21×19

海賊歓迎の町、というどこかで聞いたキャッチフレーズにゾロは顔をひきつらせた。
ナミもそうだったのか、サニー号を着岸したはいいものの、嫌ぁな予感に半目状態である。
その島に立ち寄ったのは食糧確保のためだったが、この島もかつて訪れたあのサボテン島のように賞金稼ぎがうじゃうじゃいたりするのだろうか……。
別に海賊狩りが怖いわけでも面倒なわけでもない、ゾロにはいい思い出とは到底言えない記憶があるから、なのだ。
ルフィと生死を賭けた大喧嘩になった時の──。
しかも、ルフィの誤解だったので不意打ちを喰らいマジで死ぬとこだった。
もちろんそんな記憶なんか微塵も残っていないだろう船長ルフィは、さっきから「メーシ!メーシ!!」とうるさくて、しかし「調達するだけだからルフィは残ってろ」とコックに留守番言い渡されガガーンとなっている。
それでも「いやだ!」と飛び出そうとするのをナミが神業の早さでもって首根っこつかんだのは、恐らくサンジと同じ理由ではなく、
「アンタはゾロと留守番!!」
かつてこの二人について行って赤っ恥をかいた上に苦汁を飲んだ記憶が蘇ったからに違いない。
「ケチィ~~!!」
「だって騒ぎを起こされてもただ殴られてるアンタ達を見るのも二度とごめんだもの」
例のジャヤの一件だ、やはり。
「つーかおれも留守番かよ。別行動ならいいんじゃねェか? ルフィを行かせてやっても……」
「ナミ、留守番なら私が──」
「ゾロもロビンも甘いっ!!」
「喧嘩なんかしねェってナミィ~。それに見ろよ、あの横断幕。『海賊歓迎の町』なんだと! なんか人が集まってきたし、こっちに手振ってるぞ!?」
ルフィがおお~い!と手を振ると下からきゃあああと黄色い声が上がった。
「キーッタオ島へようこそ~~!!」
バリバリ全開の歓迎モードだ。軽くデジャヴ。
「アウッ! 海賊歓迎ってのは本当のようだなァ、変な島もあったもんだぜ。ん~~スーパー!!」
「賞金稼ぎの皆さんじゃないでしょうね……」
「なんか手にパネル持ってますよナミさん。メッセージですかね?」
「なんだありゃ!!」
そこへ、頭の上のスコープで集まってきた島民達を見ていたウソップが、何やらすっとんきょうな声を上げた。
「なんだなんだ?」とチョッパーが駆け寄る。

「ルフィだ!!」

「おれならここだぞウソップ」
「違う! みんなルフィのパネルとかうちわとかのぼり持ってんだよ! あ、ちらほらとゾロやサンジのも……。男どもはナミとロビンだな。げっ、子供がチョッパーのぬいぐるみ抱いてるぜ!?」
「はぁぁ!? なにそれ、キモッ」
ナミがブルブル震えて自分の腕をさすると、
「何かの罠か……?」
サンジは訝りながらタバコを噴かせた。
しかし例の黄色い声達が、
「ルフィちゃ~~ん!!」
「こっち向いてこっちー!!」
「きゃールフィ様ぁ♪」
「ルッフィ~~!!」
とか、どっかのアイドルと間違えてねーか的な声援を送ってくるので、全員の頭の上にハテナマークが浮かぶ。
「なになにどういうこと!?」
「なんだぁアイツら。おれの名前知ってるぞ?」
「それは知ってるでしょうね。船長さんは3億もの賞金首で、結構名が知れてるから。フフッ」
「おれって有名人なのかロビン!? なはははー!!」
「喜ぶなっ」
スパァン、とナミ&ウソップの裏拳がルフィの後頭部にWヒット。
「ぶへっ」
下ではまた「ルフィちゃんが笑ったー」だの「ツッコまれてるー」だの、きゃいきゃいしている。
「麦わらブームなんじゃねェか? この町は」
「フランキーはあの町を知らないからそんな暢気な発想できるのねえ。ふぅ……」
「あの町ってのは?」
「町一つ賞金稼ぎの巣! だから歓迎してるってわけ」
「そ、そいつぁクレイジーだな……」
しかし、黄色い声が野太い声に代わり、
「おい見ろよあれ! あそこにいるの泥棒猫のナミだぜ!? 生の方が断然美人だよなァ~」
「お近づきになりてェー!!」
男達からのあつ~い視線を寄せられ、
「オホホホ! 気に入ったわこの島!!」
ばーん。
ナミは「お前な」と白い目を送るクルー達をよそに、すっかりご機嫌を直したのであった。

