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2人の晩ご飯

「そこのお兄さん!夕飯決まった?」
帰り道、商店街で声をかけられる。
「魚か……」
「今日はね、いい鮭が入ったのよ!ねえお父さん」
「おう!安くしとくよ〜!」
奥から旦那さんも出てきた。
これはたぶん逃げられないやつだな。
昨日も一昨日も肉だったから、ちょうどいいか。
「じゃあ塩鮭2切れもらいましょうかね」
「あいよォ!」

鮭を買って、家に帰る。
焼くのは正崎さんが帰ってきてからでいいだろう。
味噌汁とサラダは作っておこう。
教えて貰った通り、猫の手を心がける。
なんで正崎さんはあんなに速く千切りができるんだろうか。
「あたしもあれくらい速くなりたいもんですな」

続いて味噌汁。
味噌汁は味噌の分量だけ気をつければどうにかなる気がする。
鍋に、一口大に切ったほうれん草と乾燥わかめを入れて煮る。
お豆腐は……どうやって切るんだ、これ。
野菜みたいに切るわけにはいかないし、他に方法も思いつかない。
正崎さんは手の上で切っていた気がするけど、たぶんそれを見てないところでやったら怒られる。
どうしたものか。
「…あ」
初心者だし、これならきっと許してもらえるだろう。

「ただいま」
玄関から声がする。
迎えに行かねば。
「おかえりなさい。夕飯にします?」
「そうだな、今日は何だ」
「鮭の塩焼きです。今焼きますね」

「その鍋は何だ?」
「お味噌汁も作ってみたんですよ」
見てくださいよ!と勢いよく蓋を開けるとそこには。
わかめとわかめとわかめ。
「……お前、乾燥わかめを戻さずに使ったな」
「え、戻さなきゃいけなかったんですか?」
「水で戻したらどれくらいになるのかわからないだろう」
それはそうですね。
完全にやらかしてしまいましたね、これは。
お玉でぐるぐると鍋の中を見回す正崎さん。
「豆腐、スプーンで掬って入れたな」
「切り方がわからなかったもんで」
「最初から手の上でやろうとしなかっただけマシだ」
わかめが8割を占める鍋を見ながら、正崎さんが笑う。
「料理をやった事ないお前が、一生懸命試行錯誤してる感じが伝わってくる。ありがとう」
「いえいえ。いつかは正崎さん並の凄腕料理人になりますからね!」

ピピッ。
「鮭、焼けましたね」
「夕飯にしよう」
「ええ」

「「いただきます」」
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