19×17
突然ゾロの両手がルフィの顔を挟み込んで来て、ルフィは反射的に目を瞑った。
けれどその長い指は輪郭を確かめるようにムニムニと動くだけで。
「???」
当惑しきりのルフィが目をぱちりと開くも、相棒の剣士は無表情で何を考えてるのやら、ややして手を離すとルフィの温まっていた肌がひんやり外気に触れた。
「丸顔は肉食なんだとよ」
ぽつり、言ったゾロの言葉がさっきの行動のすべてだった。
お前は丸顔だから肉食だな、と、そんなことをクソ真面目な顔で言うのだ。
今夜は、先に風呂から上がった方が後から上がった方を図書館で待つ、と約束していて、ずいぶん前に風呂に入ったゾロはルフィを長々待っていてくれた。
ウソップとフランキーと地下で遊んでいたら、すっかり遅くなったのだ。清潔性など重視しない海賊家業、他二人は風呂にも入らず寝てしまった。
いつものルフィならその先頭を切ったろうが、今日は昼間、ゾロと喋っていたら「しよう」って話になって……つまり、えっちを。
備え付けのベンチに座っていたゾロの隣へ腰を下ろした風呂上がりのルフィは、ゾロが本を閉じ脇へ置くのを何の本かなぁと思ってひょいと覗いたのだけれど、伸びてきたゾロの両手に阻止され慌てて目を閉じた、というわけだった。
ちゅう、すんのかな、と思って。
なのに肉食って……? おれがか!?
「そりゃー肉は大好きだけども……」
なんとなくバツの悪いルフィは肉食ってそういう意味だよな?と首を捻るも、ゾロはゆるりと首を振って「そっちの肉じゃねェ」とか言うからびっくり。
「肉じゃなかったらなんなんだ!?」
「肉欲?」
「肉……よく?」
「性的欲求のことだな。つまり性欲」
「せ……っ」
その意味ならルフィでも知っていた。目の前の剣士にさんざん示され、受け止めてきたモノだったから。
要するにキスしたいとか、抱き締めたいとか、触りたいとか舐めたいとか、出したり出させたりして気持ちよくなりたいとか……そう言う意味の欲、でいいんだよな?
「それってよ、おれがすっっげーえっちって意味か?」
「まぁそうなるな」
「ゾロは丸顔じゃねェぞ?」
「細顔は草食。つーか何が言いてェんだ、肉食はおれだって?」
「だってそうじゃん。ゾロのがぜってーえっちだろ?」
「何でそう思うんだよ」
「自分でわっかんねェのか、ゾロはダメだな。ダメダメだー」
「ダメダメ言うな」
「おれはなぁ、男なんだよ!」
えっへん、無駄に胸を張る。
「知ってる。見てるし触ってるし」
「ほ、ほらみろっ」
「照れてんのか? やめとけ可愛いだけだ」
「おめーは可愛い言うな! ゾロは男でも女でもどっちでもいいんだ。肉食もいいとこだ!!」
どーんと言い切ったらゾロの形のいい眉が片方、ひくりと上がった。
「どっちでもよくねェし、おれはもうお前にしか勃たねェぜ?」
「……!!」
絶句したルフィの脳裏にゾロのナニがナニした状態がリアルに浮かび、俯く。何思い出してんだおれ、何ってゾロのナニだけど(落ち着け)。
払拭できない記憶の中のゾロの形や色や大きさや、自分のナカにあるときの硬さや熱までもが鮮明に浮かんで……。
「ルフィ?」
「!?」
知らず知らず、体の芯に火が灯る。顔赤いかも。カッコ悪い。
一旦思い出したらゾロの欲の塊が急激に欲しくなってきて、ドクン、ドクンと鼓動が早く強く打ち始めるのを抑えられなかった。
あああホントだ、おれはえっちだ……。
「何が不満だよ」
ムス、と拗ねた魔獣がルフィの顔を上げさせ、ルフィはブルブルと頭を振る。
「ない! 不満なんか……。おれ、キモチイイしっ」
なななに言ってんだ、キモチイイとか。
ルフィはゾロを何でも食いまくる肉食に違いないと、そんな印象を持っていた。だけど本当は草食だったのか。
しかも、またまたルフィがびっくりするようなことを言い出したのだ。
「そんならよ……男に抱かれてるお前の方が、よっぽどどっちでもいいんじゃねェ?」
「へ!?」
やけに真摯な顔。怒っているような、だけど愁いでいるような、それでいて縋るような。
「男のくせにおれに抱かれてんじゃねェか」
「……ゾロだからだろ!!」
残念ながら、そう残念ながら、
「だっておれゾロにしか欲情しねェもんっ」
「なんだ、一緒か」
「ん?? …そいやぁ一緒だな」
改めて確認する必要、あったかってくらい。
いやたまには必要なんだよな……?
