本編

9話 -休みましょう-


ミオネイドに着くと、すぐに宿泊所を見つけて部屋へと監禁された。見張りにはゲンがついた。

「今日これからと明日、充分休息を取れ。出発は明日ないし明後日にするから休め」
とクロウに言われたが、休むと言われても何をすれば良いのやら……

「部屋にずっといるのは暇だ……」
「俺もー」
「じゃあこっそり出ちゃおうよ」
「それはヤメテ、俺が怒られる」
「ちっ」

ゲンは相変わらずカラスのまま。人の身よりもカラスでいる方が楽なのだろうか。

「あーひま暇ヒマ!」
ごろんごろんとソファで左右に転がるカラス。一見可愛いく見えてしまうのがとても憎い。

「はあ、色んなお店見たかったなぁ」
「明日は出してくれるでしょ……クロウもそんな鬼じゃないし。寝れてないならとりあえず今は寝てなよ」
「私寝ちゃったら話し相手いなくて寂しくならない?」
「カカカ、お嬢さん、烏の森でボッチだった俺様を舐めるんじゃないよ」
「友達いないんだ、かわいそうに」
「いないんじゃない、作らなかったんだ」
「できなかったんだね、かわいそうに」
「……いいから黙って寝てなさい」
「ハイハイ、二~三時間眠らせて頂きますわ」
「どーぞごゆっくりー」

ソファから離れてベッドに潜り込む。かなり寝ているはずだが不思議と眠気はあり、数秒で眠りに落ちた。
ただ、意識が闇へ落ちる寸前ゲンの言葉が聞こえた。

「一体、何が憑いてやがるんだ」



また夢を見た。
硬く黒い地面に立つ髪の長い少女の後ろ姿。
左右からタイヤのついた大きな塊がものすごい速さで通り過ぎていく。
そこに少女は進んでいき、大きな塊とぶつかった。

次は病院で、管に巻かれている少女。
病室の開いている窓から風が心地よく入り、カーテンがゆらゆら揺れている。

彼女が寝ているベッドの横には誰も座っていない椅子が一つ置かれている。
いや、そこに見えない誰かが座っている。


ヒツジちゃん──?


ぱちりと目が覚めた。
よく眠れたのか、とてもスッキリしいい気分だ。夢はそう、いいものには見えなかったが。

「ただいまー」
タイミングよく、クロンとクロウが帰って来た。

「おかえり」
「あ、コタ寝てたの? 起こしちゃった?」
「ううん、今ちょうど起きたの。どこ行ってたの?」
「お兄ちゃんとお店見に行ってたの! 明日はコタも一緒に見に行こうね」
「うん」

ふとゲンの居たソファに目をやると彼もいつの間にか寝ていたらしく、クロウに起こされていた。

「もう夕飯の時間だが、食欲はあるか?」
クロウがこっちを向き聞いてきた。
お腹がやけに空いてると思ったらもうそんな時間だったか……結構寝ていたな。

「勿論、めっちゃ空いてる」
「じゃあ食堂行こう~!」
「ゲンはここにいろよ、何か適当に持ってくるから」
「まじっすか……昨日みたいに一緒は駄目なんすか……腹減ったなァ」

ゲンも一緒に食を共にしたい所を見ると、先程一人は慣れているといった様子だったがやはり人と一緒にいたいんだな、と思った。
かわいそうだがカラスを食堂に連れていくのは不衛生だから仕方ないのだよ……


食事を終えて部屋に戻ろうとしたら従業員の一人から声をかけられ、手紙を渡された。
カラサトからの手紙と聞き、瞬時に父さんからの手紙だとわかり急いで部屋に戻り封を開けた。

■■■

父からの手紙だとはしゃいでクロンと二人で手紙を読んでいる隙に、ゲンに今日のコタの様子を聞く。

「何かわかったか?」
「なんか悪いモンが憑いてるのはわかるんだけど……ひっぺがすのお前できる?」
「無理だ。……悪いものってアレか、幽霊の類いか……?」
「何だろうね、俺も初めて見たからわかんねぇや。幽霊は苦手かい? 科学者さん」

科学者なんていつ俺がなったというんだ。
一時期は科学者の父に憧れて真似事をしていた時もあったが、科学者になった覚えはない。

「そもそも幽霊は信じていない。……むう、どうしたものか」
「悪いモノってのはわかるけど悪さをしているもんじゃないから今は放置でいいんじゃない?」
「どういう事だ」
「そのままの意味。ああ、風邪で例えるなら潜伏期間、ってやつだ」

潜伏期間……これまた厄介なもんだ。
病気なら大体の潜伏期間がわかるが、このモノ・・はいつ悪さをしだすかわからない。下手したら、明日にでも動き出すかもしれない──

「……魔法使いなら、どうにかしてくれるだろうか」
「魔法使いは万能だからといって過信は良くないぜ?」
「わかってる」

すぐに解決できない問題に当たってしまったからか、妙に虫の居所が悪くなってくる。

「優しいねェ、クロウは」
「は?」
「だってコタは赤の他人じゃん。本人も気付いてないのに、助けようとするなんて優しい過ぎる」

そう、だろうか?
赤の他人だとしても問題を抱えている人が目の前にいるのにも関わらず、放置するよりかは断然いいとは思うが。

「嗚呼、解らないなぁ人間って奴は」
「わからんで結構。お前に理解されたいなんて誰も思わんからな」

そうかと言わんばかりにカカカと烏らしく笑うゲン。相変わらず性格悪い奴だ。

■■■

「クロンの事も書いてあるー! わぁ、お返事書かなきゃ!」

クロンは初めての手紙のやり取りにとても興奮して早速また手紙を書こうとしていた。

「もう今日は遅いし、明日にしようよ」
「むう……コタが言うならそうする……」

唇を尖らせ明らかに不服の様子だが、素直に従ってくれるいい子だ。

「クロウ、私達もう寝るけど電気つけとく?」
「ん? もうそんな時間だったか。俺ももう寝るから消していいぞ」

ゲンと何か話しをしていたようだが、私に声をかけられ時間の遅さに気付くと自分のベッドへと向かっていき、ゲンもバサバサと羽音を立ててクロウのベッドの側に止まった。

「じゃあおやすみ」
「おやすみー」
「おやすみ」
「おやすみぃ」

ぱちんと部屋の電気を消して一斉に眠りについた。




■■■

どこまで逃げればいいんだろう。
どこまで行けば、ヤツらは追ってこない?

もっと遠くへ行かなければ、見つかってまたあそこに戻るだけだ。

もう痛いのは嫌だ。25ニコがいないあそこには戻りたくない。

25がいたから今まで我慢できたんだ。でももうその25はいない。

いないんだ。

目から波が溢れ出し、足を止めて泣き叫びたくなるがそんな暇はない。とにかく遠くへ、遠くへ行かなければ──

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