自創作系

「はぁ……」

住人の共有スペースである部屋のテーブルに項垂れている者の姿があった。飲み物を取るついでにテーブルへ近付くとシグナさんがそこにいた。

「シグナさんじゃないっすか。どうしたんすか」

後ろから声を掛けると、それまで気付かなかったのか飛び起きて、目を丸くしながらこちらを振り向く。あまりの速さにこちらも驚いてしまった。

「あーえっときみは……」
「誠二郎っす」
「誠二郎くんか……あ、確か殺人鬼の……!」
「殺人鬼だからって無闇に殺しませんよ」
「そうか……よかった……」

シグナさんは来たばかりなので、俺の名前を覚えられてないのも当たり前だろう。しかし、殺人鬼という事を覚えていて名前を忘れるとは、それほど印象深いのだろうか、殺人鬼って。小首を傾げながらも、言及はしないでおいた。

「なんか溜め息ついてましたけど、何かあったんすか?」
「姉ちゃんがまた勝手にどっか行ってね……あ、ここ座りなよ」

隣の椅子を指差されたので、失礼します、と一言断り指示のまま座る。なんだか長話の予感がしてきた。一応相手は年上なので、背筋を伸ばし真面目に顔を見つめる。

「どっか行くだけならいいんだけどね? 何か問題があるたびに俺のせいにするんだよ。例えば店の物壊したら『弟のシグナが弁償するから許して!』とか勝手に言ってさぁ……」

はあ、と再び大きな溜め息をつく。わかる、わかりすぎる。姉は全ての責任を弟に押し付ける生き物だ。うんうん、と首を上下に振り応答をする。

「それにこの前なんかね、ある店の料理人が足りないからって、姉ちゃん勝手に俺の名前出して何日から来るようにーって店から連絡来たりさ!? 何なの!? 俺の人権無視しないで!?」
「わかるー、勝手に何でも決めて巻き込むよなー」

うんうん、と頷き、割って入ってきた声の方向を見ると、向かいの席にアーロンさんがいつの間にか座っていた。思わず驚き椅子から落ちそうになるも、足を踏ん張ってなんとか耐えた。シグナさんを見ると俺と同じように驚いている。

「あ、びっくりしちゃった? ごめんね。話聞こえちゃってつい」
「いや、大丈夫……」

ずれた眼鏡を押し上げてシグナさんは直している。

「そういえばアーロンくんも弟だったな、俺と違っているのは兄だけど」
「でも変わらないよ、兄ちゃんもわりと自由奔放だしさー。流石にシトラさんほど野性児してないけどわりと野性児してる」
「お互い大変だな……」

ふっ、と意味深な笑みを浮かべる二人。言いづらいがここは言わねばならない。

「あ……俺も一応弟っす……双子だけど」

そっと片手を上げアピールをしてみると、二人は目を輝かし同志! と言わんばかりの表情を見せ、その手を掴んで来た。


それからしばらく、本来の目的を忘れ三人で姉や兄の愚痴大会となった。
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