その後、ロビンに少し調べて貰ったところによると、ここは本当に海賊マニアが徒党を組む風変わりな島で、町が一つあるだけの小ぢんまりした孤島らしい。ログは数時間で貯まってしまう。
そしてさっきのフランキーの予想はまるきり外れていなかったらしく……。
現在、この町は空前の『麦わらのルフィ』ブームなのだそうだ。

ちーん……。


「まった、因果な島に来ちまったもんだぜ……」
やれやれとゾロは首の裏に手をやった。
そんなこんなでルフィは外食を許可され、ファン避けのゾロ、迷子防止のチョッパーと共に町を徘徊にやってきている。
これなら首を狙われた方がマシだったんじゃねェのか、とゾロが忌々しく感じるくらいの追っかけの数がかなり鬱陶しい。
そして町の至るところには、ルフィの手配書ポスターがでかでか貼ってあったり、等身大パネルが置いてあったり、ゴムゴムのルフィ風船なんかが配られていたり。
店先では生写真まで売っていて、一体どこで入手したのやら、ルフィが喧嘩中のやら食べてるのやら昼寝してる(!?)のやら、プライベートでレアなお写真が何枚も……。
「おいおい。こっちが訴えらんねェと思ってやりたい放題じゃねェか?」
行きすぎるとムカついてくるゾロだ。
「あ、アレ見ろルフィ!」
「ん?」
チョッパーの指差す方をルフィとゾロも見てみると、とある店のショーウインドウにはミニチュアルフィが飾られていた。
「ルフィのフィギュアだぞっ! すっげーなぁ、かっこいいなー!」
「えー? そうか? おれなんかヤダ……。お、チョッパーとゾロのもあるじゃんか」
「ほ、ほんとだァ! うう、嬉しくなんかねェぞコノヤロがっ」
くねくねくね。
「めちゃくちゃ嬉しそうだな……」
それにしてもこの町のオタクっぷりはどうなんだ。
他にも『麦わらのルフィ』が商品化されているものはたくさんあり、お菓子のパッケージやドリンク、アイス、文房具などなど、笑顔のルフィがばーんとプリントされているのだ。本屋には「麦わらのルフィ徹底解析」なる本まで……。
どうやらブームになった海賊商品でこの島の経済は回っているようだった。
「ルフィの経済効果どんだけだよ……!」
「ん~~。ゾロフィギュアはちょっと欲しいけど、似てねェ」
当のルフィはそんな不気味なことを言いやがるし。
「お前まで戦略にハマるんじゃねェぞルフィ。つーか、どっかのゾンビと似てた呼ばわりするてめェにフィギュアの出来なんかわかんのか?」
「失敬だな! それとこれとは別だっ」
どう別なんだ、とゾロは思ったがツッコまずにおいた。
実は、さっきからルフィファンの連中を威嚇して歩くのになかなか忙しいのだ。
船を降りた時には全員が、特にルフィがサイン攻めにあって蹴散らすのに苦労した。なんだあの図々しさ。
今も後ろにはぞろぞろと女子がついて来ているし、いくつかの男の舐め回すような視線も気になった。
「メシ屋はどこかな~♪」
ルフィは気付く風でもなくコロリとまた頭をメシペースに戻している。
ちなみに、町をぷらぷら歩いている生ルフィを目撃したファン達の反応だが。
「麦わらのルフィだ! 本物か!? 近くで見るとほっせェ~~」
「きゃーっ生ルフィちゃん可愛いーvv」
「おめめ大きいよねっ。すっごく可愛いんですけど!」
「ほんと可愛い可愛い!!」
「マジ可愛いんだな……。つかなんかエロっちー」
「バカそれ言うな! シンパに絞められんぞ!? まぁでも、やっぱりいいよな、本物は……」
とかとかとか。

