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2人の晩ご飯

男たちの晩御飯@キムチ鍋/2020/01/23
偶然重なった空いている日。
俺と九字院と文緒と半田の4人で鍋を囲んで宅飲みすることになった。
元はと言えば九字院がこぼした「鍋食べてえですね」という一言だった。
それを聞いていた文緒が「じゃあやりましょうよ!」とこの日一番の元気さで言い出した。
そんなこんなで、あれよあれよと日付が決まり、半田も呼び、男4人で鍋会をすることとなった。
会場は勿論、我が家だ。

『こっちはあらかた終わったので、今から帰ります』という九字院のメールを受けて、こちらも帰る方向に持っていかねばならなくなった。
「この箱で最後にするか」
一瞬晴れやかになった文緒の顔は3秒で曇った。
「まだたくさんあるじゃないですか……。九字院さん、着いちゃいますよ?」
「あいつの職場の方が遠いんだ。これを片付けてからでも余裕があるぞ」
いいから手を動かせ。
間に合うものも間に合わなくなるぞ。
無言の圧に耐えかねた文緒が手付かずのファイルを手に取る。
作業が終わり、執務室を後にしたのはこのやり取りの1時間半後だった。

駅に着くと、改札の外で九字院が待っていた。
「お待たせしました〜!」
九字院に駆け寄る文緒。
俺もその後を追う。
「お疲れさんです」
「揃ったことだし、買い出しに行くか」
スーパーの方向へ歩き出す。
「あれ、半田さんのこと待たなくていいんですか?」
「あいつはまだ帰れないそうだ」
「新聞記者も大変ですねえ」

「このキムチ鍋の素はそんなに辛くないんですって!」
「辛いものを食べられる人はみんなそういうんですよ」
スーパーにつき、気がついたら鍋の味でバトルが始まっていた。
どうしてもキムチ鍋が食べたい文緒と、辛いもの断固拒否の九字院。
両者、全く引かない。
「じゃんけんでもしてきめたらいいだろ」
ため息をひとつ吐いて2人に提案する。
大の大人がじゃんけんで鍋つゆの味を決めている。
なかなか見られない光景だ。

結果は文緒の勝利。
『辛くない』と自称するキムチ鍋のつゆをカゴに入れる。
「具材はどうする?」
「僕、マロニーちゃん食べたいです!」
「あたしは白菜としいたけですかね」
「わかった」
男3人で夜のスーパーを右往左往する。
さながら男子高校生のようで。
遅い青春を味わっているような気がした。

具材を買い揃え、帰宅する。
三者三様の挨拶が飛び交う。
昨日のうちに用意しておいた卓上IHコンロを食卓の上に置く。
「分担わけだが、九字院は野菜を切る、文緒はつまみの用意、俺は肉団子を作るということでいいか?」
「はい!」「了解です」
半田を残念がらせるくらいの鍋を作ってやろう。

「お邪魔しま〜す!」
鍋がもうすぐ完成というところで半田が到着する。
「これ、遅れた分のおみやげ」
半田からビニール袋を受け取る。
中にはビールと缶チューハイ。
「鍋、もうできてるぞ」
「そりゃ楽しみだ」

「「「「いただきます」」」」

男4人の食べるスピードというのは驚異的なものだった。
最初は辛そうにしていた九字院も、少しだけ平気そうになっていた。
文緒、お前はマロニーと肉ばかり食べてないで野菜も食え。
半田は酒を空けるペースが早いぞ。
もう若くないんだからな。
お小言を言いたくなる気持ちを抑えて、豆腐を食べる。
……だって、皆こんなにも楽しそうだから。
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