19×17

「首んとこどうしたんだ?」
シュビ、と指を差したのはウソップで、指された首筋を見ようと首をみよ~んと伸ばしたら「怖いからやめろー」と言われ、ちぇっと頭を元の位置に戻したのがルフィだ。

地下のウソップ工房にて。
何やらトンカチでトンテンカン、と開発中の狙撃手を暇~な船長がひやかしに来た、そんな場面で。
「なんかなってるか?」
ルフィがでかい目をぱちぱちして聞いた。
「青くなってるぞ」
「あおー??」
「最初は赤かったんじゃねェかな。そういうの時間が経つと青アザみたいになるだろ?」
とか言われても、ルフィには全くピンとこない。
首を90度に曲げながら眉根を寄せれば、ウソップはあーだから~とルフィにでも解る説明を考え始めた。
生傷の絶えないルフィではあるけれど、首筋のあんな柔らかい部分に点、と蒙古斑のような青アザを作っているのをウソップは初めて見た気がする。
「どっかに挟んじまったり、打ったり、あとはそうだな、何かに吸われたり?」
「んー、おれそんくらいじゃ大して痛くもねェし……」
ゴムだから。とお決まりの台詞。
「だよな、う~ん。でも打撲にしちゃ小せェしどっかに挟むにしても場所が不自然か……」
う~~ん。
「でもあるんだよな? どこら辺?」
「ここ」
ツン、とつっついたところにルフィがペタリと掌を当てた。
「不思議アザ?」
「いやいやいや……。あ、知ってるかルフィ。それほっとくと茶色くなってくんだぜ、青の次は」
「マジで!?」
「おう。どういう仕組みなんだか知らねェけどな」
あとでチョッパーにでも聞いてみよう。覚えてたらだけど。
「赤になって青になって茶ぁ? 忙しいアザだなー」
「そういう問題かよ……」
呆れるウソップにしかしルフィがハッとして、
「あー!!」
とひときわ大きな声をあげるので、臆病者ウソップくんは1メートルほど飛び上がった。
「ビビった……。思い出したのか?」
「あ~今朝のだ。痛かったんだ~~」
「痛かった……」
ゴム人間のルフィが?
「思いっっきり吸い付かれてよ、ぢゅうう~~って」
「ぢゅうう……」
何に?
「ゾロにさぁ」
「ゾロ……」
ゾロに? 吸い付かれたのですか? 首筋を!?
「……ははーん。解ったぞ。ルフィ、なんかやってゾロ怒らせたんだろう。ルフィにゃ言っても無駄だもんな~。ゾロってあれで短気だし?」
「いーや逆だな、逆」
「は? ルフィが怒ってたのか?」
「違ェ! 今朝のゾロはな、おれにでろでろにあま~い感じで、ほいでもってぎゅーぎゅーしてくるし、めちゃめちゃしつっこいし、朝っぱらからちょー激しかったんだ!!」
どーーん。
「………この話を聞いてはいけない病が」
誰かぁー!!
「おれのやったチョコが甘すぎたせいかな??」
「チョ、チョコぉ?」
「うんうんチョコ! 今日はそういう日なんだってサンジ言ってたぞ? 今朝サンジがすんげ~~うまそうなチョコいっぱい作っててよ、なんでって聞いたら、サンジの生まれた島では男が好きな子にチョコあげてアイを誓い合う日なんだと!」
「ヘェー。そんでチョコかぁ」
「おれもサンジにもらったんだ、チョコ」
「サンジはルフィが好きだってことか!?」
「なわけねェだろ! サンジはナミとロビンにやるんだってよ。おれには試食のやつをくれた!」
「そういうことか。……いや待て、その試食チョコをゾロに食わせたのか!?」
「んーにゃ。おれんだもん」
「当然ゾロにも言ったんだよな、サンジに聞いた話……」
「言った」
「そりゃお前、ゾロくんは色々勘ぐっちまって腹いせにそんなキスマークを……」
「キスマーク??」
「あ、いや、だってそうとしか!」
今度はウソップの顔が赤くなってそれから青くなった。
ところが「でも待てよ?」と首を捻ると、通常の茶に戻る。
おお。ウソップもおれのキスなんとかとおんなじだー!とか、ルフィが呑気に眺めていると。
「ルフィ、ゾロにチョコやったって言わなかったか?」
「やった! サンジに教えて貰って自分で作ったやつ!」
えっへーん。
無駄に胸を張る船長様はだって、本当に本当に大変だったのだ。
チョコを湯で溶かしたら怒られ、湯の温度を間違ったら怒られ、型からはみ出したら怒られ……。
その辺の苦労と食べたい誘惑をゾロに切々と語ったら、ゾロはしばらくぽかーんとして、でもちゃあんと全部食べてくれた。嬉しかった。
そっからはもうなんつーか、ゾロの視線も口調も言葉も態度も、おれに触れてくる手も甘くて甘くて、とにかくトロトロに甘くて……まるで口ん中のチョコを溶かすみたいに、ゆっくり味わってでもたまらずかじっちゃって、でもでも後味まで余すとこなく楽しむように丹念に丁寧に、且つ激しく求められてしまった。
もちろん、全力で応えたルフィなわけで。

今まで食ったどのチョコよか今日のゾロは甘かったんだよなぁ~…。

と、ルフィが今朝のゾロメモリーを振り返っていると、目の前のウソップがポーンと手を打った。
「やっと謎が解けたー!! すっきりした~」
なるほどそりゃ喜んじまうよなぁゾロの奴。
とウキウキしているウソップは一体なにがそんなに楽しいのか、ルフィには残念ながらさっっぱり解らなかった。


「ゾロー! 起きたかっ?」
昼寝から起きたゾロを襲撃するのはルフィで、ふわわぁと大あくびで逞しい両腕を挙げたのはゾロだ。
ぽかぽか陽気の芝甲板。
ルフィがその膝に乗っかっていけば、ムギュウと抱き締めてきた剣士がルフィの肩に顎を乗っけてくる。
「ねみぃ……」
「ゾロは寝過ぎだ」
「おれは夜中トレーニングして今朝はお前抱いたから寝不足なんだ」
「アホだなアホ!」
「うっせェよ……。あ、ルフィまだ甘い匂いすんなぁ。まぁお前はいつでもどこ舐めても甘ェけどよ」
言いながら、ルフィの首筋をすんすん嗅ぐゾロに「おれは甘くねェ」と一応訂正。
「それよかここ見ろゾロ! キスなんとかだ!」
「……やっべ、青くなってんじゃねェか。吸いすぎたかすまん……。お前アトつけてもすぐ消えちまうから油断した」
「そうなんか? 知らんかったー」
ビックリ眼のルフィに「おれしか知らねェんだから当然だ」と、得意げなゾロもやっぱり男前であまあまだった。

その後、ゾロといちゃいちゃしているルフィのところへニヤニヤ顔のウソップがやってきて。

「今日はセントバレンタインズデーなんだってよ!」

と、教えてくれた。



(From Your Valentine!)
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