「可愛い……?」

いい加減、ルフィの耳にも届いた“可愛い”の評価に本人がむっつり唇をとんがらせた。
「おれ可愛くねェよな? な、ゾロ。ゾロはどう思う? アイツら変だよな!?」
「あーまぁ……」
ぶっちゃけ、麦わら帽子を被ったデカ目で頬に傷アリのルフィは、そうやって首を傾げる仕草とかがめちゃくちゃ可愛い。
が、ゾロは敢えて「変だよな」と当たり障りのない部分の本心だけを同意。
しかし、問題はこの後、女子の中にゾロの追っかけも混じっていたことにあったのだ。
「ロロノア・ゾロかっこいいー!」とか「ルフィの相棒なんだよ、イケメンだよね!」とか「男前すぎる~vv」とハートを飛ばすその内容がどうも、
ルフィ→可愛い
ゾロ→カッコイイ
にきっぱり別れていることがルフィの逆鱗にあっさり触れた。
「おれだってカッコイイがいい!! ゾロのバカ!!」
「んなことくらいで怒んな! バカだろてめェ」
「もういい。ゾロはおれの半径3メートル以内に入るの禁止」
「はい!?」
それでも「帰れ」とか「別行動」と命令しないのはルフィもゾロの迷子が心配だからだ。
「け、喧嘩はやめろよォ。ルフィ、ゾロ~」
「チョッパーはゾロについてろ。おれは一人でかっこよく歩くんだ!」
かっこよく歩くってどんな歩き方だ…と辟易するゾロ&チョッパーの心知らず、ルフィがずんずんと一人で前を歩き始めてしまったのだ。
途端に子供にタッチされたり、女の子に「一緒に写真撮ってくださぁい」とフラッシュ攻めにあったり、「テレビ局の者ですが取材を……」とか、果ては男にナンパされたりですっかり困り顔になっている。
「ほらみろ言わんこっちゃねェ」
ルフィは人気者の自覚がなさすぎる。
ナミに島民には手を出すなと言われている手前、無下にはできないけれどルフィには邪魔くさくてしょうがなかった。
「こらこら肌引っ張んな!」
「わーホントに伸びる~」
なんでここまで平気だったんだ?と首を捻るルフィである。それがゾロの牽制のおかげだったとは、思いもよらない鈍さなのだった。

そして、とうとうそれが災いする事件が起こってしまう──。


「チョッパー、ルフィから目を離すなよ? おれはルフィに誰かが絡む前に威嚇すっから」
「よしきたっ」
ピコピコとチョッパーが自由奔放なルフィに付かず離れずついていく。
ゾロは、色紙握りしめて団体で押し寄せる男女の前に立ちはだかり、ギロリ睨みを利かせて阻止するのに大忙しとなる。
そんなことをやっている間にルフィが角を曲がってしまい、チョッパーがこっちこっちと手招きしていた。
背後の連中に「ついてくんじゃねェぞ」とドスを利かせ、釘を刺せば「はいィ~」とすっ飛んで逃げるのを見届け、急いで踵を返す。
しかし角を曲がったところでチョッパーがオロオロしているのに、何事だとその目線の先を追えば……。

「えっ、ホントか!? 肉ご馳走してくれんのか!?」
ルフィが屈強な男5人に囲まれ、顔をキラキラしているではないか。
チョッパーがタジタジするだけの極悪人相揃いでとても堅気には見えない(ゾロもだが)。
当然ルフィは屁とも思っていないようで、
「お前らいい奴だな~」
とか明らかな胡散臭さに気付く様子もなく、ニッコニコと笑顔を振り撒いてやがるから、カッチーン……。
んな奴らに笑うな! と怒鳴り付けたいのをゾロは必死に耐え、「ルフィこっち来い!」と叫ぶもゾロを見たルフィは、
「アッカンベーだっ!!」
「て、てめ……」
あとでぜってー斬ってやる!!!
「行くぞ麦わら、こっちだ」
「おう!」
「おれらアンタの強さに惚れちまったのさァ。こんなとこで会えるなんて今日は最良の日だぜ!」
「そーかそーか。くるしゅーない!」
「やっべ可愛いなァ~。ヒヒヒヒ」
「ムッ、可愛いって言うな……」
「すっすいませんっ。ささ、こちらへ! リーダーがお待ちかねでさァ!」
「メシメシ~~!!」
まんまと手を引かれて連れて行かれるのだった。
迂闊に近づいたら逃げるかと思い二の足を踏んでいたゾロだったが、そろそろ我慢も限界だ。
「ルフィ!! 3メートルの約束は反故にするぞ! そこで待っとけ!!」
ゴゴゴゴゴ……。
「ゲェッ。ゾロが怒ってる! あいつ本気で怒らすと怖ェんだよな……。なーなーお前ら、ゾロとチョッパーも一緒にいいか? ──おわ!?」
「ル、ルフィ!?」
それはあっという間の出来事だった。
奇しくもゾロの目の前で、ルフィが頭から黒い網をバッサリ被せられ、男どもに担ぎ上げれたのだ。
「ギャー! ルフィが捕まったぁああ!!」
パニクるチョッパー。
「ルフィてめェ! なにボヤボヤしてんださっさとそんな網……! て、まさか」
「ジョロォ~~おれ力入んねェよぉ~~」
すたこらさっさーと運ばれていくルフィの「たしけて~」と言う気の抜けた声が、みるみる内に遠ざかっていく。
「海楼石の網……!!」
ゾロはちっと舌打ちし、猛然とあとを追った。
しかしキュキュっと止まり、
「チョッパー! みんなに知らせろ! おれは近道だ……!!」
「よしき……え、近道!? そっちにかーァ!!?」
明後日の方向に向かって走っていくゾロに目ン玉飛び出したチョッパーに気付く由もなく、ゾロは疾風のごとく町を駆け抜けるのだった。



