140字SSのお題まとめ

貴方は和泉で『大人になりたくない』をお題にして140文字SSを書いてください。


 大きくなったら何になりたい? お花屋さん、警察官、お嫁さん、芸能人、漫画家。みんなそれぞれ、なりたい職業を挙げていく。
 は? ──大きくなりたくない。ずっと子供がいい。ずっとずっと、そう思ってきた。

 悲劇にも、それはとっくの昔に叶ってしまったのだけど。




貴方は絢右衛門で『お静かに』をお題にして140文字SSを書いてください。


 小さなカードを立てたり横にしたりして上へ、上へと積んでいく。
「あともうすこし…! がんばっておじさん!」
 子供連れの親が依頼しに来て、急用が入ったので少しだけ面倒を見て貰えないか、と頼まれていた。
「へいお待ちー!」
 勢いよく扉が開かれると、一気にカードは崩れていき、子供も泣き始める。犯人は申し訳無さそうに、持っているビニール袋から菓子を出し、慰めていた。

 今では、カードタワーなぞ完成は容易いのに。この達成感の無さは、何だろう。




貴方は吉乃助で『誰よりもその場所が欲しいの、』をお題にして140文字SSを書いてください。


 ようやく、居場所を見つけられた気がした。
 家に休まる場所は無く。学校に拠り所は無く。外に行く場は無く。
 ならば作るという発想は、愚かな俺には存在しなかった。全て人任せ。自分では動けない。そんな自分を、優しく包み込んでくれる貴方。
 貴方の隣にずっといていいですか。




貴方はクロウとシャーレンで『恋の代名詞』をお題にして140文字SSを書いてください。


 何故こんなにも苦しいのか。何故あんなにも愛しいのか。彼を見るたびに、胸が締め付けられるような感覚に陥る。彼と目が合うたびに、心が満たされる。
 きっと、彼は俺にこんな酷い想いを抱いてるなんて解らないだろう。それでいい。気付かれたら、今の関係は終わるから。
 それでも、伝えたいと思うのは──恋、なのだろうか。




貴方はナオネで『悪天候はむしろ、好都合』をお題にして140文字SSを書いてください。


 連日止まない大雨。当時雨といえば、外へ出る自由時間が無いだけストレスは溜まるものの、監視が室内だけという事もあり若干警備が緩くなっていた。それを知るのはきっと、オレみたいに脱走を考えてた奴か、頭のいい奴か。
「いつの雨の日にしようか」
 彼と、冗談混じりに話していた頃を思い出す。




貴方はクロウで『好きだって言ったら殴る』をお題にして140文字SSを書いてください。


 「で、どうなの?」
 いきなりの問い掛けに、威圧で返す。
「は?」
「コタさんの事ですよぅ、水臭いなぁ!」
 大男の両手を両頬に当ててくねくねと動くその姿は“気持ち悪い”としか言い様がない。本当になんだコイツ。
「よくわからんから殴っていいか」
「ナンデ!? 動物虐待反対!」
 煩い。カーカー鳴くのは夕方だけにしとけ阿呆烏。




貴方は凪と零蔵で『忘れてあげる』をお題にして140文字SSを書いてください。


ソファが大きく軋む。先パイの巨体が犯人だろう。
「あ、荒い……」
「誰のせいだと思ってんすかねぇ?」
 ぐっ、と指に力を入れて体躯を捻る。
「いっ……!」
「勝手に人のもん食って、凝ってるからマッサージしてくれ、なんてよく言えますよね」
「ごめんってば~! あだだだ」
 更に力を入れて凝りをほぐしてやる。何、これだけやれば充分効いているだろう。
「次、俺にもお願いしますね。そしたら許します」
 先パイの体から降りて、交代を促す。萎れた顔は少しだけ、優越感を味わえた。
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 ソファが大きく軋む。先パイの巨体が犯人だろう。
「あ、荒い……」
「誰のせいだと思ってんすかねぇ?」
 ぐっ、と腹に力を入れて体躯を捻る。
「いっ……!」
「勝手に人のもん食ったんですから、俺だって好き勝手にやらせて頂きますよ」
「ごめんって……ッ」
 息苦しそうに乞う姿は正直、堪らない。涙目と、紅潮した頬が尚そそる。 口を口で塞ぎ、更に煽る。熱い吐息と唾液が混ざり合い、お互いの鼓動は激しさを増していくばかり。
「御馳走様です」
 掌を重ねると、大きな手を小さく握り返して来た。ご要望とあらば、それまで付き合いましょう。



