レディアントマイソロジー2 まとめ
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もしも願い、一つだけ叶うなら。
「もらってきました」
そう言ってくのいちの少女が里から持ち帰ったのは大きな竹だった。建物で三階建て分に相当したそれは船長の置く場所に困りますという発言から二メートル程度に切られてホールの片隅に置かれる事で落ち着いた。
七夕という風習はすず以外に馴染みは薄かったが、物珍しい行事に船員のほとんどがホールに集まって飾りつけなどに参加してちょっとした騒ぎになっていた。
「こう、かな?」
「こう、だろ?」
「こう、じゃない?」
「こう、です」
「「「おおー!」」」
「確かに、そうやって折ってから切れ目を入れれば作るのも簡単ね」
「ハサミの入れ方にもコツがあるようですね」
「見ろよこのほそぎゃー千切れた!」
「あっはっはっはー。ばっかねぇ。欲張るからよ」
「なになに。『イリアがもっと僕に優しくなりますように』ぃ? そっかぁ。ルカくんは、アタシのことを優しくないって思ってたんだぁ」
「ちっ、ちがうよイリア! これはそう言うんじゃなくて! ちょっ、笑ってる顔が怖いよ!」
「なるほどねぇ。これはいいイベントだわ。お金もそんなにかからないし、子どもたちは喜ぶし。今度うちの孤児院でもやりましょう、これ。スタンは竹取り係りね」
「おう、任せておけ!」
「『腹いっぱい飯が食えますように』? ふふっ、リッドらしいわね。キールは書かないの?」
「フン。馬鹿馬鹿しくてやってられるか」
「もー。ノリが悪いんだから」
「ルビアは何て書いたんだよ」
「きゃー! 覗かないでよカイウスのえっち!」
「なっ、なんでそうなんだよ!」
ざわざわ、がやがや。
その騒ぎの中で少女は一人、普段にはないほど真剣な顔をしていた。
しばらく悩んでからペンを動かし、それもほんの数文字を書いたところで再びペンを止め、また悩んでからペンを動かす。
ペンの動きが止まって書き終えたのかと思えば、書き損じたのか別の願いが思い浮かんだのか、その短冊を丸めてぽいとテーブルの上に転がした。そして新しい短冊にペンを走らせていく。
何をそんなに悩んでいるのかが気になって、自分の分をさっさとくくりつけてディセ君に近づいた。
「願い事は書けたかな?」
「あ、はい! ばっちりです」
鮮やかな青色の短冊には幼い文字で『世界が平和になって、みんなが笑って暮らせますように』と書かれていた。
実に彼女らしい願い事で顔が緩む。心配は無用だったようだ。
「君らしいね。でも、もっと自分のための願いを書いても罰は当たらないと思うよ」
「いいんですよー。これが私の一番のお願いですから」
「ユージーン殿につけてもらうといい。高いところにつけた方が願いは叶いやすいそうだから」
常のような打てば響く鐘のような返答は、けれどすぐには返ってこなかった。
一呼吸ほどの間にだけ覗かせた、笑い方を忘れたかのようなぎこちない顔。そこにいつもの彼女は居なかった。もっと大人びた、誰かの顔。
「分かりました、お願いしてみます! ユージーンさーん!」
小走りで駆けていくディセ君は、いつもの彼女だった。背の高いユージーン殿を見上げる彼女の横顔からは、つい今しがた覗かせた表情は欠片も残っていない。
見間違い、だったのだろうか。
思わず目をこすり、ふと視線を落とした先に丸められた桃色の紙を見つけた。
先ほど彼女が短冊を丸めていたのを思い出し、拾い上げてくしゃくしゃに丸められたそれを丁寧に伸ばすと、そこに書かれた文が目に飛び込んできた。
その瞬間、胸が殴られたように痛んだ。
「……君、は」
どんな気持ちでこれを書き、握りつぶし、あの願いを書いたのだろうか。
私の言葉をどんな気持ちで聞いたのだろうか。
そのことに気づけなかった己に反吐が出る。
書きかけの願い事は、ディセ君自身を否定する願いだ。そのことを彼女が理解していないはずはない。誰よりも、彼女自身が理解していることだ。理解していてなお、書かずにはいられなかった願いなのだと思うと腹の底がじくりと苦しくなる。
世界樹が世界を守るために生み出すディセンダー。 世界を滅びの危機より救うために存在し、平和が訪れれば世界樹へと還り、眠りにつく。時を経て、やがて英雄譚として、あるいは子どもに読み聞かせる昔話として人々に語り継がれる。
彼女が存在していられるのは、つまり世界が滅びの危機にある今だけなのだ。存在し続けたいと願うなら、それは世界の平和を望まないということと同義である。