「なぜだ……。アイツらを回り込んだ筈だったんだが」
ゾロは盛大に迷っていたが、本人にその自覚はない。
「ルフィどこだ……!!」
海楼石さえなければルフィの敵ではないが、ただでさえナミとの約束もあるし分が悪すぎる。
あの男達のニヤけた顔を思い出す度、ムカムカと腹の奥底に気持ちの悪いものが込み上げてくる。
奴らの目的はリンチや海軍への引き渡しではないだろう。明らかにルフィへの性的な暴行だと憶測すると、ゾロはいてもたってもいられないのだ。
「おれ以外の男に触らせるなんざ死んでもご免だぜ……! ルフィ~~っ!!」
さっきから声の限りに呼んでいるのだが、ルフィからの応答は全くなかった。
それからどのくらい町をさ迷ったか……自分を引き留める声が聞こえ、ゾロがハッと振り返る。
「ロロノアさ~ん!」
「あんなところにいたわ! あなたルフィさんの仲間のロロノア・ゾロでしょ!?」
「ルフィさんならこっちですっ」
女3人組が血相変えて駆け寄ってきたのだ。
「ルフィの居場所知ってんのか!?」
「私達、ルフィさんを連れていく5人組を目撃して後を追ったんです! でも……」
案内されながらゾロが話を聞くと、この町には裏を仕切る暴力団がいるらしく、その中にタチの悪いルフィシンパがいるというのだ。
冗談じゃない。
彼女達や町民では手も足も出ないので、連れのゾロを捜していたらしい。
「あそこです! あの廃屋……!!」
町外れにある朽ちた3階立ての建物だった。ナミ達が来た様子はなく、迷っているのだろうか。全く世話の焼ける。
「お前らは足手まといだ。来るな!」
ゾロは女達に言い置き、刀を2本抜くと入口の扉をあっさり真っ二つにした。
「ルフィ! どこだ!! 返事しろっ!!」
ガラクタの山を蹴散らしながら誰もいないと解ると2階への階段を駆け上がる。
なぜ返事がないのか、最悪の事態が脳裏を過るが、ルフィは海賊王になる男なのだ。こんなところでくたばる筈がない。
更に3階まで駆け上がると戸口の前に見張りとおぼしき男が2人身を隠し、迎え撃とうとしていたのだろう不意をついて斬りかかってきたが、難なく交わして峰打ちを喰らわし眠らせた。
3階はまるまるホールになっているようだ。
大きな観音開きの扉がきっちり閉められていたが、それもぶった斬って最後は足で蹴り開けた。

