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漫画、アニメ系

street fighters


 ふっと鋭く息を吐きながら短いスカートをはためかせて長い足を惜しげもなく衆目に晒して振り抜いた。
 ほんの少しでも早ければ、またはほんの少しでも遅ければ、女の踵は飛来する物体を捉えきれずに直撃を受けて圧殺されていただろう。
 そうならずに、寸分狂わぬタイミングで叩き込まれた一撃は自動販売機の軌道を変えさせ、吹っ飛ぶのではなく女の比較的近くに叩き落とされる。
 大きな鉄の塊を蹴り落とした女は痛そうな素振りを見せずに、やや後ろに立つ折原を振り返って半眼でねめつけた。
 当の青年は、わーすごいすごーいぱちぱちぱちー、とこの重く緊迫した空気の中で芝居掛かった明るい歓声を上げていて、女の視線など毛の先ほども気にしていないらしい。
 うっそりとため息をついた。

「ホント、お兄さんと一緒にいるとロクな事がないです」
「えー、僕のせい? 君の日頃の行いが悪いんじゃないの?」
「私に悔いるべき行いがあるとしたら、それはお兄さんと出会ってしまった事です。そしてこの状況はどう考えてもお兄さんのせいじゃないですか。あの人、平和島静雄さんでしょ、噂の」

 非常識な怪力で標識を根元の方から引きちぎり、近づいてくるバーテンダー姿の男の周囲は陽炎のように揺らめいて見える。黒い色も乗っているような気もする。
 人の目にも映るほどに凝った怒気に相応しく、サングラスをしていても分かる本来ならば幼さを残した端正な顔を凶悪に歪めている。
 勿体無い。実に勿体無い。

「で、どう?」
「どう? って、あんなバグキャラって言うかチートキャラはちょっと……」
「君も似たような性能じゃない」
「いやいや。私は善良な一般市民です……まあ多少武術の嗜みはありますが。あんな人間の規格に収まりきらない身体能力の持ち主と一緒にしないでほし」
「ゴチャゴチャ喋ってんじゃねえええっ!」

 ぶおん、と標識が唸りを上げて襲いかかってくる。
 折原は上半身を反らして、女は体を低くして胴体の高さをなぐそれをやり過ごす。
 フルスイングされた鉄棒はその勢いのまま振り上げられ、

「死ねええええ!」

 渾身の力を込めて振り降ろされた。
 上半身を反らしただけの折原は素早く体勢を戻して軽やかなバックステップで回避。しゃがむ形を取ってしまった女は転がって逃げる。

「逃げんじゃねぇ、このノミ虫野郎!」
「ごめんねー。僕としても君を殺してあげたいのは山々なんだけど、今日はちょっと都合が悪いんだよねー」
「テメェの都合なんざ知るかよっ!」

 喋りながら平和島は標識を振り回し、折原はそれをひょいひょいと避けていく。呼吸をちっとも乱すことなく。
 これなら私が出る必要ないんじゃないかなあと女が思うと、まるで心を読んだかのように折原がこちらを見てにっこりと笑う。小さく手まで振ってくる。だいぶ余裕があるらしい。
 給料が後払いだったら今すぐここから立ち去るところだが、既に受け取ってしまっているためにそんなことはできない。

「それじゃ、あと宜しく。とりあえず池袋から離れたら連絡するから、それまで頑張ってね。できたら殺しちゃってもいいよ」
「いやいや、無理ですって」
「待てっつってんだろっ!」

 逃げる折原と追いかける平和島の間に、女が体を割り込ませた。
 男の眉間に縦皺が一つ増える。
 悲しい。
 なんだってこんなかっこいい男の人に憎悪と殺意しかない視線で睨みつけられなければならないのか。
 あの男と一緒にいて、更に彼の進路を塞いだからかと即座に自己完結する。

「どけ。邪魔するんなら女でも容赦しねぇぞ」
「すみません。非常に申し訳ないんですが、今日はあの人に雇われている身なのでサラリー分の仕事はしないとならないんですよ、甚だ不本意なんですが」

 右足を後ろに引き、腰を落として構えを取る。
 明日から学内で「あの平和島静雄とやりあった女」という欲しくもない二つ名で呼ばれることは必定だろう。
 これで日給八万は安い。安すぎる。

「そう言うわけですので、お相手つかまつります」

 私の平穏な日々を返せ。
 女はうっそりとため息をついた。







2010.06.20
微修正

2010.04.15
初出 リアタイにて


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