いじわるな男
「あぁーとうとうバレちまったかなぁ……」
家に帰って早々、セフンは枕に顔を埋めて独りごちた。まさか、あんなこと言われるなんて思わなくて、完全に動揺し、フリーズしてしまった。あまりに動揺してせいで気まずくて顔を合わせられず、今日はあれからジュンミョンに会いに行けなかった。ほんとうなら一緒に帰っていたはずなのに。
「あぁ!そうだよ!図星なんだよっ!」
だぁっ!と叫び声を上げて、ベッドに大の字になる。
ジュンミョンはセフンの初恋だった。それもひと目惚れである。教壇に立って初めてクラスメイトの前で挨拶したときから、ジュンミョンのところだけが光って見えた。
だけど、どうしていいかわからなかった。他の生徒たちは転校生のセフンに興味津々で話しかけてくるのに、ジュンミョンだけは違った。
他の生徒たちに次々に話しかけられているあいだも、セフンはずっと、ジュンミョンに気を取られていた。なにか一言でもいい。ジュンミョンと話がしたくてしょうがなかった。
それで起こした行動は最悪の結果に終わった。普通に話しかけるのは恥ずかしいから出来なくて、ちょっかいかけたら、ジュンミョンを泣かせてしまった。
それからも、いじのわるいことばっかり言っては、ジュンミョンを怒らせて。そんなことしていたらジュンミョンに嫌われるだけなのに、ジュンミョンを前にするとどうしても照れ隠しで、またいつものように揶揄ってしまう。
ジュンミョンに好意を持つ奴はいっぱいいた。そいつらがジュンミョンに近づこうとするたびに、牽制して、ときには裏でジュンミョンには好きな奴がいるなどと吹聴して諦めさせたこともあった。
そんな最低なことしかできなくて、嫌われることしかできないくせに、ジュンミョンと離れるのだけは絶対に嫌だった。
だが成績は下から数えた方が早い自分が、成績優秀なジュンミョンと同じ高校に行くことは、天地がひっくり返っても無理な話だ。なんでもっと勉強しておかなかったのかと思ってももう遅い。セフンは、進路の話が出始める時期が近づいてくるのが憂鬱でしかたなかった。
それでも進路決める時期はやってくる。とうとう進路相談が始まる頃になると、学校でも成績優秀で有名なジュンミョンの進学先は自然と噂になった。耳にした進学先は、思った通り偏差値の高い高校で、セフンはがっくり肩を落として帰宅したのだが、その晩、家族で食卓を囲んでいるとき、何気なくその高校の話題を出したら、ひょんなことから、その高校は科によってかなり偏差値が違うことを知った。
それなら自分にも行けるかもしれない。それでもセフンの成績では、相当頑張らないといけないレベルだった。
セフンはこの一縷の希望を掴むため、これまでの人生でいちばん死ぬ物狂いで頑張った。縋れるものには縋り、寝る間を惜しんで、机にかじりついて猛勉強した。
そして見事合格。セフンは合格の喜びをひとり噛みしめた。ジュンミョンは、このことを知らない。知ってもきっと喜んではくれない。わかっているけど、それでもジュンミョンのそばにいたい。
高校に行ったら、地元の人間は二人きりだ。変な噂が立っても、ジュンミョンが地元に居づらくなることもない。いや、それでも学校でそんな噂が立ったら嫌だよな……いやいや!噂以前にジュンミョンとの仲を深めないとだろ!
もうガキみたいなことはやめて、ジュンミョンにもっと近づきたい。ずっとお前だけが好きだったって言いたい……と、期待は膨らんでいたのに、高校生活のフタを開けてみれば、この口がまたもやかわいげないことばかりを言ってしまうのだった……。
あぁ、クソっ!おまけに、ジュンミョンに好きなんじゃないの?なんて言われて動揺しまくって……あれ?待てよ??素直に認めればよかったのか?バレてよかったんじゃ?「そうだよ!お前が好きなんだ!」って言えばよかったんじゃなかったのか……???
「だぁっ!クソ!もう、わっかんねぇっ!」
「うるせぇぞ!セフナっ!」
隣の部屋にいる兄が壁越しに怒鳴る声が、超絶に癇に障る。あぁ、うるせぇ!こっちはそれどころじゃねぇんだよ!!
セフンは体を起こして、壁に向かって叫んだ。
「うるせぇ!バカ兄貴っ!!」
「うるさいのはあんたたち両方よ!!二人とも、ご飯だから降りてきなさい!!!」
階下の母の叫びは、兄弟をたやすく凌駕した。セフンは大人しく口を閉ざす。それにしても、あぁ、メシが喉通る気がしねぇ……明日、どんな顔してジュンミョンに会えばいいんだろうか。
セフンは大きく嘆息して、再びベッドにどすんと沈み込むと、冷めるから早く降りてきなさい!と叫ぶ母の声が、まるで水の中にいるように遠く聞こえてきた。
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