「ルフィ……!!」
「!?!」
ホール最奥、舞台の上でだんご状態になって一ヶ所に集まっていた数人の男が一斉にゾロを振り返った。
そいつらが、寄って集って押さえつけているのは──。
「てめェら……、ルフィに何した……?」
ガタイのいい男達の合間から、意識のない半裸のルフィが垣間見えた瞬間、ゾロは頭の中の血管がブチブチブチッとキレる音を聞いた。
ドクンドクン、と心臓が脈打つ。脳ミソは沸騰寸前だ。
自分は逆境になればなるほど冷静になるタイプだと思ったが、どこの馬の骨とも知れない男に組敷かれているルフィを目の当たりにし、魔獣の本能が剥き出しになっていく。
「お前さんこそ誰だァ? これからようやっとお楽しみってときに邪魔しやがってェ……」
一番手前の大男がゆらり立ち上がった。
その男の手は短剣とルフィの赤ベストの切れ端を握っていて、他の連中がルフィの腕や足を押さえ込んでいるのが見えた。
「クズに名乗る名などねェ。もっとも、教えてやっても無駄になるだろうがな。てめェらはここで……おれがぶった斬るからだ!!」
ゾロの闘気が一気に爆発した。
「あァ!? 何寝ぼけたことホザいてやがる! おれ様を誰だと──」
「知るか。命乞いは聞かねェぞ」
鬼気迫る形相のゾロに主犯格以外の雑魚どもは動物的な畏怖を感じずにいられない。
「リーダー! こいつゾロですよ! 麦わらの右腕、三刀流のロロノア・ゾロ……!!」
「へぇ。この緑頭のあんちゃんがねェ。おれァ麦わらしか興味ねェんだよ。ハッハ!」
「てかめっちゃ睨んでますよ!? ヒィィこっえ~~っ!!」
「オイラまだ死にたくねェっすよリーダー~」
「なに怖じけずいてやがんだお前ら! 麦わらをマワすんじゃなかったのかよ!」
「いやでもっ」
「海賊なんて誘拐すっからこんな目に……おれ帰るうゥ」
どうにも、頭以外は大したことない印象だ。
「オイさっそく内輪揉めか? 随分と立派な部下をお持ちだな」
「クソッ。恥かかせやがって。おめーら震えてねェでさっさとそこの剣士を片付けろ! おれはその間に麦わらちゃんを……vv」
「えーっ!? そうくるんっすかァ!?」
「ズッリィ~~!!」
「やっぱおれもおれも~~」
しかも纏まりがない……。
「こんな奴らにマジんなってる自分が恥ずかしくなってきたぜ……」
と、ゾロがちょっぴり恥じていた時だった。

「リーダーのおれが一番に突っ込むに決まってんだろうが!! ハッハハー!!」

その台詞を聞いた直後、ゾロの理性は完全に暗黒星雲の彼方へすっ飛んでいった。
「誰が……誰に突っ込むってェ?」
しかも男の毛むくじゃらの手がルフィのジーパンのボタンに掛かるのを見た瞬間、ゾロの剣技が炸裂していた。

「二刀流、『鷹波』……!!」

うわぁぁあああと男達が高波に巻かれるごとく散っていく。当然、ルフィ諸共だったが、今のゾロは斬りたいモノだけ斬れるのだ。
勝負は一瞬にして着いた。
ホールの天井を突き破って行った男達がばったばったと床に落下、白目を剥いて伸びた。
これで本当にルフィが犯られていたならきっちりトドメ刺すところだが、ナミのお小言は聞きたくねェし……。
最後に落ちてきたルフィをゾロはナイスキャッチで抱き留め、無傷なことにようやくホッと安堵した。
「ルフィ起きろ」
ゴチン、と頭突きを食らわす。
プンと酒の匂いが鼻をつく。
どうやらきつい酒を飲まされ眠るのを待って事に及ぼうとした為、ゾロが時間を喰ってもギリギリセーフだったのだ。
なかなか目を覚まさないルフィに「肉が来たぞ!」と叫んでやるとパチッと目を開け、
「肉のおかわり来たのか!?」
「お目覚めか船長。呑気なもんだなァ全くよ。心配させやがって」
「んあー? なんだゾロか。ん? 何で抱っこしてんだ?」
おれみんなと肉食っててーと記憶を巡らせているルフィが突然アタタ!と頭を抱え、「ガンガンするー」と唸った。
「飲めねェ酒なんか飲むからだ」
ゾロはとりあえずその場にルフィを立たせると、側に落ちていた麦わら帽子を被せてやる。
「おおっ、帽子帽子! サンキューゾロ」
「ああ」
が、しかし……。
事件はここで終わらなかった。