自分たち人間には、言葉があるのだから。
「抱いていいか、船長?」
「ゾロにだけ許す!」
「そいつは光栄だ」
引き寄せられ、今度こそキスされる。
股間の熱い塊を握られて「やっぱ肉食だな」と笑われたけれど、「そのおれを食ってるゾロはじゃあ何なんだ」と問えば、
「おれが肉食でなくて何だっつーんだよ」
と不遜な顔で言われ、今度はルフィがちょっと笑った。
後日。
ゾロが読んでいた本を開いているロビンを図書館で見つけ、何が書いてあるんだとルフィが問うと、
「肉食動物と草食動物の違いについて。肉食獣は獲物の肉をひきちぎって飲み込んでしまうのよ、船長さんは知っていて? まるであなたのようね」
フフッと笑うので、むうっと口をヘの字に曲げた。
なんだよやっぱしそっちの「肉食」であってたんじゃねェか……。
「だから肉食は丸顔なんだろ」
「あら、よくご存知ね」
「じゃあ草食動物は細顔なんだよな?」
おれんこと食いまくってるゾロは細顔だけど、酒飲みだしやっぱ草食じゃねェと思う。
「そうよ。顎関節が前に突き出ていて、横に動くんですって。詳しく知りたいなら船医さんにでも比較解剖学の観点から説明してもらっては?」
「いや、いい。ゾロめ……」
「……剣士さんがどうかしたの?」
「とっちめに行く!!!」
ダッシュで図書館を飛び出していったルフィにロビンはキョトンと切れ長の目を瞬くも、
「船長さんみたいな丸顔の人を『出たとこ勝負で根拠のない自信を持つ肉食タイプ』って言うけれど、その通りかもしれないわね」
またフフッと笑ったのだが、当の本人は知る由もない。
(おしまい)
肉食3段活用。
オチにオチをつけるのはうちの仕様ですね……。
けれどその長い指は輪郭を確かめるようにムニムニと動くだけで。
「???」
当惑しきりのルフィが目をぱちりと開くも、相棒の剣士は無表情で何を考えてるのやら、ややして手を離すとルフィの温まっていた肌がひんやり外気に触れた。
「丸顔は肉食なんだとよ」
ぽつり、言ったゾロの言葉がさっきの行動のすべてだった。
お前は丸顔だから肉食だな、と、そんなことをクソ真面目な顔で言うのだ。
今夜は、先に風呂から上がった方が後から上がった方を図書館で待つ、と約束していて、ずいぶん前に風呂に入ったゾロはルフィを長々待っていてくれた。
ウソップとフランキーと地下で遊んでいたら、すっかり遅くなったのだ。清潔性など重視しない海賊家業、他二人は風呂にも入らず寝てしまった。
いつものルフィならその先頭を切ったろうが、今日は昼間、ゾロと喋っていたら「しよう」って話になって……つまり、えっちを。
備え付けのベンチに座っていたゾロの隣へ腰を下ろした風呂上がりのルフィは、ゾロが本を閉じ脇へ置くのを何の本かなぁと思ってひょいと覗いたのだけれど、伸びてきたゾロの両手に阻止され慌てて目を閉じた、というわけだった。
ちゅう、すんのかな、と思って。
なのに肉食って……? おれがか!?
「そりゃー肉は大好きだけども……」
なんとなくバツの悪いルフィは肉食ってそういう意味だよな?と首を捻るも、ゾロはゆるりと首を振って「そっちの肉じゃねェ」とか言うからびっくり。
「肉じゃなかったらなんなんだ!?」
「肉欲?」
「肉……よく?」
「性的欲求のことだな。つまり性欲」
「せ……っ」
その意味ならルフィでも知っていた。目の前の剣士にさんざん示され、受け止めてきたモノだったから。
要するにキスしたいとか、抱き締めたいとか、触りたいとか舐めたいとか、出したり出させたりして気持ちよくなりたいとか……そう言う意味の欲、でいいんだよな?
