漫画、アニメ系
キスマーク・ウォーズ
「で、シーオはどこまで行ったの?」
訓練の後、第一、第二部隊の女性陣でシャワーを浴びてロッカールームで着替えているとそう問われた。 唐突な問にしおは巨大な疑問符を頭上に浮かべた。
きょとんとする少女の様子にジェスはにやにや笑いをより濃くして、しおが、あ、この顔ヤバイと察知した時にはすでに遅く、二人の距離はすっかり詰められていた。
後ずさりながらなんで非戦闘時なのにSキャラなんですか、と言うしおの涙ながらの訴えは完全に黙殺された。
「決まってるでしょ? アイツとの関係についてよ」
「おっと、面白そうだ。そう言う話なら私も混ぜな」
ロッカーを閉めて参戦してきたエスイは素早くしおの背後を取り、がっちり羽交い締めをかけてくる。じたばたともがいて抵抗を試みるが、エスイはびくともしない。
前からジェス、後ろにはエスイ。前門の虎後門の狼もかくやの迫力だ。主に胸のボリュームが。
だが、ここで負けるわけにはいかない。しおは戦うことを決意した。
「いやいやいや! 別に私とジャックさんの間には何にも! 今まで通りの先輩後輩で同僚って言うか戦友って言うかそんな関係でしか!」
「んふ、シーオ。私、一言もアダムだなんて言ってないんだけどォ」
勝敗は一瞬で決した。
しおの圧倒的な敗北である。
「って言うか、ストーンフォレスト作戦終わってからのアンタら見てれば何かあったかなんて丸わかりだってーの。アンタは意識しまくりだし」
「えっ!?」
「そうそう。だからホラ早く白状しちゃいなさいな」
「いえ、だって、別にホント、アレ以来なんにも、ってジェスさんどこ触ってるんですか!」
「だって、シーオがちゃんと話さないから」
「いいぞジェス。そのままやっちまいな。でもキスくらいしてるだろ? 二人きりになるチャンスなんて作ろうと思えば作れるし」
「やっ、だから、ふぁっ、ジェスさんそこダメって、ホント、キスとかアレ以来していいいえっ、今のなしなしなーしーっ!」
「ほほぅ。キスねぇ」
「ストーンフォレスト後のアレっていうのがソレって訳ね」
「ああああ……」
知られたくなかった事実が公になってしまった事とジェスからのセクハラ行為により、しおの顔が人間こんなに赤くなれるのかと言う程に赤くなる。ちなみに度重なるセクハラにより、彼女達からの行為であればなんとか鼻血を出さない程度の耐性はついた。あんまり嬉しくない。
如何に乱世の傑物、織田信長の改造遺伝子を持つとは言っても、数ヶ月前までの小椋しおは軍事、特撮オタクで対人関係スキルが極端に低いと言うこと以外ではどこにでもいる普通の女子高生だったのだ。尋問や拷問に対する訓練など受けていないし、もともと隠し事の苦手な質であるのも災いして、年上の女性二人の手練手管に掛かれば隠し事などいとも容易く暴かれていく。
「いい話を聞いたね」
「お、姫も参加する?」
「当然ね。これから先、アイツをからかういい材料ゲットのチャンスをみすみす逃す手はないね」
遅れて着替えを終えたレモンもまた、にやにやと悪い笑みを浮かべて近寄ってくる。
敵がまた一人増えてしまった。戦艦型と一人対峙した時よりも怖い。
あの時のように、しおの危機を察知してアダムは飛んできてくれない。しおの味方は、彼女の心の中で穏やかに微笑む浅尾だけだった。
「さて、じゃあどうしようか」
「そりゃあ面白いのがいいね」
「それだけじゃ駄目よ。二人の仲も進んでもらわないと」
「いいい、いや、そんなの頼んでませんって! って言うか、進むってなんですか!」
「ああ、いいっていいって。先輩から可愛い後輩へのプレゼントだと思ってて」
「いらないです! そんなプレゼントいらないですって、ひゃっ、ちょっ、エスイさん耳やめ、レモンさんもっ!」
「ふんふん。じゃあこういうのはどうかしら」
「ひゃああ!?」
「ま、そのへんが妥当かね」
「よし、じゃあその作戦で」
「さ、作戦って、あっ、ちょっと、ホント、そこひゃあああっ!?」
あまりにも強烈な刺激に視界をぐるぐると回しながら、しおちゃんファイト! とかそんな浅尾の優しい幻聴が聞こえた気がした。
-----
三人から解放されたしおはよろよろと体を引きずるようにして自室に戻る廊下を歩いていた。
この疲労は半端ではない。体力的にも精神的にも、ストーンフォレスト作戦以上だ。ついでに何か色々と大事なものを失ってしまった様な気もする。気のせいであってほしい。
誰かに会ってしまう前に、さっさと部屋に帰ろう。そしてベッドに潜り込んで、携帯に保存されている浅尾さんとの写メを見て、この深い深い心の傷を癒そう。
そう、思っていたのに。
「しお」
背後から声をかけられて、しおは飛び上がりそうになった。
あれだけ三人にいじくり回された今、一番会いたくない人物だ。どんな顔をすればいいか分からないし、平静でいられる気がしない。最悪、鼻血が出る。アレから時間も経ち、ようやくなんとか顔を合わせられるまでになったと言うのに、また振り出しに戻ってしまった。
どうする。
振り向いて適当に挨拶して逃げる?
