21×19
「ゾロに好きだって告白しようと思ってんだけどよー、フラれねェ為にはどうすりゃいいと思う?」
「お前はなんでそれを本人に聞くんだ……」
アホなのか? 知ってたけど。
つーか、誰だコイツにろくでもねェこと吹き込みやがったのは。
おれは今、船長ルフィに「一人で甲板に来い」と呼び出され、何かやらかしちまったかと戦々恐々来てみれば、こんなおかしなことになって困惑している。
「だって本人に聞くのがいちばん手っ取り早ェじゃん」
「そりゃそうだが。告白する前にバレバレじゃねェか。ここで『おれは好きじゃねェ』つったら即終了だぞ?」
「だから! それを言われねェ方法を教えてくれよ! 本人なんだから知ってるよな!?」
「滅茶苦茶だ……。いや好きか嫌いかと問われりゃ好きだが、フルとどうなるんだ? おれに船を降りろと?」
「なななんでそんな大袈裟な話になるんだ!? ダメだぞ絶対! フッても降りるな! いやフルな!!」
「なら船長命令だとでも言えばいい」
「それはなんかずりぃ気がする」
「お前にもモラルあったんだな……」
「なんか失敬な印象だな」
「フラれねェ方法か……うーむ」
なんでおれがこんなことで悩まなきゃならねェんだ、と理不尽に思うも、ルフィの悲しい顔は確かに見たくない。かと言って「おれもだ」と答えて一体何が始まるのだろう。
こんな恋愛音痴の二人で……?
「なんか良い案あったか!?」
「いや全く思いつかねェ」
「え~、じゃあおれはフラれるのかァ……」
「だいたいなんでフラれる前提なんだよ」
「おれ男だもん」
「お前にそんなモラル──」
「それもういいよっ!!」
「……ルフィ、一つ聞くが」
「うん」
「告白が成功した暁にはおれと何がしてェんだ? キスとかセックスか」
「ギャーっ!? 何言ってんだお前まずはデートだろ!」
「いつまでも清い交際なんざしてられねェだろうが、恋人ならその先がある」
「そ、そういうもんか?」
「多分な。よく知らんが」
「じゃあする。ゾロとチューもエッチもする。だからおれんことフラねェ……?」
上目遣いで問われ、思わず「わかった」と頷きそうになったがなんとか踏み止まった。あっぶね……。
「それじゃおれが体目当てみてェじゃねェかよ。却下だ」
「はぁー!? もうなんなんだよ~! おれはどうすりゃいいんだ!?」
「困ったな……。とりあえず告白を諦めるってのはどうだ?」
よし名案だ。もうこれしか現状維持はあり得ない。
「イヤだ。待てねェ。すぐがいい!」
「こ……こンのわがまま船長……っ」
知っちゃいたが、こんな時でもわがまま全開で埒があかない。こうなるとルフィはテコでも動かない、予想はしていたが。
「5分後に告白するから今すぐ惚れろ」
「予想外のこと言ってきやがった……!!」
ルフィって人種ナメてた……!!
「どうだ!? 出来そうか!?」
「あのなルフィ、それ以前におれァお前のことは世界で一番大事なんだから、それでいいだろうが」
「……ん?」
「何があってもてめェを信じるし、四皇レベルが千人いようが味方だし、窮地になりゃあ命懸けで守る。そして絶対おれ達は出会ったあの日の約束を果たす!」
「……おれが海賊王で、ゾロが大剣豪?」
「そうだ。それだ! なにか不服でも!?」
「あ、ありません!! けどおれ、今すげぇ顔が熱ィ……なんで?」
「は? ……!?」
あ、あのルフィが、真っ赤になって俯いてしまった。
何事だ、なぜだ、そんなまずいことを言った覚えはねェんだが!?(自覚なし)
「あらあらゾロォ、真っ昼間から熱烈な愛の告白ですこと。どうしちゃったのー?」
「プロポーズかしら、大胆ね。ふふっ」
「おれだったらやーだね、そんなムードもへったくれもねェ告白! これだから脳筋は。けっ!」
「どっから湧いて出やがったテメェら……(ゴゴゴゴ)」
魔女に暗黒女にエロガッパだ。最悪な誤解をされたようだ。
「おれも聞いちまったぜ~ゾロ! 新たな誓いでも立ててんのかァ!? ひゅ~ひゅ~」
「ゾロかっこよかったぞォ!! さすがだなっ」
「ウソップとチョッパーまで!? 一体どうしちまったんだお前ら……なんか変じゃねェか!?」
揃いも揃ってニタニタと気味が悪い。嫌な予感しかしない。
チラリとヘルプの目線をルフィに送ったが、当人は首を傾げてきょっとーんとしている。助け舟を出す相手を間違えた。ここはアダルトコンビを召喚するしか……。
「オーオー、そこは見て見ぬふりすんのが大人の気遣いってもんだァ。アウッ」
「ヨホホホ。そうですよ皆さん。ささゾロさん、お続けになってください! どうぞー!」
「お前らもかァァァ!!」
「あ、違うぞみんな! ゾロはおれに告白してねェぞ!」
けどようやくルフィが仲間の誤解に気づいたようで、割って入ってくれた。
「ルフィの言う通りだ。おれ達はただ仲間としての話をしてただけで……」
「おれが今からゾロに告白すんだよ!!」
どーん!
