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短編

「せぇざきさん、ここらで一息つきましょうや」
コーヒー取ってきますねと九字院が席を立つ。
もう何時間も資料に没頭していたようだった。

戻ってきた九字院の手にはコーヒーのカップが2つ、そして。
「九字院、それはなんだ」
「なにって?ガムシロじゃあないですか」
ガムシロップというものを飲み物に投入するとして、いくらなんでもその量はおかしい。
九字院は両手に合計で6個のガムシロップを持っていた。

「これくらい入れないと頭が回らないんですよ」
4個目のガムシロップを入れながら九字院が言う。
味を想像しただけで、甘ったるさに吐き気がした。
「ちょっと待ってろ」
それは徹夜続きでおかしくなっていたのか。
それは気分転換に少し歩きたかったからなのか。
それとも何か別の要因なのか。
直感のままに、席を立った。
九字院は最後のガムシロップを入れながらぽかんとしていた。

「戻ったぞ」
土産だ、とコンビニ袋を九字院に差し出す。
「はあ」
袋の中から出てきたのはパルスイートだった。
「お前はもう少し健康に気を使え。糖尿病になるぞ」
大真面目に話す正崎に九字院は吹き出した。
「な、何がおかしい!」
「いや、思い詰めた顔で部屋を出たから相当深刻な問題でもあったかと思ったんですがね。まさかあたしのためだったとは」
ひとしきり笑い終えた九字院は息を整えながら言葉を紡ぐ。
「正崎さんのお心遣い、嬉しいですよ。次からはこいつを使わせていただきますね」

捜査本部の片隅で、『九字院用』と書かれたパルスイートは、主の帰りを待ち続けていた。
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