漫画、アニメ系
ともだち
長いこと一緒にいると、覚えたくも無いのに相手の好みを覚えてしまうらしい。
消耗品や保存食、水を必要な分より多目に買い込み、ついでに自分用の煙草を買い、思い出したように一箱十個入りのドーナツも買った。その直後、何とも形容しがたい感情に襲われてドーナツを買ったことを後悔した。
そう言えば、この前上等な酒をおごってもらった。その礼にしてしまえばいい。そういう事にして納得しようとしたが、背負う巨大な十字架型の銃と同じくらいに心は重かった。
なついてくる成人男性(実年齢は三桁)をなんだかんだ言いながらも拒絶できないでいる。
ああだこうだと煩くてかなわないがそれはそれで楽しいし、戦闘になれば息ぴったりに敵を蹴散らして背中を預けるほどの信頼を得てしまって、ときどきと言うかむしろ毎日一回は喧嘩をしたり、気付いたときには訳の分からない騒ぎに巻き込まれるどころかその中心になっていたり。
思い返せば面倒臭いことばかりだ。こんなヤツとは早くおさらばしてしまいたい。
だが、自分の負っている任務を考えればそんな事ができるはずもなく。
任務が終われば、もうヤツと関わりを持たずに済むのだろうか。それとも、自分もヤツに銃口を向ける側に回ることになるのだろうか。
「……後者やろなぁやっぱり」
そんな日が来るくらいなら、面倒な毎日の方がマシか。
そう思いながら買ったばかりの煙草に火をつけて、角を曲がった時、ウルフウッドは思わず天を仰いで呻いた。
「……前言撤回や」
「やーウルフウッドー! 良かったーグッドタイミングー!」
旅の連れの脳天気な声にくらりとめまいを覚えた。
このガンガンに照り付ける陽射しにだってめまいを起こしたことがないのになんという破壊力だ。
ついでにソイツの置かれた状況にまたかと呆れ、同時にふつふつと怒りが込みあげてきた。
「酷いんだよこの人達。ちょっと肩がぶつかったから謝ったのに、因縁つけてくるんだよー」
「……ワイを巻き込まんといてくれ」
漆喰の剥げた民家の壁に背をくっつけて、両手を高く上げて降参のポーズをとる赤いコートの男に向けられていた八つの銃口のうち半分がウルフウッドに向けられた。
形ばかり両手を上げて見せながらサングラスの下の目でちらりと周りを伺えば、そこここの路地からこちらを狙う男がもう数人。
つまり。
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを倒して懸賞金と名を得よう、ちゅーことか」
「そうみたいなんだよね。まったくメイワクな話だよー」
「自覚あるんやったらもっと目立たんようにせい!」
ウルフウッドの怒りの沸点は低い。
買い物袋を宙高く放り投げ、パニッシャーの梱包を一瞬で解いて構えた。
彼が臨戦体勢をとったことに全員の意思が集中し、その隙にヴァッシュは走ってまだ宙にある袋をキャッチしながら銃を抜いた。
これから起こる銃撃戦を思い、優しげな風貌をほんの少しだけ悲しそうに歪めてウルフウッドの隣に立った。
「汝、殺すなかれだよ」
「わかっとるわ! 耳たこやボケ!」
こんなヤツと友達でもいいかと一瞬でも本気で考えた自分が情けくなった。
迷惑料としてドーナツは没収だ。
二人は今日も、熱砂の星を命がけで生きている。
2008.03.23
修正
2006.xx.xx
初出 ブログにて
長いこと一緒にいると、覚えたくも無いのに相手の好みを覚えてしまうらしい。
消耗品や保存食、水を必要な分より多目に買い込み、ついでに自分用の煙草を買い、思い出したように一箱十個入りのドーナツも買った。その直後、何とも形容しがたい感情に襲われてドーナツを買ったことを後悔した。
そう言えば、この前上等な酒をおごってもらった。その礼にしてしまえばいい。そういう事にして納得しようとしたが、背負う巨大な十字架型の銃と同じくらいに心は重かった。
なついてくる成人男性(実年齢は三桁)をなんだかんだ言いながらも拒絶できないでいる。
ああだこうだと煩くてかなわないがそれはそれで楽しいし、戦闘になれば息ぴったりに敵を蹴散らして背中を預けるほどの信頼を得てしまって、ときどきと言うかむしろ毎日一回は喧嘩をしたり、気付いたときには訳の分からない騒ぎに巻き込まれるどころかその中心になっていたり。
思い返せば面倒臭いことばかりだ。こんなヤツとは早くおさらばしてしまいたい。
だが、自分の負っている任務を考えればそんな事ができるはずもなく。
任務が終われば、もうヤツと関わりを持たずに済むのだろうか。それとも、自分もヤツに銃口を向ける側に回ることになるのだろうか。
「……後者やろなぁやっぱり」
そんな日が来るくらいなら、面倒な毎日の方がマシか。
そう思いながら買ったばかりの煙草に火をつけて、角を曲がった時、ウルフウッドは思わず天を仰いで呻いた。
「……前言撤回や」
「やーウルフウッドー! 良かったーグッドタイミングー!」
旅の連れの脳天気な声にくらりとめまいを覚えた。
このガンガンに照り付ける陽射しにだってめまいを起こしたことがないのになんという破壊力だ。
ついでにソイツの置かれた状況にまたかと呆れ、同時にふつふつと怒りが込みあげてきた。
「酷いんだよこの人達。ちょっと肩がぶつかったから謝ったのに、因縁つけてくるんだよー」
「……ワイを巻き込まんといてくれ」
漆喰の剥げた民家の壁に背をくっつけて、両手を高く上げて降参のポーズをとる赤いコートの男に向けられていた八つの銃口のうち半分がウルフウッドに向けられた。
形ばかり両手を上げて見せながらサングラスの下の目でちらりと周りを伺えば、そこここの路地からこちらを狙う男がもう数人。
つまり。
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを倒して懸賞金と名を得よう、ちゅーことか」
「そうみたいなんだよね。まったくメイワクな話だよー」
「自覚あるんやったらもっと目立たんようにせい!」
ウルフウッドの怒りの沸点は低い。
買い物袋を宙高く放り投げ、パニッシャーの梱包を一瞬で解いて構えた。
彼が臨戦体勢をとったことに全員の意思が集中し、その隙にヴァッシュは走ってまだ宙にある袋をキャッチしながら銃を抜いた。
これから起こる銃撃戦を思い、優しげな風貌をほんの少しだけ悲しそうに歪めてウルフウッドの隣に立った。
「汝、殺すなかれだよ」
「わかっとるわ! 耳たこやボケ!」
こんなヤツと友達でもいいかと一瞬でも本気で考えた自分が情けくなった。
迷惑料としてドーナツは没収だ。
二人は今日も、熱砂の星を命がけで生きている。
2008.03.23
修正
2006.xx.xx
初出 ブログにて