21×19

左胸に重みを感じ、ゾロは惰眠に落ちようとしていた片目をうっそりと開けた。
「船長、水遊びは終わったか?」
芝の甲板の木陰、今日はとりわけ暑い日だったが、木の葉のざわめきを聞きながらゴロリと横になって、一寝入りしようかと思っていたところだった。
「……」
「なんで無言なんだよ」
いつもなら機関銃のようにウソップがあーだチョッパーがこーだとしゃべりまくるくせに。
ゾロが自分の胸に視線を向ければ、すぐそこにルフィの麦わら帽子のてっぺんが。残念ながらその表情はうかがい知れない。
海パンいっちょのプールあがりの素肌がぺったりとくっついてきて、ひんやりしてキモチイイ。
うっかりまた睡魔に誘われながら、冷たい小さな肩をゾロはさすった。

「おれ、お前らすきだ」
「おう」
「いつもみたいにナミに怒られて、サンジのうまいメシ食って、ウソップの面白れぇホラ聞いて、チョッパーがおれのために新しい薬作ってくれて、ロビンに珍しい話しいっぱい聞いて、フランキーの最新兵器にワクワクして、ブルックの新曲一緒に歌って、だからおれは……泣きそうになった」
「ルフィ…」
「そんでいちばん近くにゾロがいたんだ。船長命令とか聞いてくれてこーやってまたくっつけんの、スゲースゲー嬉しいのに……。おれ、泣きそうになった」
「……」
今度はゾロが無言になってしまう。気の利いた台詞ひとつ思い浮かばない。
一味が勢揃いしたのだと実感した瞬間の、船長の弾ける笑顔と、ボロボロ泣き出したあの泣き笑いの顔を、ゾロは一生忘れないと思う。
ゾロの腰に巻き付いていたルフィの手が上がって、自分の掌を見つめている。
その手がわずかに震え始め……ゾロは咄嗟にそれを握りしめた。
同時に細い肩を抱き寄せて冷たい体をさらに密着させる。
「少し眠れルフィ。くたくただろう?」
「うん。水ん中だからさ、カラダ重くって……そんで、ゾロが気持ちよさそうに寝てんの見てたら、急に…眠たくな…て……」
すーすーと寝息を立て始めたルフィに、ゾロは幾分かホッとして、麦わらを取ってやると傍らに置いた。
湿り気を帯びた黒髪に頬を押し当てればそこもまだひんやりと冷たく、なぜだか、どうしようもない気持ちにさせられる。

「お前の傷はおれたちが消してやる」

消せない傷はあるけれど。
おれたち仲間が、……ここにいるおれが。

この火照った体で、お前の冷えた体を徐々に徐々に熱が浸透するように、この想いの丈でいつかその傷ついた追悼の記憶を塗り替えてみせる──。



(end)
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