小話
《クリムゾン研究所で第一成功した人間体のキメラ。試験体なのでナンバーは無い。合成された動物の名を元に、“ゲン”と呼称する。
“ゲン”は、人間の魂と烏の魂、二つを持ち合わせていたが後に人間の魂は衰弱、死亡した。
烏の魂に問題は無く、実験は続行。しかし、目を負傷する自傷行為が見られたので、メンタルケアを優先。森での生活が合うと判断し、森に放す。他烏との接触は今までのように見られず、孤立しているが生活に問題は無い。研究員との接触も問題無し。以前は暴力行為が頻繁に見られたが、それが一切無くなった。メンタルケアの成果と言えるだろう》
「ま、こんくらいはいっか」
研究所に残された、過去の資料。それの大半を爪で引っ掻いたり、嘴で引っ張ったりと、ビリビリと心地好い音を資料室にて響かせる。
「あ、おい! 何してる!」
黒い髪に紅い瞳。青年に満たない少年に見つかってしまい、急いで逃走準備にかかるも首根っこを掴まれた。
「父さん達が残した資料を……! クロンに使えるのだってあるんだぞ!」
「ダイジョーブ、それっぽいのは手ェつけてないから。多分。ところで痛いんで離してもらえません?」
「俺の心の方が痛むわ! ったく……あああ……こんなに……」
必死にバラバラになったゴミクズをかき集めている。いやあ面白いねぇ、無駄な行為をする人間ってのは。ぽいっと雑に落とされ、カカカと笑うと「うるさい」と怒られた。これもお前さんを思っての行動なんだけど。わかるにはあと何年かかるやら。そもそも、ガキンチョから成長できるのかしらコイツ。
コイツの父親を含め、ほぼ全員は
お掃除に夢中になってる間に、オレは羽ばたいて研究所から抜け出し、森に戻った。他の烏共はカアカア鳴いている。煩いけれども、どこか落ち着く。どうあがいても俺は烏様なのでね。
研究所が機能しなくなった頃から時々気紛れに、研究所に行ってはあのガキンチョにちょっかいを出しつつ、様子を見ていた。それでわかったのだが、あいつは俺を覚えていてもアイツを覚えていなかった。人間の姿になってもこれといった反応が無い。つまらないので、顔を布で隠したがそれでも反応は何も無い。ああ、それならいっそこのまま、アイツの顔忘れた方がいい。それから俺は顔に布を垂らすようになった。
平和に、ずっとそんな日々が続くと思っていた。
森にいると、聞き慣れない足音、声。終いには「もうここに用は無い」というガキンチョの声。
「ふぅん……もう用はない、ねぇ」
お前に無くとも俺にゃあるんだよ。誰かさんとの約束ってのがね。別に守らなくてもいいんだけどさ。体が行けって言ってんの。
バサバサと羽音を立ててカラスが一匹、森から飛び去った。