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短編

「正崎さん、見てくださいよ!」
普段、絶対に早起きなどしない九字院が窓の外を指さす。
「すごい雪だな」
「かなり積もりましたねえ」
待て、丸ノ内線は動いているだろうか。
確認しようとスマホを手に取る。
……よし、動いてはいるな。
乗れるかはわからないが。
「正崎さん、出勤前に雪合戦しましょうよ」
何言い出したんだこいつ。
「32歳にもなってか?」
「32歳だからですよ」

雪の日の公園は、早朝なのも相まって自分たち以外、人はいなかった。
「東京でこんなに積もるとはな」
「すげえですよね」
隙あり!っと自分の顔面めがけて雪が飛んでくる。
咄嗟に避けることも出来ず顔に当たる。
「宣戦布告もなしか……いい度胸だな」
「油断大敵、ですよ」
こうして、唐突に俺たちの雪合戦が開幕した。

「審判のいない雪合戦って、やっぱり勝敗わかんねえですね」
お互い、息を切らしながら雪の上に座る。
「当たり前だ……」
「雪だるま作ったら、帰りますか……」
雪合戦用の玉より丁寧に、綺麗に雪だまを作る九字院。
呑気に遊んでいるが、もうそろそろ家を出ないといけない時間のはずだ。
「お前、それで間に合うのか……?」
「大丈夫です、正崎さんはあたしの車で送っていきますから」
ばちんとウインクを決めながら言う。
まさかパトランプ回しながらとかじゃないだろうな。
通勤のために護送されるのは嫌だぞ。
「はいできました!こっちが正崎さんで、こっちがあたし」
雪だるまにしては険しい顔のやつと、髪を縛っているやつ。
「なかなか上手いんじゃないのか」
でもな九字院、俺はそこまで眉間にしわ寄ってない。

「あの雪だるま、持って帰りたかったですねえ」
悔しそうに言う。
「写真で我慢しておけ」
着替えたらいつものように仕事だぞ。
だが、こんな非日常なら悪くないなと思うのは。
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