しまったそっちは違わなかった……!!
ざわざわするクルー達。そりゃそうだろう、もう帰りたい(どこへ)。
「ま、待てルフィ! 今はヤメロ」
「なんで? 5分経ったからおれ言うぞ」
「は!? 頼む言うな、考え直してく──」
「おれは! ゾロが! 大っっ好きだァ!! ゾロは!?」
「ゾロはー!?」
「!? な、何でお前らまで……!」
期待に顔をキラッキラさせているルフィ船長と。
多分はじめから二人のやり取りを見ていて、大好きな船長の味方についたクルー達。
その仲間達が笑顔のルフィの背後から鬼気迫る顔面で「わかってるよなァ!?」と言わんばかりの圧をじりじり、じりじり仕掛けてくるから……。
「……………おれも好きだ」
「やったァ~~っ!!」
がばちょ!と飛びついてきたルフィをおれは難なく抱っこしつつ、世界はやはりルフィのいいように回るのだ、と実感せずにいられなかった。
その後──
無理やりデートとやらをさせられているおれとルフィは、二人きりで船内をぐるぐる周遊中である。ただ手を繋いで甲板を歩いているだけだけど。
つーかまんまとしてやられた……あいつらの圧に勝てなかった。
「おれもまだまだだぜ……フゥ」
「ししし! 楽しいなデート!」
「これが? ブランコでも乗るか? 押してやるぞ」
「うん。でももうちっと歩いてから」
「そうか……」
「ゾロはさ、あいつらに圧されて好きだって言っちまっただけなんだよな」
「気付いてたのか……わりぃ」
「なにが?」
「お前の求める好きかどうかまだわからん」
「うん実はおれもだ!」
「はい!?」
「でもいいじゃんかそれで! もう始まっちまったんだもん」
おれ達は、とルフィがやたら綺麗に笑うので、おれはそれを否定しなかった。
コイツとその答えを見つけていくのもまた、面白ェと思えたから。
「本当にいいんだなルフィ、気持ちが後でも」
「別にいいぞ? 体目当てでも」
「そっちじゃねェ! つーかダメだろ!」
「なっははは! だってゾロ『好き』よりスゲェこといっぱい言ってくれたもんなぁ~。おれは嬉しかった!!」
「本心なんだから仕方ねェだろ……」
「おう、ありがとう!」
「……どういたしまして」
顔を見合わせ、くふくふ笑う。
まぁ乗りかかった船だ、ルフィが飽きるまで付き合ってやろう。
「あ、そうそう! 3回目のデートでチューなんだと! サンジが言ってた」
「あのバカ余計なことを……。いいかルフィ、おれ達にはおれ達のペースってもんがあってだな、」
「ほんじゃおれブランコ乗るー!」
「聞けェェ!!」
駆け出すルフィに、おれはやれやれと肩をすくめるもニヤリ、いつも見ているその細い背中を追った。
事の主犯はアイツとアイツ辺りだろう……けど機嫌のいいルフィに免じて、ここは目を瞑ってやることにする。
***
「うまくいってるようだよナミさん、初デート! ブランコとかガキのデートかって感じだけどアイツらには似合いだ」
食堂の丸窓から甲板を覗き、ほくそ笑む本船コック。
「全くもう、ルフィもゾロも鈍っっくてホンット世話がやけるわよね~。仲介料を請求したいくらいよ」
紅茶で一息、本日の立役者(=犯人)。
「いやぁ策士なナミさんも素敵でしたー♡ ルフィを自覚させてゾロにぶつけるなんて」
「でもまだまだ気は抜けないわよサンジ君!? なにせあの二人だから!」
「はぁい! んナミさぁぁん♡♡」
サニー号上空、恋の雷注意報発令中につき──
ハートのしびれにご注意下さい♡(天才航海士ナミより)
(おしまい)
「お前はなんでそれを本人に聞くんだ……」
アホなのか? 知ってたけど。
つーか、誰だコイツにろくでもねェこと吹き込みやがったのは。
おれは今、船長ルフィに「一人で甲板に来い」と呼び出され、何かやらかしちまったかと戦々恐々来てみれば、こんなおかしなことになって困惑している。
「だって本人に聞くのがいちばん手っ取り早ェじゃん」
「そりゃそうだが。告白する前にバレバレじゃねェか。ここで『おれは好きじゃねェ』つったら即終了だぞ?」
「だから! それを言われねェ方法を教えてくれよ! 本人なんだから知ってるよな!?」
