診断メーカー

躑躅森千紘のお話は
「やあ、また会ったね」という台詞で始まり「その後どうしたかなんて野暮なことは語るまでもないだろう」で終わります。
#こんなお話いかがですか
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「やあ、また会ったね」


 知らない声。振り返ると、知らない男性が立っていた。

「俺達さ、よく会うよね。もしかして運命ってやつ?」

 ──ああ、セキのやつ変なのに絡まれてるって言ってたな。ついに対応が面倒臭くなってオレに任せたか。さて、どう遊んでやろう。

「そうかもしれないわね……よければお茶なんてどう?」

 見た目は完璧なので、声を高めにして女性を意識した声を作り、精一杯女性として振る舞う。セキは女性の人格なので、自然とそれが出来るが男の人格であるオレはそうはいかない。ひとつひとつ、違和感の無いように。周りにいる女性を真似て、記憶にある女性を真似て。男は見た目に騙されている分、あまり気にしていないようでそのまま釣れた。


「よければ連絡先交換しない?」
「ごめんなさい、さっきスマホの充電が切れちゃって出来ないわ」

 カフェに着いて、メニューを頼むと早速食い付いてくるが連絡先は流石にお断り。充電器を貸す、なんて言われたらおしまいだったが……相手は持ち合わせていないようでそれ以上は食い下がらなかった。ナンパした癖に、男は余裕が無く見える。やたらとそわそわして落ち着きが無いし、何か話そうとするがすぐ言葉が詰まり、それほど長くは続かない。せめて話さえ楽しければ有意義な時間を過ごせた、と満足感を得られるのだがコイツでは無理そうだ。
 注文した飲み物が運ばれて来たので、ストローを差してゆっくり飲む。いつもならがばっと行くが、ここは女性らしく。男の方はというと、緊張しているのか一気に半分も飲み干していた。

「喉乾いてたの?」
「あ……はは、そうみたい。今日ちょっと暑くない?」
「そうかしら。いつも通り寒いと思うけ
ど」

 シャツの胸元をつかんでぱたぱたと扇いでいる。はあ、幻滅。オレでさえそう思うのだから、本物の女性はもっとつまらない奴、と思うだろう。
 ここで終わらすのもつまらないし……他愛の無い話で盛り上げてやるか。

「ねえ、朝の占いって観てる?」
「え?」
「私毎日観ててね。今日の運勢、何位だったと思う?」
「んー……最下位?」
「惜しい、十一位。中途半端じゃない? どうせなら十二位がよかったわ」

 からからと氷をストローで混ぜて、一口。

「十二位の方が嫌じゃない? だって一番下なんだからさ、一個上の十一位なら一番悪いの回避できてんだし」
「それでも私は十二位の方がいいわ。中途半端が嫌いなの」
「そ、そっか……」

 ────話、終わり。なんだコイツ、本当につまらない。まだ駅前で演説している政治家の方が面白い話をするぞ。

「あ……これから用事があるから。じゃあまたね」
「え、あ、ま、待って!」

 席を立つと腕を捕まれる。振りほどく事も出来たが、男の真剣な目に戸惑い、動けなかった。

「ご、ごめんなさい…………その、一目惚れ……しちゃって」
「……え?」

 掴んだ腕を離し、俯いた男はつらつらと理由を述べる。ああ、ナンパ慣れしてないのはそういう事か。もう二度と出会えないような女性に出会えたからチャンスを逃さまい、と声を掛けてくれていたんだな。しかし残念かな、体も基本人格もオレも男だ。ほんの少しの罪悪感が芽生えるも、正直容姿は──という所だし、さっさとこの場を離れたい。

「あの、こ、これだけでも受け取ってください!」

 無理矢理手に握られたものを見てみると、男の電話番号が書かれた小さなメモ。文字は意外と綺麗だ。

「……いいの? 渡して。ネットにばらまいちゃうかもよ?」
「……ぅ、でも貴女なら構いません!」
「マジかよ」

 いけない、思わず素の声が漏れてしまった。口を咄嗟に覆うも、時既に遅し。男はきょとんとした目でこちらを見ている。

「ごめんなさい、用事に遅れちゃうから今日はこれくらいでー……」
「連絡、いつでも待ってるんで! いつでもしてください!」

 カフェの扉を開く際、男の方を見ると綺麗なお辞儀をしている。周りにジロジロ見られているがいいのか……ちょっと不憫に思え────いやいや、あんな奴に情けは無用。
 店を出たはいいが、練習スタジオに行ってもまだ誰も居ないだろう。アオギリは夜までバイトが入っていると言ってたし、文太郎は授業がある。オレはというと、バイトも何も入っていない日。別にこのまま一人で練習してても──いいか。ついでに新曲の歌詞作りでもしていれば、一人の孤独と暇を潰せる。
 男から貰ったメモについて? その後どうしたかなんて、野暮なことは語るまでもないだろう。









【キャラ説明】
■躑躅森 千紘 23 176
つつじもり ちひろ。
バンドを組んでおり、ギター兼ボーカル担当。普段から女装をして生活しているが、その訳は女性になりたいわけではなく似合うしそんな違和感無いから。

実は多重人格のいち人格。基本人格の名前はまた別。
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