いやダメだ。彼がすんなりと解放してれなかったら色々と終わる。
振り向かずに全力で走って逃げる?
それもダメだ。もしも追いかけられたら訓練で体力がついたとは言え、アダムを振り切れる程足は早くないし持続力もない。
そもそも、アダムを無視するなど、後で何をネチネチと言われるか分からない。
織田信長のE遺伝子、こういう時こそ何か策を捻り出してよ。
解決策が何も思いつかず、ダラダラと冷や汗が背中を伝って行くのが分かった。
「おい、しお。無視してんじゃねーよ」
「うひゃあ! 近い近い近いー!」
反応を示さないのにしびれを切らして、前に回り込んで顔を覗き込んできた。
ずいと現れた少し不機嫌そうな顔があまりにも近くてしおが悲鳴に近い声を上げれば、アダムは顔しかめた。
「うっせぇ……あ? おい何だこりゃ」
「え? あっ!」
元々険しい目つきを更に険しくして、伸ばされた指先が首に触れる。
その先にあるものは何かと言えば、ジェスによってつけられたキスマークだ。
シャツの襟でも隠せないところにつけられたそれを隠すつもりでいたのに、距離を詰められるのが突然すぎてすっかり余裕を失くしてしまっていた。
慌てて手で隠そうとするが、それよりも早くアダムに手首を掴まれた。
「ななな何でもない何でもない! アレよ! 虫に刺された的な!」
「虫刺されはこんな痕にゃなんねぇよ」
ぎろと睨まれて、しおは顔を伏せる。目だけはおどおどとしながらではあったがアダムにら向ける。
観念して正直に話さねば、今にも暴れ出しそうな気がした。
「あの、その、ジェスさんとエスイさんとレモンさんに……」
「アイツら……覚えてやがれ……」
「ちょっ、ジャッ、なに、してっ!?」
「気に入らねーが、消せねーから取り敢えず上書き」
首の柔らかい部分に熱を感じた。
男の吐く息の熱さだと思った次の瞬間には、そこに柔らかいものが触れてきた。
思考は仕事を放棄して、後はもう、短い声を上げることもできずにしおは固まるしか出来なかった。
ちゅ、と音が立つほど強く吸われてちりとしたむず痒い様な痛みが走る。少ししてから男の頭が離れて行った。
しおの首に刻んだ濃い鬱血痕に満足そうな表情をするが、それもすぐに消える。まだやるべきことが残っている。
「後はどこだ」
「……へっ?」
「三人にやられたんだろ。後二カ所どこだっつってんだよ」
「あ、ええと、首の後ろのとこと、右のさこ……って、待って! たんまっ! ウェイト! ここ、廊下!」
「聞けねーな。んな痕つけられるお前が悪い」
どうしてこういう時に限って鼻血を吹いて気絶できないのか、しおは心の底から己の体質を恨んだ。あと素直に喋ってしまったことも
ネクタイを緩め、ボタンを上から三つ目までを外そうとするアダムを、しおは必至で食い止めようとするが、力勝負で勝てるはずもない。
にやと口角を釣り上げるその顔は、どこからどう見ても立派な悪人だった。
後日、ふよふよと漂うエウロパを通して二人のやりとりは全て別室で待機していた女性陣(指令含む)に見られていたことを知ったしおはぷち引き籠りとなり、アダムはそんなこったろうと思ってたぜ、と涼しい顔で日々を過ごすのであった。
2014.03.30
初出
「で、シーオはどこまで行ったの?」
訓練の後、第一、第二部隊の女性陣でシャワーを浴びてロッカールームで着替えているとそう問われた。 唐突な問にしおは巨大な疑問符を頭上に浮かべた。
きょとんとする少女の様子にジェスはにやにや笑いをより濃くして、しおが、あ、この顔ヤバイと察知した時にはすでに遅く、二人の距離はすっかり詰められていた。
後ずさりながらなんで非戦闘時なのにSキャラなんですか、と言うしおの涙ながらの訴えは完全に黙殺された。
「決まってるでしょ? アイツとの関係についてよ」
「おっと、面白そうだ。そう言う話なら私も混ぜな」
ロッカーを閉めて参戦してきたエスイは素早くしおの背後を取り、がっちり羽交い締めをかけてくる。じたばたともがいて抵抗を試みるが、エスイはびくともしない。
前からジェス、後ろにはエスイ。前門の虎後門の狼もかくやの迫力だ。主に胸のボリュームが。
