本編

3話 -二人で一人-


話がまとまると二人は早速準備をしてくれて、一時間もしないうちに再出発できた。
今からなら暗くなる前に隣町までは行けるらしく、そこで一泊してグラデュワまでのルートをちゃんと決めるという事になった。

「ちょっと寄り道していいか?」
先陣を勤めるクロウが振り返り聞いてきた。「いいけど、どこに?」
「行けばわかる」

答えるとすぐに前を向き、どんどんと進んでいく。行き先ぐらい教えてくれてもいいのに……
並んで歩くクロンにも聞いてみたが、外に出ること自体初めてだからわからない、と。
この二人、一体どういう兄妹なんだ?

■■■

「うわぁー」

あまりのカラスの多さにクロンと揃えて声をあげた。近くの森からよくカラスの鳴き声が聞こえていたと思ったら、こんな所にカラス
の大群がいたのか。どこからもカアカアという鳴き声と羽ばたく羽の音が鳴り止まない。

「おや珍しいね、クロウ。クロンまで連れて」

カラスの多さで気付かなかったが、拓けた中央辺りのにある切り株に一人の老人が座っていた。その老人をクロウが見つけると近寄って何かを話しているようだった。

「しばらくあそこを開けるから、その報告にきました。……コイツら共々よろしくお願いします」
「ああ、そうなのかい。わかったよ、ここは任せなさい。気を付けてね」
「いつもすみません」
「いいのいいの、好きでやってるんだから遠慮なんてするな」
「はい……ありがとうございます」

老人に深々とお辞儀をしてから再びこちらに戻ってきた。

「クロウのおじいさん?」
「いいや、昔から世話になっている人だ。黙ってここを離れるのは失礼だと思って報告に、な」

そういうクロウの顔は、少し悲しげな表情をしているように見えた。

「……もうここに用はない。日が暮れる前にさっさと行こう」
「う、うん」

足早にカラスの森を去ろうとするクロウ。
ふと、後方から人の視線を感じ振り返ったが、いるのはやはりカラスの大群。あの老人はカラスの方をずっと見てもうこちらは見ていない。気のせいだと言い聞かせ、クロンと一緒にクロウに付いていった。



「ふぅん……もう用はない、ねぇ」

バサバサと羽音を立ててカラスが一匹、森から飛び去った。


■■■

あれからかなり早足で隣町、ヴィートまで来たが道中クロンが花を見つけては止まり、変な模様の虫を見つけては止まりで思った以上に時間がかかり、日はすっかり落ちてしまっていた。
宿は幸いにも取れ、少し休み夕食を食べてから部屋で色々と話し合いを始めた。

「ええと、ここからグラデュワまでは……」

クロウが持ってきた地図を広げて確認をする。旅に出たはいいものの、肝心な地図を持ってくるのを忘れてしまっていたのでとても助かった。

「最短はこの洞窟を抜けてカリノカリラから……だがここの洞窟は足場が悪い上に長く、一日で抜けれる距離じゃないから少し遠回りをして行きやすい方で行こう」

わかりやすくペンで地図上のルートをなぞりながら教えてくれて、バツ印をつけた。

「あ、ねえねえここ! こっちから行こうよ!」
クロンがとある場所を指差した。そこは──

「クメアッキにある湖?」
「うん! ここ、クロンのふるさとなんだ」
「え?」

何故かクロウと声が重なった。初めて外に出ると言っていたのに、故郷はここだと言い、クロウも驚き目を丸くしてクロンを見続けている。どういうことなんだ……?

「クロン、確認していいかな?」
「なあに?」
「クロンは……クロウの妹だよね?」
「うん」
「外に出たのは……」
「これが初めて! すっごく楽しい!」
「故郷、ってどういう」

言いかけた所でバァン、と机を鳴らしたクロウ。それ以上喋るな、というサインだと感じ取った私は萎縮してしまい、それ以上何も言えなかった。

「クロウ、別にいいじゃない。何をそんなに怒っているの?」

すると突然、クロンの声色が変わった。

「……! だって、これは」
「コタ、あなたには話す必要があると思うから教えてあげる」
「ゼロ!」
「お兄ちゃんは黙ってて」
「くっ……」

クロウはクロンの事を“ゼロ”と呼んだ。クロンの顔を見ると、先程までの幼い少女というより少し大人びた少女の表情になっており、瞳の色が薄いグレーからクロウと同じ深い紅色になっていた。

「私の名前はゼロ。クロウの妹という事に変わりないというか、本当の妹は私。クロンはね、私が生きるために必要な繋ぎ・・になってくれた“氷龍”なの」
「え……と?」
「突然こう言われてもよくわからないよね、ごめんなさい。とりあえず、二重人格なようなものと思ってくれればそれで構わないわ」
「ああ、なるほど、わかったような……気がする」
「ありがとう」

ゼロはにっこりと優しく微笑むと目を閉じ、再び目を開けると瞳の色は薄いグレーに……クロンに戻った。


「二重人格というより、キメラだろ?」


窓側から突然見知らぬ声が聞こえた。
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