いじわるな男


「ジュンミョンって、モテるだろ?」
「そんなことないよ」
 放課後、ジュンミョンはギョンスに誘われて、ファミレスに来ていた。
 いつもなら放課後もセフンが来て駅まで一緒に帰っているが、セフンはあのあと結局一度もジュンミョンの元を訪ねてこなかったのだ。
 ギョンスがなんでジュンミョンがモテると思うのかはわからないが、ジュンミョンは一度も付き合ったこともなければ、告白されたことだってない。昔から勉強を教えてほしいと頼まれることは多かったけれど、それだっていつもセフンの邪魔が入って中断してしまうから、そのうちお声が掛からなくなるのが常だった。そのことをギョンスに話すと、なにがそんなにおかしいのか、また、くくくくくっと笑いだす。
 「なるほどね……」
 そりゃ進展しないわけだ。ギョンスが口の中でつぶやいた言葉は、フライドポテトを持ってきた店員の声でかき消されてジュンミョンの耳には届かなかった。
 揚げたてのポテトに食指が動かされたジュンミョンが、ケチャップに浸してそもそ咀嚼し始めてもギョンスはポテトには目もくれず、テーブルに肩肘をつき、ジュンミョンを観察するかのようにじっと見つめる。
 「ジュンミョンは彼女ほしくないの?」
 「ほしくないわけじゃないけど……」
 正直よくわからないというのが本音だった。
 高2なんて恋の盛りだ。それは、わかっているけれど、自分にはなんだかピンとこない話だった。そりゃ、ほんとうに好きな人ができたら付き合いたいけれど、そんな気配は今のところ皆無だ。
 「それなら、すぐできるぞ。お前のことを好きな女子は山ほどいる」
 またいいかげんなことを……と思っていると、ギョンスは立板に水を流すように、何組の〇〇さんに、〇〇さん、あと、あの子もその子も……と、具体的に名前を列挙し始めて、ジュンミョンは唖然としてしまう。
 「なんでそんなことわかるの?」
 「俺の趣味だから」
 「趣味って?」
 「人間観察」
 ギョンスは大の甘党らしく、注文した堆くフルーツやらアイスやらが盛られたパフェのてっぺんをスプーンで大きく掬い、口に運ぶ。
 ギョンスが人間観察を始めたのは、将来小説家になる夢があったかららしい。ギョンス曰く、小説家たるものまず人の機微を知らなければいけないと思って始めたが、今では小説を書くよりも人間観察の方がよっぽど面白くなってしまったそうだ。ギョンスはちょっと変わったところがあるなと薄々思ってはいたが、人と群れず、人に興味を持ってなさそうなギョンスの趣味が人間観察なんてジュンミョンは思いもしなかった。
 「ギョンスの観察眼があてになるかわからないだろ」
 「いや、目利きには自信がある。それに勘だけで言ってるんじゃない。実際この耳で聞いたことも多い」
 「なんだよそれ、盗み聞きしてるってこと?」
 「人聞きの悪い言い方するんじゃない」
 人聞きの悪い言い方って言うけど、実際そうとしか思えないんだけど……ギョンスはパフェを無表情でもくもくと頬張り、とても美味しそうに食べているようには見えないが、みるみるグラスの中は空になっていき、容器の中立てかけられたパフェスプーンがカランと音を立てた。
 「ジュンミョンは男には興味ないのか?」
 「はい!??」
 その斜め上からの質問に、ジュンミョンはポテトが喉に詰まりそうになるほど驚いた。それに比べて、ギョンスは信じられないほどしれっと顔で続ける。
 「いまどき珍しくないだろ?いや、いまどきの話じゃないな。大昔から男同士の恋愛は別に珍しくない」
 「珍しくはないかもしれないけど、そっ、そんなこと考えたこともないよっ」
 「まぁ、そう言わず考えてみろ」
 考えてみろと言われても、あまりに唐突すぎる。だいたいなんでこんな話になっているんだ?? 
 ジュンミョンが状況に頭が追いつかず目を泳がせていると、ギョンスがぐいっと目の前まで顔を近づけてきた。
 「ジュンミョナ、俺と恋愛してみないか?」
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