「あり……? コイツらなんでのびてんだ?」
「ほっとけ。いいから船戻るぜ」
「だって肉食わせてくれた恩人なのに……。まさか、ゾロが斬ったのか……?」
俯き加減のルフィがプルプル肩を震わせているのは、どうやら怒りのためらしく。
「お、おいルフィ?」
それ、どっかで聞いた台詞なんだが……?
と、またまたゾロの顔がひきつった。
「そりゃあ……斬ったがよ。それはお前が奴らに──」
「なんてことすんだ! ゾロのアホ!!」
「待て待てだから人の話を聞けっ!」
「言い訳すんなァ!! 勝負だ~~っ!!!」

あの日の再来って……。

一体どんな仕打ちだよ!?

「こンの、ウスラバカがァ!!!」
どーーん……。


それから、廃屋を瓦礫の山と変え、ようやく痴話喧嘩(としか言いようがない)は収まりその頃にはルフィの酔いも冷め、誤解も解けた。
実に無駄な体力を使った。
「だっからお前はちゃんと人の話を聞けよ!」
ゴンッ。ゾロの拳骨がルフィの脳天に一発。
「いでっ! おれゴムなのに……」
「愛の鉄拳だからな」
「ゾロはホンットおれ好きだな~。まーまー気にすんな!!」
「てめーはもうちっと成長しろ!」
瓦礫の上に腰かけ、二人じゃ帰れそうにないので仲間の迎えを待つことにしたのだ。
すっかりボロボロになった二人だったが決闘後の気の高まりだけは心地いい。
思えば、久しぶりに拳と剣を交えた大喧嘩。楽しくなかったと言えば嘘になる。
──そうなんだよなァ。
あのウイスキーピークでの勝負も、本当は高揚感すら感じ気持ちよかった。強い者と闘える歓び、デッドラインでの死闘、その臨界点で己が強くなっていくことへの武者震い……。
でも普段は仲間同士で、お互いの命を預けあっているのだが。
「ごめんなゾロ。それと助けてくれてありがとう。あと、久々の勝負は楽しかった!」
「いや助けるのは当たり前だし、おれも楽しんだよ」
「そうか! しししし!」
「ルフィ、もう『可愛い』でキレるなよ?」
「えー?」
う~んとルフィが眉根を寄せる。そしてチラッとゾロに上目遣いを送って来て。
だからな、その顔も可愛かったりすんだって……。
とは、言うに言えない。
「んじゃ、ゾロだけ許可する」
「あぁ?」
「ゾロだけおれんこと、『可愛い』って言っていいぞ!」
「……なんでそうなる?」
ついつい理由を聞いてみたくなった。
「だってゾロはおれんこと可愛いって思ってねェだろ? つか言ったことねェじゃん、えっちしてる時とかもさァ……」
ちょこんと唇を尖らせる様は拗ねているようにも見え、ルフィの真意はゾロには解らなかったけれど。
「……可愛いぜ、ルフィ」
「うわ言ったー!?」
「言った。言ってもいいんだろ?」
「い、いいけど。いや違う! おれはゾロなら可愛い可愛い言わないかなーと思って……!」
たった1回の『可愛い』で早くも白い頬を赤くし始めたルフィが本気で可愛くて、ゾロはその細腰を引き寄せる。
「可愛いほっぺが汚れてるぜ」
ごしごしと親指の腹で拭う。
「ゾ、ゾロ……?」
「声も可愛いよなルフィは。抱かれてるときなんかサイコーに可愛いからよ、アイツらに聞かれなくてホントよかったぜ。もったいねェ」
「お、お前っ、エロモード入ってるだろ!」
「焦る顔も怒る顔も可愛い。まぁ笑ってるときの顔が一番可愛いが……」
ちゅ、と耳朶にキスしたらルフィがうひゃっと首を竦めた。
こう言うウブな反応も可愛いのだ。エロルフィもしこたま可愛いが。
ゾロのルフィ可愛い論議は止まらない。
「ちょ、触んな…ゾロってば!」
服を切り裂かれ剥き出しの胸がだんだんとピンクに染まってくる。ゾロの指がイタズラに乳首を刺激すれば、ルフィはパタパタと暴れ出した。
もちろんこんな野外で押し倒すことはしないが、
「心配させてくれた御礼参りくらいは許せよな」
可愛く喘ぐルフィの唇を塞ぎ、ゾロはその甘ったるい口内を堪能しまくったのだった。



