診断メーカー

漆世のお話は
「冷たい風が頬を刺す」で始まり「濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた」で終わります。
#こんなお話いかがですか
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 曇り空の、冷たい風が頬を刺す。いつ雨が降るか、なんて空を見上げると二羽の鳥が羽ばたいている。

「呑気なもんで羨ましいですなァ」

 周りには誰もいない、閑静な住宅街。昼飯はどうしようか、いつもの道を歩いていた筈なのに、気付いたら知らない通りに来ていた。昼休憩後は授業が無いのを良い事に、そのまま道なりに進んで、若干不安を覚えつつも何処に辿り着くのか試している。
 知らない家が並び終わると、公園が現れた。その公園を抜けると小学校。小学校の先には──。

「あら。ここに出るの」

 ここには一度だけ来た事がある。昔の昔、まだ家に居た頃に仕事で訪れたのだ。あの時はされるがまま、車に乗って来たのだっけ。廃墟の大掃除という、雑用の仕事。本家の所有物だったがもう要らない、という事で売りに出すから綺麗にして来いとか、専門業者に頼めばいいのに……守銭奴め。とか当時は思ってた。いや、今も思う。
 見た目は過去と全く変わっていない。売り物件の立札が立ち、雑草が少々生えている。まだ時折手入れをしているのだろう。外見は古いもののまあまあ綺麗だ。本家は売った金が欲しいと思うと、まだ売れてないのは実に気分が良い。

「ざまあ」

 軽く柵を蹴り、更にその先へと歩みを進める。
 軽い頭痛が、重力を帯びてきた。そろそろ来るか。毎度の事ながら、頭痛と共に苛つきと憂いを感じる自分がいい加減厭だ。大体こういう時は、思い出したくもない、忘れたい事を思い出して更に気分を沈めてくる。

「はああ…………」

 ぐしゃぐしゃと頭を掻いて気分が静まる……訳がない。手櫛で軽く髪を直し、真っ直ぐ道なりに進んでいた足を別方向へと伸ばす。
 昼飯にはありつけなかった分、夕飯はちょっと豪華にしよう。昨日の惣菜が余っているからそれを使って──昔。想い人を失った悲しみが込み上げる。

「違うだろ……ああ、もう」

 優しかった██も、友人だった██も今は居ない。居るのは、自分だけ。守る事が出来なかった悔しさと、怒り。複雑に感情が絡み合い、ついには喧嘩を始めた。そして、頬に一筋何かが伝う。空を見上げなくともわかった。とうとう雨が降りだしてしまったのだ。傘は勿論無く、そのまま雨に打たれ、濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。










【キャラ説明】
■水無月 漆世 39歳 183cm
みなづき ななせ。「刻々と訪れる。」サブキャラ。文太郎の親戚で大学教師をしている。
家はヤーサンの分家で本家にコキ扱われており、それに嫌気が差して家を飛び出し現在に至る。
刺激に弱く、日焼けはせず赤くなって痛くなるタイプ。冷え性。
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