本編
『おや? ここはどこ? ここは誰の夢?』
──声が聞こえる。
『ここはアナタの夢?』
──多分、そう。あなたは誰?
『私? あたし? ワタシはヒツジちゃん』
──ヒツジ“ちゃん”……
『そういう名前なのです。んん? でも本当に夢? リアリティあるなぁ』
──何を言ってるんだろう。
「あ、繋がっちゃったのか」
■■■
朝陽がカーテンの隙間から入ってきて、それが顔に当たり眩しさで目が覚めた。
何か夢を見ていたような……でも何も思い出せない。きっとどうでもいい夢なのだろう。
今日は誰よりも早く起きてしまった。朝食の時間まで一時間もある。ここは──
ちょっとだけ、ちょっとだけの二度寝だ。
──
────
「あれ?」
再び眠りについたはずが、いつの間にか出発しミオネイドに着いていた。
しかしクロウもゲンも、クロンもいない。
人々が入り交じり、雑踏が聞こえるだけだ。
「へぇ、ここがあなたの町?」
聞き覚えのある声に振り返ると、もこもこな感じの少女が周りを見渡しながらそこに立っていた。
「あなたは……」
「さっきぶりね! ヒツジちゃんだよ~ねえねえ、さっき聞き忘れちゃった。あなたのお名前は?」
身軽に駆け寄り、右手をマイクを持つような形にして顔にぐいっと近付けてきた。
「こ、コタ。コタ・ニーザー」
「そう、コタ。ワタシはヒツジちゃん。改めてよろしく」
笑顔で握手を求められるも、あまりにも突然な出会いに戸惑い固まっていたら無理矢理手を引っ張られ強制的な握手となった。
それでもヒツジちゃんはニコニコとしている。正直、不気味だ。
「ねえコタ、コタに私はどう見える?」
「え? えーと……なんかもこもこしてて、角みたいのもあって……ライトヘッドのキメラ?」
「ライトヘッド? キメラ? なあにそれ。ワタシは私、ヒツジちゃんだよ。んー、聞くのは面倒だからあとで自分で調べるワ」
キメラの事はともかく、ライトヘッドも知らない? という事はこの国の人間ではない……?
まず、話が滅茶苦茶で何言ってるのかわからない。
「ワタシの方からこっちは見えるけど、あなたの方からワタシは見えるのかな?」
「ええ、きっと見える。繋がったのはアナタだもの、見えないはずがない」
「これから ███ は何をしてくれるんだろう? 楽しみ、楽しみ、楽しみだ!」
ヒツジちゃんはよくわからない独り言を続けて街中をあちこち行ったり来たり、上手く人を避けて進んでいる。
気付いたらギリギリ目線が届く、遠い所へいってしまっていた。急いで追いかけなきゃ、進もうとした途端体が急に重く、な、って────
────
──
「コタ?」
気を失っていたようで、道端で倒れていた。
クロンが膝枕をしてくれており、心配そうに顔を覗き込んでいる。
先程ミオネイドに着いて、ヒツジちゃんと話をしていたのは……まさか、夢だった?
ぼんやりとしていた意識がゆっくりと現実に向けられるも、ここまで歩いてきた覚えがない。ミオネイドではないのは確かだが、ここは一体どこだろう……あ、ミオネイドまでの道のりか。
「何をそんなにきょろきょろしている」
「ううん、なんでもない! ちょっとびっくりしちゃっただけ」
「ビックリしたのはこっちだよコタ~やたら朝から元気だったのに、突然電池が切れたみたいにバッタリ倒れちゃったんだから」
「え……?」
ゲンに言われて朝から動いてた事実を知る。
朝、ベッドから出た記憶はない。勿論宿もだ。ここまで自分の足で歩いてきたのか?
信じられないほど、朝からの記憶がぽっかりと無くなっている。
まるで誰かに乗っ取られていたかのように。
「ミオネイドまではもうすぐだから、もう少し頑張れ。着いたらまず休もう」
「大丈夫だよ、昨日あまり眠れなかっただけだから……」
「余計駄目じゃないか。俺達はお前の為に動いてるんだから、肝心のお前が無理するんじゃない」
「歩けなかったら俺がニンゲンなっておぶるよ」
「ううん、本当に大丈夫だから。心配ありがとう」
不安な気持ちを押し殺し、無理に笑顔を作る。クロウにはバレてるが、彼も気遣ってかそれ以上何も言ってこなかった。