P3P まとめ
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夜明けにはまだ早い
影時間に突入する、二十四時。
風花は寮の作戦室でユノを召喚し、ゆかりと乾とコロマルの二人と一匹は戦闘能力を持たない彼女の護衛を兼ねて待機。残るメンバーはそれぞれに街に散り、風花の探索網をすり抜けるストレガの二人を探したり、影時間に囚われた人がいないか見まわったりとするのがタルタロスへ行かない日の基本行動になっていた。
季節は十二月になり、冷たい風に震えるはずが、この時間は気候の変化も起こらない。空気はいつものように生ぬるく、質量を持つようにまとわりついてくる。異臭の混じった風がゆっくりと吹き、タルタロスからシャドウたちの呻き声を遠くまで運ぶ。
最初の頃こそ、その不気味な風景に嫌悪感を隠し切れなかったが、今ではすっかり慣れた公子が深い緑色の空を見上げると、そこには満ちていく大きな月が浮いている。
ふと、彼もどこかでこの月を見上げているのだろうかと考えて、胸の奥がずしりと重たくなった。
また、だ。
こうやって一人で影に浸食された街を歩いていると、自分でも気付かないうちに目的がすり替わっている。
公子が探しているのはストレガでも、取り込まれた一般人でもない。あの日から姿を消した、彼を探している。
優しげな風貌を、優しい心を、この影時間どこかで、たった一人で悲しみと絶望に歪ませているのだろうかと思うと泣きたくなる。
会いたい。会って、力いっぱい抱きしめて、一緒に泣きたかった。
突然、キィンと耳鳴りのような音が頭の中に響いた。
己の一部であるペルソナを使って作った武器だからなのだろうか。時折こうして己の心に呼応するかのように鳴く。その身に宿すペルソナたちは召喚器をもってして呼ばれなければ沈黙を守るが、分離したことで自我と呼ぶべきものが強くなり、こうして簡単な意思表示ができるようになったらしい。もっとも、それは己の使う武器だけであって、他のメンバーの武器を作るのに使ったペルソナ達はこんなふうに鳴くことはない。物理的に離れてしまったことで、彼らとは完全に乖離してしまったのだ。
そっと柄を撫でて、少女は語りかける。
「心配してくれてるの?」
キン、キィン、と悲しそうな音がいくつもする。これまでこの武器の礎となってくれた五体のペルソナのものだ。
少女の顔が緩む。たとえそれが自己愛に繋がるものだとしても、彼らの優しい心が嬉しかった。
「大丈夫だよ、心配しないで」
柄を優しく撫でると、落ち着いたのかペルソナは鳴くのを止めた。
多くの戦いを経て、以前とは比べ物にもならないほどにペルソナの扱いは上手くなった。その本来の力を引き出し、より強力な技も使えるようになった。
だが、不安定な精神状態でペルソナを使えばどうなるか分からない。特に己は、多くのペルソナをこの心に宿している。中には神とも称されるほどの強力なものもある。もしもそれらが暴走したら。
想像して、公子は身震いした。
肉体的にも精神的にも、強くあることが求められている。たった一人の少年に、心を騒がせるようではだめだ。
脳裏に浮かぶ少年の残像を振り払うかのように、公子は深緑の闇の中を歩き始めた。
2009.11.22
初出
影時間に突入する、二十四時。
風花は寮の作戦室でユノを召喚し、ゆかりと乾とコロマルの二人と一匹は戦闘能力を持たない彼女の護衛を兼ねて待機。残るメンバーはそれぞれに街に散り、風花の探索網をすり抜けるストレガの二人を探したり、影時間に囚われた人がいないか見まわったりとするのがタルタロスへ行かない日の基本行動になっていた。
季節は十二月になり、冷たい風に震えるはずが、この時間は気候の変化も起こらない。空気はいつものように生ぬるく、質量を持つようにまとわりついてくる。異臭の混じった風がゆっくりと吹き、タルタロスからシャドウたちの呻き声を遠くまで運ぶ。
最初の頃こそ、その不気味な風景に嫌悪感を隠し切れなかったが、今ではすっかり慣れた公子が深い緑色の空を見上げると、そこには満ちていく大きな月が浮いている。
ふと、彼もどこかでこの月を見上げているのだろうかと考えて、胸の奥がずしりと重たくなった。
また、だ。
こうやって一人で影に浸食された街を歩いていると、自分でも気付かないうちに目的がすり替わっている。
公子が探しているのはストレガでも、取り込まれた一般人でもない。あの日から姿を消した、彼を探している。
優しげな風貌を、優しい心を、この影時間どこかで、たった一人で悲しみと絶望に歪ませているのだろうかと思うと泣きたくなる。
会いたい。会って、力いっぱい抱きしめて、一緒に泣きたかった。
突然、キィンと耳鳴りのような音が頭の中に響いた。
己の一部であるペルソナを使って作った武器だからなのだろうか。時折こうして己の心に呼応するかのように鳴く。その身に宿すペルソナたちは召喚器をもってして呼ばれなければ沈黙を守るが、分離したことで自我と呼ぶべきものが強くなり、こうして簡単な意思表示ができるようになったらしい。もっとも、それは己の使う武器だけであって、他のメンバーの武器を作るのに使ったペルソナ達はこんなふうに鳴くことはない。物理的に離れてしまったことで、彼らとは完全に乖離してしまったのだ。
そっと柄を撫でて、少女は語りかける。
「心配してくれてるの?」
キン、キィン、と悲しそうな音がいくつもする。これまでこの武器の礎となってくれた五体のペルソナのものだ。
少女の顔が緩む。たとえそれが自己愛に繋がるものだとしても、彼らの優しい心が嬉しかった。
「大丈夫だよ、心配しないで」
柄を優しく撫でると、落ち着いたのかペルソナは鳴くのを止めた。
多くの戦いを経て、以前とは比べ物にもならないほどにペルソナの扱いは上手くなった。その本来の力を引き出し、より強力な技も使えるようになった。
だが、不安定な精神状態でペルソナを使えばどうなるか分からない。特に己は、多くのペルソナをこの心に宿している。中には神とも称されるほどの強力なものもある。もしもそれらが暴走したら。
想像して、公子は身震いした。
肉体的にも精神的にも、強くあることが求められている。たった一人の少年に、心を騒がせるようではだめだ。
脳裏に浮かぶ少年の残像を振り払うかのように、公子は深緑の闇の中を歩き始めた。
2009.11.22
初出