒味ではなかった。
今ではゾロが顔を寄せればルフィは素直に目を瞑る。
ゾロに、キスされるために。
「ゾロはよっぽど退屈なんだろ」
「否定はしねェよ。体が鈍りそうだ」
「おれにチューすんのはヒマつぶしか?」
「……その言葉は好きじゃねェ」
ヒマつぶし。あの鷹のような鋭い目をした男を思い出すから、とは女々しくて言わないが。それに、
「ヒマだからじゃねェ。なんでか解んねェがお前見てるとしたくなるんだ、しょうがねェだろうが」
「そっかしょうがねェな」
「……お前は?」
同情、ではないだろう。ルフィにそんな感情は似合わない。
だからって甘い感情があるとも思えない。
「ゾロと一緒だよ」
「……あ?」
「チューしたいからじゃん、ゾロと。不思議だな。不思議チューだ」
いや不思議ゾロか?と首を傾げるルフィはそれから自分の両手を見るなり食いもんなくなったー!と、それは悲壮感溢れる顔をした。
ハハハ、とゾロはその間抜け面に思わず大口を開けて笑ってしまう。
ルフィがぷうと頬を膨らませようが、面白いもんは面白い。
目が合って、今度はもう少し長めのキスをして。
二人で笑っていると、まだそう過去でもない昔を懐かしく感じた。
「楽しみだなぁゾロ、グランドライン!」
「そうだな」
あの最強の男が待つ海へ。もう“井の中の蛙”なんて言わせない。
うちの船長はいつだって前だけを見ているのだから。
余計なことは考えない、入る隙もない。
実にシンプルなのにどこか掴み所がなく、深みにハマるとなかなか抜け出せない。
「不思議なのはお前だな。不思議ルフィだ」
「はっ?」
とぼけた顔にまたゾロはくつくつと笑うも、ルフィという男は知れば知るほど面白いから。
「お前は……」
仲間達が同じ海を見ていてくれれば、それだけでいくらでも強くなれるんだろう。
ならおれは……?
「ゾロ?」
「もう治った。メシ食いに行くか? 酒がのみてェ」
「ホントか!? 行こう行こう!」
この鈍感な二人が情を交わし合うのはもう少し先の話しになるのだが……。
「おいヨサク、行っちまったぜアニキ達……。どうする、追うか?」
「見張ってろと医者に言われた手前……いややっぱあっしにゃあ無理よジョニー!」
「だ、だよなだよなァ! だってよ、あの二人はここここ」
「あぁ間違いなく恋人同士さァ!!」
「しーっしーっ。そいつァ恐らく紙一重で禁句だぜ相棒……!!」
早くもここに約2名、彼らのイチャイチャに当てられた絶賛勘違い野郎がいることなど、全く知る由もないのであった。
(ちーん)
色々台無しオチで失礼しました;