だが、ここで負けるわけにはいかない。しおは戦うことを決意した。
「いやいやいや! 別に私とジャックさんの間には何にも! 今まで通りの先輩後輩で同僚って言うか戦友って言うかそんな関係でしか!」
「んふ、シーオ。私、一言もアダムだなんて言ってないんだけどォ」
勝敗は一瞬で決した。
しおの圧倒的な敗北である。
「って言うか、ストーンフォレスト作戦終わってからのアンタら見てれば何かあったかなんて丸わかりだってーの。アンタは意識しまくりだし」
「えっ!?」
「そうそう。だからホラ早く白状しちゃいなさいな」
「いえ、だって、別にホント、アレ以来なんにも、ってジェスさんどこ触ってるんですか!」
「だって、シーオがちゃんと話さないから」
「いいぞジェス。そのままやっちまいな。でもキスくらいしてるだろ? 二人きりになるチャンスなんて作ろうと思えば作れるし」
「やっ、だから、ふぁっ、ジェスさんそこダメって、ホント、キスとかアレ以来していいいえっ、今のなしなしなーしーっ!」
「ほほぅ。キスねぇ」
「ストーンフォレスト後のアレっていうのがソレって訳ね」
「ああああ……」
知られたくなかった事実が公になってしまった事とジェスからのセクハラ行為により、しおの顔が人間こんなに赤くなれるのかと言う程に赤くなる。ちなみに度重なるセクハラにより、彼女達からの行為であればなんとか鼻血を出さない程度の耐性はついた。あんまり嬉しくない。
如何に乱世の傑物、織田信長の改造遺伝子を持つとは言っても、数ヶ月前までの小椋しおは軍事、特撮オタクで対人関係スキルが極端に低いと言うこと以外ではどこにでもいる普通の女子高生だったのだ。尋問や拷問に対する訓練など受けていないし、もともと隠し事の苦手な質であるのも災いして、年上の女性二人の手練手管に掛かれば隠し事などいとも容易く暴かれていく。
「いい話を聞いたね」
「お、姫も参加する?」
「当然ね。これから先、アイツをからかういい材料ゲットのチャンスをみすみす逃す手はないね」
遅れて着替えを終えたレモンもまた、にやにやと悪い笑みを浮かべて近寄ってくる。
敵がまた一人増えてしまった。戦艦型と一人対峙した時よりも怖い。
あの時のように、しおの危機を察知してアダムは飛んできてくれない。しおの味方は、彼女の心の中で穏やかに微笑む浅尾だけだった。
「さて、じゃあどうしようか」
「そりゃあ面白いのがいいね」
「それだけじゃ駄目よ。二人の仲も進んでもらわないと」
「いいい、いや、そんなの頼んでませんって! って言うか、進むってなんですか!」
「ああ、いいっていいって。先輩から可愛い後輩へのプレゼントだと思ってて」
「いらないです! そんなプレゼントいらないですって、ひゃっ、ちょっ、エスイさん耳やめ、レモンさんもっ!」
「ふんふん。じゃあこういうのはどうかしら」
「ひゃああ!?」
「ま、そのへんが妥当かね」
「よし、じゃあその作戦で」
「さ、作戦って、あっ、ちょっと、ホント、そこひゃあああっ!?」
あまりにも強烈な刺激に視界をぐるぐると回しながら、しおちゃんファイト! とかそんな浅尾の優しい幻聴が聞こえた気がした。
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三人から解放されたしおはよろよろと体を引きずるようにして自室に戻る廊下を歩いていた。
この疲労は半端ではない。体力的にも精神的にも、ストーンフォレスト作戦以上だ。ついでに何か色々と大事なものを失ってしまった様な気もする。気のせいであってほしい。
誰かに会ってしまう前に、さっさと部屋に帰ろう。そしてベッドに潜り込んで、携帯に保存されている浅尾さんとの写メを見て、この深い深い心の傷を癒そう。
そう、思っていたのに。
「しお」
背後から声をかけられて、しおは飛び上がりそうになった。
あれだけ三人にいじくり回された今、一番会いたくない人物だ。どんな顔をすればいいか分からないし、平静でいられる気がしない。最悪、鼻血が出る。アレから時間も経ち、ようやくなんとか顔を合わせられるまでになったと言うのに、また振り出しに戻ってしまった。
どうする。
振り向いて適当に挨拶して逃げる?
