19×17

「ルフィ、キスしていいか?」
陽気もいいことだし、と。
理由にはならないとは思うが剣士は単刀直入に聞いてみた。

「なんかわかんねェけどいいぞ?」
「……なんかわかんねェ?」
「わからん! わりィかよ!」
なぜか逆ギレ船長だ。
「別に悪いとは言ってねェだろ」
「だって、なんだよそれ……きす? 何するんだ」
「あーだから、」
「おう」
「こう口をな……」
と顔を近づけたら、ルフィの被っている麦わら帽子のつばにデコが当たってしまい、
「ちょっとすまん」
両手で丁重に(一応船長の宝物だと知っているので)後ろへ外した。
帽子はルフィの鎖骨あたりで紐の結び目が引っ掛かって、背中にぶら下がる形になる。すると見上げてくる表情がよく見える。
ぱち、ぱち、とルフィが不思議そうな顔で大きな瞳をしばたたいた。
それから首をゾロから見て右にかしげるので、ゾロはやや左に頭の角度を傾け、更に顔の間合いを詰める。
「ゾロなに…」
たぶん、何すんだと続いたんだろう唇を、自分の唇で塞いだ。
お互い超至近距離で見詰めあってから唇を離すと、ゾロは素知らぬ顔で「これがキスだ」と教えてやった。
「んー」
とか言いながらルフィが自分の唇を人差し指と親指で摘んだ。
そしてぺちんと離して、
「口と口くっつけたらキスしたことになるのか? ゾロ珍しいこと知ってんだなぁ」
「珍しくねェよ。それにキスすんのは口だけに限らねェ」
「え、ほいじゃあさ!」
今度はピンと背筋を伸ばしたルフィが、ゾロのほっぺたに唇をくっつけてきた。
本当にただくっつけるだけのそれがキスと呼べるかどうか怪しいが、本人がキスだと思えばそういうことになる。
「これもきす!?」
「おう」
「これも!?」
と次はおでこ。
「ああ」
「これも……、これもか!?」
鼻の頭と、反対側のほっぺたに。
「ちょ、ちょっと待て。おれがしてェんだよおれが!」
「あそっか~わりィわりィ!」
本当に悪いと思ってるか、と問いたくなるような爽やか笑顔の船長にゾロはちょっと犬歯を剥くも、すっかり自分の膝に乗っかっていたルフィの細腰を掴まえる。
それから膝に跨がらせ座らせると、片手だけでその肩を抱き込んで。
しかしキスする前にひとつ、注意事項を。
「キスしてる間は目ェ閉じろ」
「……お、おお」
不敵に口角を釣り上げる相棒に少々気圧されてか、なんとなく大人しくなったルフィにゾロは遠慮することなく、さっきとは全く違う本格的なキスを仕掛けた。


夕食時──。

テーブルに並べられたメインディッシュが「キスのフライ」だと聞いたとたん、顔を真っ赤にしてしまった船長にゾロ以外が「世にも珍しいものを見た!」と度肝を抜かしたのだが、その真相を知るのはもちろんゾロのみである。



(おしまい)

よっぽどすごいのをされたんだと思います(笑)
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