「滅茶苦茶だ……。いや好きか嫌いかと問われりゃ好きだが、フルとどうなるんだ? おれに船を降りろと?」
「なななんでそんな大袈裟な話になるんだ!? ダメだぞ絶対! フッても降りるな! いやフルな!!」
「なら船長命令だとでも言えばいい」
「それはなんかずりぃ気がする」
「お前にもモラルあったんだな……」
「なんか失敬な印象だな」
「フラれねェ方法か……うーむ」
なんでおれがこんなことで悩まなきゃならねェんだ、と理不尽に思うも、ルフィの悲しい顔は確かに見たくない。かと言って「おれもだ」と答えて一体何が始まるのだろう。
こんな恋愛音痴の二人で……?
「なんか良い案あったか!?」
「いや全く思いつかねェ」
「え~、じゃあおれはフラれるのかァ……」
「だいたいなんでフラれる前提なんだよ」
「おれ男だもん」
「お前にそんなモラル──」
「それもういいよっ!!」
「……ルフィ、一つ聞くが」
「うん」
「告白が成功した暁にはおれと何がしてェんだ? キスとかセックスか」
「ギャーっ!? 何言ってんだお前まずはデートだろ!」
「いつまでも清い交際なんざしてられねェだろうが、恋人ならその先がある」
「そ、そういうもんか?」
「多分な。よく知らんが」
「じゃあする。ゾロとチューもエッチもする。だからおれんことフラねェ……?」
上目遣いで問われ、思わず「わかった」と頷きそうになったがなんとか踏み止まった。あっぶね……。
「それじゃおれが体目当てみてェじゃねェかよ。却下だ」
「はぁー!? もうなんなんだよ~! おれはどうすりゃいいんだ!?」
「困ったな……。とりあえず告白を諦めるってのはどうだ?」
よし名案だ。もうこれしか現状維持はあり得ない。
「イヤだ。待てねェ。すぐがいい!」
「こ……こンのわがまま船長……っ」
知っちゃいたが、こんな時でもわがまま全開で埒があかない。こうなるとルフィはテコでも動かない、予想はしていたが。
「5分後に告白するから今すぐ惚れろ」
「予想外のこと言ってきやがった……!!」
ルフィって人種ナメてた……!!
「どうだ!? 出来そうか!?」
「あのなルフィ、それ以前におれァお前のことは世界で一番大事なんだから、それでいいだろうが」
「……ん?」
「何があってもてめェを信じるし、四皇レベルが千人いようが味方だし、窮地になりゃあ命懸けで守る。そして絶対おれ達は出会ったあの日の約束を果たす!」
「……おれが海賊王で、ゾロが大剣豪?」
「そうだ。それだ! なにか不服でも!?」
「あ、ありません!! けどおれ、今すげぇ顔が熱ィ……なんで?」
「は? ……!?」
あ、あのルフィが、真っ赤になって俯いてしまった。
何事だ、なぜだ、そんなまずいことを言った覚えはねェんだが!?(自覚なし)
「あらあらゾロォ、真っ昼間から熱烈な愛の告白ですこと。どうしちゃったのー?」
「プロポーズかしら、大胆ね。ふふっ」
「おれだったらやーだね、そんなムードもへったくれもねェ告白! これだから脳筋は。けっ!」
「どっから湧いて出やがったテメェら……(ゴゴゴゴ)」
魔女に暗黒女にエロガッパだ。最悪な誤解をされたようだ。
「おれも聞いちまったぜ~ゾロ! 新たな誓いでも立ててんのかァ!? ひゅ~ひゅ~」
「ゾロかっこよかったぞォ!! さすがだなっ」
「ウソップとチョッパーまで!? 一体どうしちまったんだお前ら……なんか変じゃねェか!?」
揃いも揃ってニタニタと気味が悪い。嫌な予感しかしない。
チラリとヘルプの目線をルフィに送ったが、当人は首を傾げてきょっとーんとしている。助け舟を出す相手を間違えた。ここはアダルトコンビを召喚するしか……。
「オーオー、そこは見て見ぬふりすんのが大人の気遣いってもんだァ。アウッ」
「ヨホホホ。そうですよ皆さん。ささゾロさん、お続けになってください! どうぞー!」
「お前らもかァァァ!!」
「あ、違うぞみんな! ゾロはおれに告白してねェぞ!」
けどようやくルフィが仲間の誤解に気づいたようで、割って入ってくれた。
「ルフィの言う通りだ。おれ達はただ仲間としての話をしてただけで……」
「おれが今からゾロに告白すんだよ!!」
どーん!