貴方はRF剣で『お好きな方をどうぞ』をお題にして140文字SSを書いてください。


 一人で買い物中、好みのネックレスが二つあった。銀に碧い石が埋め込まれた、シンプルながらも何処か惹かれる形状のもの。同じデザインだが、埋め込まれている石の色が黄色のもの。どちらを……いいや、値段も安いし両方お買い上げ。
 ひとつはリューキに。ひとつは自分に。リューキはどちらを選ぶだろう。




貴方は潤希と涼佳で『結局は、君に辿り着く。』をお題にして140文字SSを書いてください。


 女の子は好きだ。柔らかくて、良い匂いがして、優しくて。だけど、深い関係にまでは成れない。そのせいで、付き合いまでは行くものの、それ以上に進んだ事は無かった。
 別にそれで良かった。きっと俺は早死にするから、沢山の子を知っておきたい。
「熱いから気を付けてくださいね」
 ──いいや。やっぱり彼女だけは特別だ。




貴方は岩動 蛍で『腹を括れ』をお題にして140文字SSを書いてください。


 うちはもう人間ではない。吸血鬼と云う怪物だ。そんな事信じたくなかった。受け入れたくなかった。それなのに、青い血液が傷口から溢れだす。
 ──青目の吸血鬼。吸血鬼の中でも、数が少なく絶滅に近い吸血鬼。遺伝でしか生まれず、確率もそう高くない。そして、吸血鬼は生まれつき吸血鬼。
 うちは? 人間として生まれ、人間として育ってきた。血も赤色だった。
 変化は音沙汰も無く、突然表れたのだ。こんな弱っちい吸血鬼、強い者に狙われたら即死だろう。
 ならば、強くなるまで。吸血鬼は強いんだから、今からだって遅くない。




貴方は佐伯と空で『飼い犬に手を噛まれる』をお題にして140文字SSを書いてください。

(空視点)
「そこどうしたの?」
 学校からのクラスへの配布物を受け取る際、袖口から覗く包帯が見えた。
「ん? ああ、筒香だよ。……ちょっと取り押さえる時、ヘマしてな」
 申し訳なさそうに腕を擦る。筒香は佐伯のクラスの子でもなければ、教科を担当している訳でもないのによく話題に上がる。きっと、佐伯は不良生徒の扱いが得意だからだろう。
「気を付けなよ」
 典型的な心配の言葉。それでも佐伯は嬉しそうに笑う。
「わかってる」
 割と心配してるんだけど。届いてないな、これ。
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(佐伯視点)
「そこどうしたの?」
 学校からのクラスへの配布物を渡す際、袖口から覗く包帯を指摘された。
「ん? ああ、筒香だよ。……ちょっと取り押さえる時、ヘマしてな」
 真っ赤な嘘に罪悪感を覚えつつ、腕を擦る。確かに筒香のせいではあるが、取り押さえなどはしていない。筒香の魔術が失敗し、被弾しただけだ。
「気を付けなよ」
 典型的な心配の言葉。御子柴は何も知らないという安心感から、思わず笑みが零れる。
「わかってる」
 お前はこちら側に来てはいけない。絶対、来させない。




貴方は晴馬で『宛先のない手紙』をお題にして140文字SSを書いてください。


 自己嫌悪からの自傷が止められない。罪悪感からの殺害が止められない。
 それでも君が好きという気持ちは本当で。大切にしたい想いは真実で。一生寄り添えるならば、僕は罪を償えるだろうか。
 どうかに幸福を。どうかに裕福を。どうかに愛情を。

 君は、赦してくれる?



