21×19

「なァ、ジンベエ~」
「何じゃいルフィ君」

共に並んで仰向けに寝そべっているルフィに声を掛けられ、ジンベエは閉じていた目を開けた。
地上と変わらぬ真っ青な空。
地上と変わらぬ大地の上。
けれどここは魚人島で、今、二人を繋ぐものは友情だけでなくこの細く真っ赤な管である。
出血多量で意識不明だったルフィの体内へと、血液型の適合したジンベエがその血液を分け与えている最中。
魚人から、人間へ。
それは長きに渡るこの国の偏見や確執といったものをいつか完全に取り去り、本物の太陽の下、人間との共存共栄への道の礎となるに違いない。

「これって一応、血の繋がり? おれジンベエの息子になるか?」
その大業をやってのけた若干19歳の海賊が、暢気な声音で頓珍漢な質問をするのにジンベエは声を立てて笑った。
「そりゃあないわい。わしはまだ嫁も貰うとらんのに子供などいらん。特にルフィ君のような親に心配ばかり掛けそうな息子はなァ」
「えェー! おれジンベエみたいな父ちゃん欲しかったぞ?」
「お前さんの父親は確か……」
史上最悪の犯罪者と呼ばれる革命家ドラゴン。
運命の荒波はこの先、どんな風にこの子を呑み込んでゆくのだろう。
いつか仲間として支えてやりたい、そう思わせる逸材。
ジンベエがチラとルフィの方に目をやれば、
「ローグタウンで会ったんだと」
他人事のように返答したルフィは自分の傍ら、こちらに背を向けて胡座を掻いている剣士の広い背中を眺め、ホッと安堵したように目を細めた。
この二人、どうやら特別な関係らしい。
視線を感じて振り返った剣士がルフィに顔を向け、しかしジンベエを何か言いたげに見やるも、決まり悪気に逸らしてその視線はやはり船長へ。
例え片方だけだろうと、深くも熱いその眼差しはルフィへの想いの丈を雄弁に語っている。
刀を握る武骨な指がルフィの長い前髪をかきあげ……どうやら空気を読まない二人は勝手にあまあまムードに突入したようで、身を屈めた剣士の唇がルフィのそれに触れる寸前、ジンベエは不覚にも赤くなった顔をそっぽ向けた。

もし……もしもの話じゃが。
わしがルフィ君の父親で、その息子に好いた人がおって、紹介なんぞされたら……?

『お父さん! ルフィ君を僕に下さい!!』
『父ちゃ~んおれゾロと結婚するぞ~~vv』

「!? ゴホゴホゴホ!!!」
「ジンベエ!? 大丈夫か? おお~いチョッパー!」
「だ、大丈夫じゃすまん! ちょっとありえん想像を……うぅぬ」
「??」
「わしとしたことが……」
早くも麦わらの一味に毒され始めたか。
いやいやわしにはまだやらねばならんことが山程……。

「おいルフィ、これ以上ハードル上げんじゃねェよ。挨拶して回るおれの身にもなれ」
「???」
「じゃから息子はいらんとさっきから……。はっはっは……」

ルフィの勧誘を即諾するつもりはないものの、彼らのラブラブオーラに自分は堪えられるんじゃろうか?と今から心配なジンベエさんであったとか。


(ちーん…)
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