21×19
つんつんつん、つんつくつん。
「あのォ~~、それ、やめてもらえませんかねェ~~?」
麦わらの一味の船長が、う◯こ座りして棒を持って、つんつん突っついてくるのにいい加減イライラし始めたカリブーが、控えめにボソボソ訴えた。
まだぐるぐる巻きに括られた状態なので怒らせたら面倒なことになるだろうからと、下手下手に出てみたものの、
「なんで?」
と首を傾げられ、内心ブチブチ切れまくる。
「なんでっておめェ~~!! おれ様は見世物小屋の珍獣じゃ――」
「なにやってんだ船長、そんなとこでさっきから。一人でこんな奴んとこ来んじゃねェよ」
「あ、ゾロ!!」
げェ! まァた出やがったな、ロロノア・ゾロ……!!
ロロノアの言う通り、せっかく一人でのこのこお気楽顔した船長が来ちゃったもんで、さっそく一人消しておくかと思ったのによォ……。
「そんな臭そうなのに近寄るな、腐るぞ」
「だってコイツの顔おんもしれェんだもん」
面白いたァなんなのよ、面白いたァ!!
今に見てろォ、隙を狙っておめェら全員ブゥチ殺してやるからなァ……!! ケへへへ!!
しかしカリブーはこのあと、麦わら一味最大の秘密を目の当たりにしてしまうのである。
「ほらこっち来い、ルフィ」
隻眼の剣士が、麦わらのルフィの二の腕を掴んで軽々と引っ張りあげ、あっさり腰を抱いた。
その様子にカリブーは「ん?」と首を捻る。
明らかに雰囲気がおかしい……。
それから剣士は船長の首筋に高い鼻先を突っ込んで、
「匂い移ってねェだろうなァ」
くんくん嗅ぎ出したのだ。
「うひゃひゃ! うひゃ! くすぐってェよゾロ!! わはははっ」
「じっとしてろ」
「う~……おれ臭ェ?」
「いや、なんかいい匂いするぜ。なんだこりゃあ?」
「あ、この服マーガレットに作ってもらったからな、まだ女ヶ島の匂い残ってんじゃねェかな? あの島女だらけだったからな~~」
「マーガレット……?」
「友達だ! これでも一番最初に作ってくれたのよかマシなんだって。最初のなんかお花のついたフリルでよォ……ありゃ参った!」
「花? フリル? 着たのか……?」
「うん、まぁ……」
「ぶっ…ハハハ!」
「あー笑うなよォ! ゾロひでェ!」
「お前も苦労したんだな。けど良かったじゃねェか、絶世の美女とやらと一緒にいたんだろう?」
「美女??」
「まァいい。みんなんとこ戻るぞ」
「あっ待て、おれの棒」
「雰囲気のいい棒なんざほっとけ。今夜じっくりおれの握らせてやっから、な?」
「ゾロの? て……?」
「たく、女ヶ島でどんな修行してたんだよ。相変わらずニブいなァウチの船長さんはよ」
「ゾロまでサンジみたいなこと言うなっ」
ぷくうりほっぺを膨らませたルフィに、ゾロがくつくつ笑う。
「まぁそりゃ冗談だ。そんな修行してくるわけねェのは聞かなくても解る。あのクソコックもただの負け惜しみだ」
「ふうん?」
「それよか……」
と、ゾロがルフィの左頬の傷にちゅっとキスすれば、ルフィがゾロの首っ玉に抱きつき「お返し!」と左目の傷にキスした。
絶賛あまあま空気を醸し出し始めた二人に、カリブーがガコーンと顎を外し目玉を飛び出しているとも知らず。
こ、こ、こりゃあどういうこったァ~~!!?
今にも唇を合わせそうな船長と剣士に恐る恐る「あのォ~~」と声を掛けたら、「お前の存在忘れてた」と麦わらのルフィにさらり言われ、ガックリ。
しかァし……。おれァ知っちゃったのよォウ~~!!
こりゃあスゲーネタ仕入れちゃったんじゃねェのォ!?
「今のってェ、下ネタですよねェロロノアさん~? 実は麦わら一味の船長とその右腕は、できちゃっていたとォ!?」
ケへへへ!! これをネタに脅せば……。
「てめェ、今の自分の立場解って言ってんのか? あァ?」
ギン、とロロノア・ゾロに睨み付けられ、カリブーはヒィィと竦み上がった。
しィまったァ~~!! 忘れてた!!
「い、いや嘘ですっ!! 冗談です冗談~~!! むしろ応援しようと思いましてェ……はい、神に誓って!!」
ゴマをすりすり、下品な悪人面で愛想笑いした。
が、しかし。
「おれァ神なんざ信じてねェ」
チャキッとこれ見よがしに愛刀の刃を見せつけてくる剣士に、しょんべんチビるかと……。
「すすすいませんでしたってばよォウ~~!! もう何も言いませんからァ~~!!」
「いい心掛けだが、口封じしとくのも悪くねェよなァ?」
にやり。
わわわ悪いですゥ~~っ!!
「ゾロォ、もーいいじゃんそんな奴。ぎゅーは?」
「…おう。ちっ、ルフィに救われたな」
とカリブーを一瞥してから、剣士がぎゅうっと船長を抱き竦めた。
細っこい麦わらのルフィなど、ロロノア・ゾロの腕の中にすっぽりイン。
お、おめェさん達ィ~……。
それから目の前でイチャイチャし始めた二人にカリブーは爪先だけをどうにか動かし、後ろを向いて。
触らぬ神に祟りなし……くわばらくわばら。
ところがハァ~とため息を吐いてふと前を見たら、麦わらの船長がまたう◯こ座りしてこっちをじとぉ~っと見ていたのである。
「!! なななんでしょうかァ!?」
「お前、乗り込んできたときゾロんことじっと見てただろ……」
ギロっとでっかい目を上目使いに睨み付けてくるではないか。
その迫力たるや、失神寸前……。
「え、いや、それはっ」
「アイツはおれんだからなっ! やんねェぞ!!」
いらねェよォ~!!と思ったカリブーだったが、頭がちぎれる勢いでコクコク頷いておいた。
「よし!」
立ち上がったルフィがにっこぉり、きらめくような笑顔を振り撒く。
キラキラキラ☆
て、天使!?
いやいやそんなバカなァ!!
本物の“麦わらのルフィ”って、こんなにカワイ~子さんだったのォ……?
「ゾロ待てよー!」とか言いながら一味の船長がテケテケ剣士に向かって走っていく。
振り返った剣士にジャンピングハグ、そしてすりすり。
おお神よ――。
海にはまだまだ摩可不思議なことがたくさんありますゥ~…。
(お粗末!)