一方、なぜ一味の皆さんが助けに来なかったのかと言うと。
「あ、ありえない……。なんなのこの島!」
ナミは町の広場でワナワナしていた。
「まぁまぁナミちゃん。無事にルフィは剣士さんが救出したのだし。町の人達も暴力団の一角が墜ちて喜んでるそうよ?」
「あっそう。ええそうね。バッチリ確認出来たわ! ここで!!」
「ひょえ~ナミィ! あの二人なにやってんだっ?」
「子供は見るんじゃねェよチョッパー」
サンジに目隠しされる。
「飛び交うショッキングピンクのハートが見えるようだぜェ……。アウッ」
「おれは見てないおれは見てない~~」
ウソップとフランキーは両手で顔を覆いつつ、しっかり指の合間からソレを見ていたりする。
さっきから一味の皆さんが何を見て愕然としているかというと、広場に設置された巨大スクリーンだった。
チョッパーに「ルフィが拐われた」との情報を得てウソップとフランキーが現場へ急行中、ここ、フジョーシ通りの広場を横切ることになったが何やら凄い人出で行く手を阻まれ、立ち往生。
運よく買い出し組のナミとサンジとロビンに遭遇したまでは良かったが、そこで目にしたモノというのが……。
観衆群がるスクリーンに映し出されている、その映像。
それはゾロが女達に案内され廃墟に突撃してルフィが男達に襲われかけているところでバトル開始、救出するまでの一部始終を捉えたライブ中継、だったのである(ばーん)。
もちろん、その後の痴話喧嘩も、そして──。

「映されてるとも知らないで呑気にチュッチュしちゃってんじゃないわよ! どバカ!!」
「ウフフ。意外に情熱的なのね、あの二人」
激怒のナミとにこやかロビン。
「おれも観たいよォ、サンジィ~」
「ムリムリムリ」
子供にうっかりドラマのベッドシーンを見られたお父さんよろしく青くなるサンジと、お子様には目の毒ですチョッパー。
フランキーとウソップは賢明にも映像電伝虫を停めに走った。
スクリーンの中では相変わらずチュー真っ最中の我らが船長と剣士。と、その熱々っぷりになぜかキャーキャー大喜びの女子達は、一体ナニが楽しいのか……? クルー達には謎である。
「サンジくん、ロビン! とにかくアイツら捕獲に行きましょ。チョッパー、奴らの居所臭いでわかる!?」
「うん!」
そのときプツンと映像が途切れ、広場は大ブーイングの嵐。フランキーとウソップがこっそりこちらにOKサインを出しているのが見え、ナミが次の指示を送る。
うんうんと頷いた二人は船に戻って出港準備と、そのままサニー号で皆を迎えに行く算段となった。
こうなったらもうさっさと島を出るしかない……。

結局、クルーの皆さんに大迷惑を掛けてしまったルフィとゾロはあとでこっぴどく叱られることになるのだが──。

「んん、ゾロォ……。おれシたくなるからもうダメだって」
「じゃあ船に戻ったらゆっくりな? エロルフィは最強に可愛いんだぜ、早く見てェ……」
「ゾロは可愛い可愛い言い過ぎだ!」
「しょうがねェだろ、可愛いもんは可愛いんだからよ」
しれっと言い切る剣士とゆでダコ船長さんは絶賛イチャイチャしながら約束を交わしたのだが、航海士からのお達しで夜のニャンニャンは当分お預けとなるのでありました……。



(おしまい)



…からの?

「皆さん……楽しそうですねえ。いいですねえ。今日の私、見張り番で寂すィ~~!!」
展望台では、留守番のブルックがぽっかり空いた二つの目に双眼鏡をあて、一部始終を観察していた。
「それにしてもゾロさんと二人きりの時のルフィさんがあんなにお可愛らしいとは知りませんでした……。私、ついつい胸がドッキンコドッキンコと! あ、私ドキドキする胸、ないんですけども~~!! ヨホホホー♪」

ついでの45度。
どーん。


お後がよろしい(?)ようで──。



(ホントのホントにおしまい)

ブルック落ちですいませんでしたm(__)m
こんなのですが(汗)モチ様に捧げますvv
ありがとうございました!!
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