しまったそっちは違わなかった……!!
ざわざわするクルー達。そりゃそうだろう、もう帰りたい(どこへ)。
「ま、待てルフィ! 今はヤメロ」
「なんで? 5分経ったからおれ言うぞ」
「は!? 頼む言うな、考え直してく──」
「おれは! ゾロが! 大っっ好きだァ!! ゾロは!?」
「ゾロはー!?」
「!? な、何でお前らまで……!」
期待に顔をキラッキラさせているルフィ船長と。
多分はじめから二人のやり取りを見ていて、大好きな船長の味方についたクルー達。
その仲間達が笑顔のルフィの背後から鬼気迫る顔面で「わかってるよなァ!?」と言わんばかりの圧をじりじり、じりじり仕掛けてくるから……。
「……………おれも好きだ」
「やったァ~~っ!!」
がばちょ!と飛びついてきたルフィをおれは難なく抱っこしつつ、世界はやはりルフィのいいように回るのだ、と実感せずにいられなかった。
その後──
無理やりデートとやらをさせられているおれとルフィは、二人きりで船内をぐるぐる周遊中である。ただ手を繋いで甲板を歩いているだけだけど。
つーかまんまとしてやられた……あいつらの圧に勝てなかった。
「おれもまだまだだぜ……フゥ」
「ししし! 楽しいなデート!」
「これが? ブランコでも乗るか? 押してやるぞ」
「うん。でももうちっと歩いてから」
「そうか……」
「ゾロはさ、あいつらに圧されて好きだって言っちまっただけなんだよな」
「気付いてたのか……わりぃ」
「なにが?」
「お前の求める好きかどうかまだわからん」
「うん実はおれもだ!」
「はい!?」
「でもいいじゃんかそれで! もう始まっちまったんだもん」
おれ達は、とルフィがやたら綺麗に笑うので、おれはそれを否定しなかった。
コイツとその答えを見つけていくのもまた、面白ェと思えたから。
「本当にいいんだなルフィ、気持ちが後でも」
「別にいいぞ? 体目当てでも」
「そっちじゃねェ! つーかダメだろ!」
「なっははは! だってゾロ『好き』よりスゲェこといっぱい言ってくれたもんなぁ~。おれは嬉しかった!!」
「本心なんだから仕方ねェだろ……」
「おう、ありがとう!」
「……どういたしまして」
顔を見合わせ、くふくふ笑う。
まぁ乗りかかった船だ、ルフィが飽きるまで付き合ってやろう。
「あ、そうそう! 3回目のデートでチューなんだと! サンジが言ってた」
「あのバカ余計なことを……。いいかルフィ、おれ達にはおれ達のペースってもんがあってだな、」
「ほんじゃおれブランコ乗るー!」
「聞けェェ!!」
駆け出すルフィに、おれはやれやれと肩をすくめるもニヤリ、いつも見ているその細い背中を追った。
事の主犯はアイツとアイツ辺りだろう……けど機嫌のいいルフィに免じて、ここは目を瞑ってやることにする。
***
「うまくいってるようだよナミさん、初デート! ブランコとかガキのデートかって感じだけどアイツらには似合いだ」
食堂の丸窓から甲板を覗き、ほくそ笑む本船コック。
「全くもう、ルフィもゾロも鈍っっくてホンット世話がやけるわよね~。仲介料を請求したいくらいよ」
紅茶で一息、本日の立役者(=犯人)。
「いやぁ策士なナミさんも素敵でしたー♡ ルフィを自覚させてゾロにぶつけるなんて」
「でもまだまだ気は抜けないわよサンジ君!? なにせあの二人だから!」
「はぁい! んナミさぁぁん♡♡」
サニー号上空、恋の雷注意報発令中につき──
ハートのしびれにご注意下さい♡(天才航海士ナミより)
(おしまい)