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その他いろいろ

約束を、させられました。




 戦闘の練習に付き合ってほしい、と少女がトレーニング中のバティムの元へとやってきた。
 伸び代のある新人の育成はバティムにとっても益のある事だ。弱者を圧倒的な力で捻じ伏せて浴びる歓声も悪くはないが、やはり強い相手との磨かれた技の応酬や見応えのある戦いを繰り広げれば舞台は華やかになる。
 それに、まだまだひよっ子の少女には己の身を守る術を学んでもらう必要もある。
 何せ己の主たる者なのだ。もちろん守る気はあるが、弱いままであるなど許されない。
 いいよ、と少女を伴って空いている鍛錬室へと移動して、アプリを起動して閉鎖領域を展開させる。
 少女の手に一振りの剣が握られた。

「じゃ、始めよっか。どっからでもかかってきていいよん」
「よろしくお願いします! いくよっ!」

 少女の振るう剣が空を裂く。
 避けられる事は想定済み。むしろ返す軌跡こそが本命。
 くるりとコマのように美しく回れば長い髪が乱れ、隠された表情はきっと薄いながらも壮絶な微笑を浮かべているだろう。
 大きく踏み込めば膝丈よりも短いスカートがぶわとめくれて年頃の娘らしい瑞々しい太腿があらわになり、

「ちょちょちょストップストップストーップ!!」

 常に闘争に身を置くバティムにしてみれば、戦いに身を置いたばかりの少女の攻撃を読むことなど造作もない。
 テンポよく繰り出される斬撃は観客の目を奪うだろう。もう二撃ほど振らせたら攻勢に転じようか。分かりやすく派手な足技を繰り出して避けさせて、わざと作った隙に誘い込んでから相手の一撃の手元を蹴り上げてフィニッシュ。クルクルと宙を舞ってリングに剣が突き刺さるとか最高にカッコよくない? 相手がご主人ちゃんとは言え、最高の舞台を演出する為なら勝ちを譲るなんてあり得ないよね、と流れを組み立てていたバティムだったが、主のあられもない姿にそんな考えは吹き飛んだ。
 ぱんつが丸見えだ。

「えっ、わ、わ!」

 闘いは楽しみながらも真剣なバティムの常にない慌てぶりに少女は剣を止めようとしたが回転でついた勢いは容易には止まらず、剣の軌道をなんとか変えたものの足を縺れさせて男に突っ込んだ。
 しっかり鍛えられた体躯には小柄な少女の攻撃の意思のない体当たり程度ではびくともしないのだが、体勢の悪さと主のぱんつに動揺して少女に押し倒される形になってしまった。

「たたた……ご主人ちゃん大丈夫? 頭ぶつけてない?」

 バティムの腕は少女の頭を自分の胸に押しつけ、彼自慢の意思を持つかのように動く長く美しい尾が少女の腰に巻きつき、少女を衝撃から守っていた。
 ふわふわでいい匂いのする体毛に顔を埋めていた少女が、顔を上げる。

「うん、大丈夫。ありがとう。でも、なんで急に止めたの?」
「いやいやいやそりゃ止めるって! ご主人ちゃんパンツモロ見せってどう言うこと!? 女の子でしょうが! そーいう危機感の薄さどうにかしなっての! ココ撮影も録画も禁止になってないんだから! あー、アンドゥヴァリのヤツが悪い儲け話持って来そう。ゼーッタイ断れよ!」
「パンチラギリギリ写真の話ならもう来たよ。気持ち悪いから断ったけど」

 仕事熱心で行動力の高いドワーフに思わず舌打ちが漏れた。
 手遅れだったが、少女の倫理感が案外しっかりしていた事にバティムは安堵した。
 だが、この無防備さはどうしたものか。
 盛大なため息をつくが、当の本人である少女はいまひとつ分かっていないらしく、どこかきょとんとした顔をしている。
 少女に回されていた腕と尻尾を解いて体の上から下ろすと床に正座をさせる。自分も相対して正座した。
 こういったのはガラではない自覚はあるが、今すぐに他に真っ当に説教してくれる人物にアテもない。

「ほんっと、ご主人ちゃん分かってる? 女子高生のパンチラの価値は計り知れないし相手の動揺を誘うには良い手だけど、ダメ! 絶対!」
「えー、自分はもっと過激な格好してるくせに横暴」
「オレっちはいーの! 趣味もあるけど見てもらうための衣装だから! でもご主人ちゃんは違うでしょ! 下にレギンスとか履くように! ……あーもー、オレっち心配でご主人ちゃんの試合に乱入して代わりに闘っちゃうかも」
「心配って……なんでそうなるの? パンツ見られるくらい別に。この格好で動いてたら仕方ないし。写真に残るのはさすがに嫌だけど」

 分かっていない少女は首を傾げる。
 これである。
 こういう所が、バティムを含む彼女に召喚された者達の、あるいは友人達の頭を抱えたくなる所なのだ。
 伸ばされたバティムの手が少女の後頭部へ、存在感のあるボリュームをしている大きな尾も音もなく少女の背後に回されていた。
 思わず身を引こうとしたが逃げる場所は既になく、悪魔の顔が寄せられる。
 普段の明るい光でも闘う時の熱狂の光でもなく、底冷えのする、彼が悪魔であると信じざるを得ない暗い光だ。

「ご主人ちゃんはぜーんぶオレっちのだから。本当は閉じ込めておきたいくらい。闘う姿だって誰にも見せたくないのに他の野郎にパンツ見せるなんて言語道断。そんな野郎は全員、殺しちゃう。ねぇ?」

 軽い口調はいつものまま、明るさの消えた鼓膜を震わせる低い声と鼻腔をくすぐるフレグランスの香りに少女は頭をクラクラさせ、輪郭をなぞる優しい手に全身がざわざわとする感覚を覚えた。
 飲み込まれそうな雰囲気に声も出せずに少女は首を横に振るしかできず、その様子にバティムはニコリといつもの人好きする笑顔を浮かべる。

「そ? じゃ、分かったらちゃーんと履くこと! OK?」

 こくこくとうなずく主に悪魔は良くできましたとばかりに大きなその手で小さな頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「約束、破らないでね?」



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