貴方は佐伯と吉乃助で『さかなだって、こいをする』をお題にして140文字SSを書いてください。


 佐伯さんはずるい。
 かならず道路側を歩き、荷物は持ち、すぐ奢ろうとしてくる。
 なぜ、こんなにも尽くしてくれるのか。俺に魅力なんてひと欠片も無く、投資をされたって無駄だと思う。
 だがそんな事お構い無しに、佐伯さんはいつでも「吉乃くんは素敵な人だ」と褒めてくれる。褒められても俺には何も出来ないのに。

 つい、それに甘えてしまう自分も嫌だ。

「手を出して」
 こう? と不思議に思いながらも素直に従う。
 いったい何を──
 置かれたのは小さな、ヘンテコな形のガラス細工。
「好きそうだなってつい、買っちゃった。あげるよ」
 類似品を持ってるとは言えず、ありがとう、と受け取ってしまった。




貴方は吉乃助と筒香で『いや、うん、うっかり。』をお題にして140文字SSを書いてください。


 ──今、何をされた? 処理が追い付かない。
「うっかりやっちまった、すまん」
 口の中で血の味がほんのり広がる。痛みはどこにも無い。これは、筒香の──再確認すると、頬だけでなく顔全体、耳にまで熱が籠る。
「な……な……!」
 何するんだよ、その一言すら声は出ない。にへらと笑うその顔はずるいだろ。




貴方はひゅうがで『朝食を御一緒しませんか』をお題にして140文字SSを書いてください。


 朝早く起きたってのに、クソ坊主の小言が始まったので朝食前に家を飛び出た。コンビニで適当にパンを取ると、横に人影が見え思わず確認すると女装野郎がそこにいた。
「ありゃ、██兄」
「ひゅうがだっつってんだろ」
 兄、と呼ばれるのは気に食わない。おれとあいつは双子、どっちが上か下かなんて本来は無いんだから。
「オレさ、これが朝メシなんよ。奢ってやるから一緒に食わね?」
 奢る。その言葉に首を縦に振りそうになるが、貸しを作るのは嫌だ。
「……いいし別に」
 通り過ぎて会計をし、さっさと店を出た。




貴方はイーフォで『朝四時、ランデブー』をお題にして140文字SSを書いてください。


 暗い部屋で目が覚めた。突っ伏して寝ていたせいか、首が痛い。テーブルには大量の空き缶が置かれている。
「う……気持ち悪」
 吐く息からして酒臭い。呑んだ覚えなぞ無いから、人格の誰かがやけ酒でもしていたのだろうか。お前は強いだろうが、俺は弱いんだ。もう少し加減を覚えてくれ。
 水を飲みに、台所へ向かうと何やらメモが置いてあった。
『お酒のツマミに焼き鳥を食べました。ごめんなさい。 セキ』
『オレも食ったのでポテサラ作っておきました。 ちひろ』
 ──は? そんなんで許すか、ボケ。




貴方はアオギリと文太郎で『君をお買い上げ』をお題にして140文字SSを書いてください。


 大学の同学部で親睦を深めよう、と集まる事になった。料金は教授持ちなので、体調不良や家の用事を除き、ほぼ強制参加という事だ。既にいくつかグループは形成され、同学部に友人らしい友人など居ない俺にとって、このような行事は胃が痛む。
とりあえず生で、私は烏龍茶、カシオレ。飲み物すらすぐ決まらず、周りに合わせて慌てて無難な烏龍茶を頼む。
「お酒呑めないんだ、かわいい~」
 女子からのからかいの目。別に呑めなくはないが、こんな心休まらない場所で呑みたくないだけだ。
 仲の良い者同士が喋り合い、ひとりぼっちである俺は黙々と目の前の唐揚げに箸を進める。……この場に居ては迷惑なのでは?体調が悪いと言って帰ろうか。まず、言う事すら勇気がいる。無理だ、終わるまで耐えなければ。
「あっ……ごめんなさい」
 少し遠くのサラダを取ろうとしたら、肘が隣に当たってしまった。──ん? 待て、どうしてここに。
「なんか居たからつい」
 夕陽色の髪。沈んだ暗い青緑の瞳。あれ、そういえば先程メニューを持ってきた店員は──え? まさかここでバイトしてる?
「ちょ、仕事は!?」
「知り合い居るって言ったら混ざってこいって店長が」
「ええ……」
 フランクだなぁ……いいんだ、そういうの。少し、羨ましい。
「帰りたいんだろ? じゃあ帰ろう」
水を一気に飲み干し、テーブルにわざとらしく音を立てて置くと素早く立ち上がった。
「コイツ体調悪いみたいなんで送ってきます」
 腕を掴まれ、無理矢理出口へと運ばれる。後ろからは気を付けて、などと気遣う声が聞こえるも、そんなのも気にせずアオギリは外まで俺を出してくれた。
「あ……ありがとう」
「別に。じゃあ」
 二人だけで呑む? なんて誘う暇も無く、救世主は呆気なく去っていった。