「それってよ、おれがすっっげーえっちって意味か?」
「まぁそうなるな」
「ゾロは丸顔じゃねェぞ?」
「細顔は草食。つーか何が言いてェんだ、肉食はおれだって?」
「だってそうじゃん。ゾロのがぜってーえっちだろ?」
「何でそう思うんだよ」
「自分でわっかんねェのか、ゾロはダメだな。ダメダメだー」
「ダメダメ言うな」
「おれはなぁ、男なんだよ!」
えっへん、無駄に胸を張る。
「知ってる。見てるし触ってるし」
「ほ、ほらみろっ」
「照れてんのか? やめとけ可愛いだけだ」
「おめーは可愛い言うな! ゾロは男でも女でもどっちでもいいんだ。肉食もいいとこだ!!」
どーんと言い切ったらゾロの形のいい眉が片方、ひくりと上がった。
「どっちでもよくねェし、おれはもうお前にしか勃たねェぜ?」
「……!!」
絶句したルフィの脳裏にゾロのナニがナニした状態がリアルに浮かび、俯く。何思い出してんだおれ、何ってゾロのナニだけど(落ち着け)。
払拭できない記憶の中のゾロの形や色や大きさや、自分のナカにあるときの硬さや熱までもが鮮明に浮かんで……。
「ルフィ?」
「!?」
知らず知らず、体の芯に火が灯る。顔赤いかも。カッコ悪い。
一旦思い出したらゾロの欲の塊が急激に欲しくなってきて、ドクン、ドクンと鼓動が早く強く打ち始めるのを抑えられなかった。
あああホントだ、おれはえっちだ……。
「何が不満だよ」
ムス、と拗ねた魔獣がルフィの顔を上げさせ、ルフィはブルブルと頭を振る。
「ない! 不満なんか……。おれ、キモチイイしっ」
なななに言ってんだ、キモチイイとか。
ルフィはゾロを何でも食いまくる肉食に違いないと、そんな印象を持っていた。だけど本当は草食だったのか。
しかも、またまたルフィがびっくりするようなことを言い出したのだ。
「そんならよ……男に抱かれてるお前の方が、よっぽどどっちでもいいんじゃねェ?」
「へ!?」
やけに真摯な顔。怒っているような、だけど愁いでいるような、それでいて縋るような。
「男のくせにおれに抱かれてんじゃねェか」
「……ゾロだからだろ!!」
残念ながら、そう残念ながら、
「だっておれゾロにしか欲情しねェもんっ」
「なんだ、一緒か」
「ん?? …そいやぁ一緒だな」
改めて確認する必要、あったかってくらい。
いやたまには必要なんだよな……?
自分たち人間には、言葉があるのだから。
「抱いていいか、船長?」
「ゾロにだけ許す!」
「そいつは光栄だ」
引き寄せられ、今度こそキスされる。
股間の熱い塊を握られて「やっぱ肉食だな」と笑われたけれど、「そのおれを食ってるゾロはじゃあ何なんだ」と問えば、
「おれが肉食でなくて何だっつーんだよ」
と不遜な顔で言われ、今度はルフィがちょっと笑った。
後日。
ゾロが読んでいた本を開いているロビンを図書館で見つけ、何が書いてあるんだとルフィが問うと、
「肉食動物と草食動物の違いについて。肉食獣は獲物の肉をひきちぎって飲み込んでしまうのよ、船長さんは知っていて? まるであなたのようね」
フフッと笑うので、むうっと口をヘの字に曲げた。
なんだよやっぱしそっちの「肉食」であってたんじゃねェか……。
「だから肉食は丸顔なんだろ」
「あら、よくご存知ね」
「じゃあ草食動物は細顔なんだよな?」
おれんこと食いまくってるゾロは細顔だけど、酒飲みだしやっぱ草食じゃねェと思う。
「そうよ。顎関節が前に突き出ていて、横に動くんですって。詳しく知りたいなら船医さんにでも比較解剖学の観点から説明してもらっては?」
「いや、いい。ゾロめ……」
「……剣士さんがどうかしたの?」
「とっちめに行く!!!」
ダッシュで図書館を飛び出していったルフィにロビンはキョトンと切れ長の目を瞬くも、
「船長さんみたいな丸顔の人を『出たとこ勝負で根拠のない自信を持つ肉食タイプ』って言うけれど、その通りかもしれないわね」
またフフッと笑ったのだが、当の本人は知る由もない。
(おしまい)
肉食3段活用。
オチにオチをつけるのはうちの仕様ですね……。