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短編

ガタンゴトン。
夕暮れに染まる街を往く電車に二人並んで座る。
「いやぁ、あたしたちももう卒業ですねぇ」
もう生徒会室ともお別れなんですね、なんて呑気なことを言いながら笑っている。
「正崎さんは東大ですもんね、すごいや」
「お前だって早稲田だろ?悪いところじゃない」
「本当は正崎さんと同じところ行きたかったですけどねえ」
九字院が視線を窓の外に向ける。
太陽が赤く、赤く沈んでいく。
最後の力を振り絞るように燃えているのが、なぜだかとても印象に残った。

「最近気に入ってる曲があるんですよ」
そう言いながらイヤホンの片方を差し出す九字院。
「お前、うちの学校は緊急時以外のスマホ使用は禁止だぞ」
「こんな時まで生徒会長するんですか?明日には卒業ですし、先生がいなければ大丈夫ですよ」
この車両に他の客はいない。
「その1曲、聴き終わったらすぐしまうんだぞ」
「へいへい」
差し出された片方をはめる。
その間にさっとロックを開け、音楽アプリを開いた。
お目当ての曲は1番上にでてきた。

軽いリズムの曲調に優しい女性の声が乗る。
『この曲が終わるまで 君の恋人でいたい
好きだって伝えたっけ二度と言えなくなるから』
九字院が一緒に口ずさむ。

『この曲が終わるまで 君を独り占めさせて
好きだったところだけ ずっと覚えていたいの』
綺麗で、儚くて、優しい声。
「お前、」
電車のドアが開く。
「あたし、ここなんで、じゃあ」
そそくさと片耳を抜いて席を立つ。
「九字院!」
追いかけようとしたが、ちょうどドアが閉まる。
無情にも電車は走り出す。
俯いたままの九字院を、電車から見送った。
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