いやダメだ。彼がすんなりと解放してれなかったら色々と終わる。
振り向かずに全力で走って逃げる?
それもダメだ。もしも追いかけられたら訓練で体力がついたとは言え、アダムを振り切れる程足は早くないし持続力もない。
そもそも、アダムを無視するなど、後で何をネチネチと言われるか分からない。
織田信長のE遺伝子、こういう時こそ何か策を捻り出してよ。
解決策が何も思いつかず、ダラダラと冷や汗が背中を伝って行くのが分かった。
「おい、しお。無視してんじゃねーよ」
「うひゃあ! 近い近い近いー!」
反応を示さないのにしびれを切らして、前に回り込んで顔を覗き込んできた。
ずいと現れた少し不機嫌そうな顔があまりにも近くてしおが悲鳴に近い声を上げれば、アダムは顔しかめた。
「うっせぇ……あ? おい何だこりゃ」
「え? あっ!」
元々険しい目つきを更に険しくして、伸ばされた指先が首に触れる。
その先にあるものは何かと言えば、ジェスによってつけられたキスマークだ。
シャツの襟でも隠せないところにつけられたそれを隠すつもりでいたのに、距離を詰められるのが突然すぎてすっかり余裕を失くしてしまっていた。
慌てて手で隠そうとするが、それよりも早くアダムに手首を掴まれた。
「ななな何でもない何でもない! アレよ! 虫に刺された的な!」
「虫刺されはこんな痕にゃなんねぇよ」
ぎろと睨まれて、しおは顔を伏せる。目だけはおどおどとしながらではあったがアダムにら向ける。
観念して正直に話さねば、今にも暴れ出しそうな気がした。
「あの、その、ジェスさんとエスイさんとレモンさんに……」
「アイツら……覚えてやがれ……」
「ちょっ、ジャッ、なに、してっ!?」
「気に入らねーが、消せねーから取り敢えず上書き」
首の柔らかい部分に熱を感じた。
男の吐く息の熱さだと思った次の瞬間には、そこに柔らかいものが触れてきた。
思考は仕事を放棄して、後はもう、短い声を上げることもできずにしおは固まるしか出来なかった。
ちゅ、と音が立つほど強く吸われてちりとしたむず痒い様な痛みが走る。少ししてから男の頭が離れて行った。
しおの首に刻んだ濃い鬱血痕に満足そうな表情をするが、それもすぐに消える。まだやるべきことが残っている。
「後はどこだ」
「……へっ?」
「三人にやられたんだろ。後二カ所どこだっつってんだよ」
「あ、ええと、首の後ろのとこと、右のさこ……って、待って! たんまっ! ウェイト! ここ、廊下!」
「聞けねーな。んな痕つけられるお前が悪い」
どうしてこういう時に限って鼻血を吹いて気絶できないのか、しおは心の底から己の体質を恨んだ。あと素直に喋ってしまったことも
ネクタイを緩め、ボタンを上から三つ目までを外そうとするアダムを、しおは必至で食い止めようとするが、力勝負で勝てるはずもない。
にやと口角を釣り上げるその顔は、どこからどう見ても立派な悪人だった。
後日、ふよふよと漂うエウロパを通して二人のやりとりは全て別室で待機していた女性陣(指令含む)に見られていたことを知ったしおはぷち引き籠りとなり、アダムはそんなこったろうと思ってたぜ、と涼しい顔で日々を過ごすのであった。
2014.03.30
初出