貴方は桃磨とギンで『チョコとかパフェとか、愛とか』をお題にして140文字SSを書いてください。


 甘いものが食べたい。桃磨のその一言で、前々から気になっていたパフェ専門店へと足を運んだ。女性客ばかりで、男子二人は流石に浮いていた。それでも桃磨は気にせず、フルーツチョコパフェに食らい付いている。
「ギンも食べな! 美味いよ、これ」
 目の前に差し出された、スプーンに乗ったチョコ付きフルーツ。普通、器を渡すもんじゃないのか……。若干ずれている所もまた、桃磨らしく愛おしい。周りの目を気にしつつも、そのまま食べる。
 甘酸っぱいオレンジが、口の中に広がった。




貴方は文太郎とひゅうがで『人恋しい冬に、ひとりぼっちだ』をお題にして140文字SSを書いてください。


「あ……」
 ざあざあと沸き上がる噴水を背に、ベンチに座る見覚えのある姿。声に気付き、対象を確認すべく向けられた顔は、いつも通り眉が釣り上がり、眉間には皺が寄っている。
「……チッ。お前かよ」
 鋭い目付きは急に元気を無くし、地面へと目線は移動した。何か声を掛けた方が良いのか、それとも素知らぬ振りして通り過ぎるのが良いのか。冷たい風が体温を下げていく。
 ──ああ、独りは寂しいもんね。
 少しの間を起き、俺もベンチに座った。




貴方はアオギリと千紘で『たった一つのエンディング』をお題にして140文字SSを書いてください。


 此れは、有り得る一つ。

 ずっと人を遠ざけて生きてきた。人が嫌いだからではない、むしろ好きだからだ。好きすぎる余り、僕は人を無闇矢鱈に殺してしまう。その感情を抑えるべく、自ら近寄り難い雰囲気を作り、関わり合いは消極的に最低限だけにしていた。それなのに。
「ああ見えていい奴なんだぜ、アオギリは」
 どうして、肯定するのか。どうして、嫌わないのか。どうして、近付くのか。理解出来なかった。
 言っただろう、僕には近付くなって。近付いたお前が悪いんだから。




貴方は漆世とみやびで『「癒しが欲しい」「俺とかどう?」』をお題にして140文字SSを書いてください。


 目の前のキーボードにもたれ掛かる。ピアノの音で部屋に不協和音が鳴り響いた。
「癒しが欲しい……」
 千紘から課された課題はあまりにも難しく、いくらやっても途中で躓き一向に最後まで辿り着けない。千紘に指導を願いたいが、“いつもの”でここ数日現れず、何日も平行線であった。
「それなら俺とかどうよ」
 顔を向けると、漆世さんが両手を広げて何かを待ち構えている。
「うーん……ふわふわがいいです……」
 はあ、と大きな溜め息をついて体を起こし、再びキーボードと向き合う。後ろから「ふわふわ……」と何やら寂しい声が聞こえたが、聞こえない振りをして練習を続けた。




貴方は文太郎と漆世で『どこにもいかないで』をお題にして140文字SSを書いてください。


「文ちゃ~ん」
 どうして何故か、俺は水無月漆世とかいう遠い親戚の家にお邪魔し、夕飯をご馳走になっていた。酔っ払った四十路を迎える成人男性の、甘える声に可愛げなどどこにも無い。
「近い、うざいよやめて……」
 手で押さえても尚、絡み付いてくる。そんなに酒に弱いなら、呑まなければいいのに。
「文ちゃんは、どこにも行かないでね」
 伏せながら、小さく震えた声で言う。その姿は、母に甘える子のようであった。
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