『ずっとみんなと一緒に』
二つの願いは、共存できない。
耐え切れなくなって手を握れば、開いたそれが再びびぐしゃりと潰された。
辛いのは私ではなく彼女なのに。
いつか、彼女は世界樹へと還る日がやってくる。
そう遠くない、いつか。
2009.07.09
修正
2009.07.07
初出
「もらってきました」
そう言ってくのいちの少女が里から持ち帰ったのは大きな竹だった。建物で三階建て分に相当したそれは船長の置く場所に困りますという発言から二メートル程度に切られてホールの片隅に置かれる事で落ち着いた。
七夕という風習はすず以外に馴染みは薄かったが、物珍しい行事に船員のほとんどがホールに集まって飾りつけなどに参加してちょっとした騒ぎになっていた。
「こう、かな?」
「こう、だろ?」
「こう、じゃない?」
「こう、です」
「「「おおー!」」」
「確かに、そうやって折ってから切れ目を入れれば作るのも簡単ね」
「ハサミの入れ方にもコツがあるようですね」
「見ろよこのほそぎゃー千切れた!」
「あっはっはっはー。ばっかねぇ。欲張るからよ」
「なになに。『イリアがもっと僕に優しくなりますように』ぃ? そっかぁ。ルカくんは、アタシのことを優しくないって思ってたんだぁ」
「ちっ、ちがうよイリア! これはそう言うんじゃなくて! ちょっ、笑ってる顔が怖いよ!」
「なるほどねぇ。これはいいイベントだわ。お金もそんなにかからないし、子どもたちは喜ぶし。今度うちの孤児院でもやりましょう、これ。スタンは竹取り係りね」
「おう、任せておけ!」
「『腹いっぱい飯が食えますように』? ふふっ、リッドらしいわね。キールは書かないの?」
「フン。馬鹿馬鹿しくてやってられるか」
「もー。ノリが悪いんだから」
「ルビアは何て書いたんだよ」
「きゃー! 覗かないでよカイウスのえっち!」
「なっ、なんでそうなんだよ!」
ざわざわ、がやがや。
その騒ぎの中で少女は一人、普段にはないほど真剣な顔をしていた。
しばらく悩んでからペンを動かし、それもほんの数文字を書いたところで再びペンを止め、また悩んでからペンを動かす。
ペンの動きが止まって書き終えたのかと思えば、書き損じたのか別の願いが思い浮かんだのか、その短冊を丸めてぽいとテーブルの上に転がした。そして新しい短冊にペンを走らせていく。
何をそんなに悩んでいるのかが気になって、自分の分をさっさとくくりつけてディセ君に近づいた。
「願い事は書けたかな?」
「あ、はい! ばっちりです」
鮮やかな青色の短冊には幼い文字で『世界が平和になって、みんなが笑って暮らせますように』と書かれていた。
実に彼女らしい願い事で顔が緩む。心配は無用だったようだ。
「君らしいね。でも、もっと自分のための願いを書いても罰は当たらないと思うよ」
「いいんですよー。これが私の一番のお願いですから」
「ユージーン殿につけてもらうといい。高いところにつけた方が願いは叶いやすいそうだから」
常のような打てば響く鐘のような返答は、けれどすぐには返ってこなかった。
一呼吸ほどの間にだけ覗かせた、笑い方を忘れたかのようなぎこちない顔。そこにいつもの彼女は居なかった。もっと大人びた、誰かの顔。
「分かりました、お願いしてみます! ユージーンさーん!」
小走りで駆けていくディセ君は、いつもの彼女だった。背の高いユージーン殿を見上げる彼女の横顔からは、つい今しがた覗かせた表情は欠片も残っていない。
見間違い、だったのだろうか。
思わず目をこすり、ふと視線を落とした先に丸められた桃色の紙を見つけた。
先ほど彼女が短冊を丸めていたのを思い出し、拾い上げてくしゃくしゃに丸められたそれを丁寧に伸ばすと、そこに書かれた文が目に飛び込んできた。
その瞬間、胸が殴られたように痛んだ。
「……君、は」
どんな気持ちでこれを書き、握りつぶし、あの願いを書いたのだろうか。
私の言葉をどんな気持ちで聞いたのだろうか。
そのことに気づけなかった己に反吐が出る。
書きかけの願い事は、ディセ君自身を否定する願いだ。そのことを彼女が理解していないはずはない。誰よりも、彼女自身が理解していることだ。理解していてなお、書かずにはいられなかった願いなのだと思うと腹の底がじくりと苦しくなる。
世界樹が世界を守るために生み出すディセンダー。 世界を滅びの危機より救うために存在し、平和が訪れれば世界樹へと還り、眠りにつく。時を経て、やがて英雄譚として、あるいは子どもに読み聞かせる昔話として人々に語り継がれる。
彼女が存在していられるのは、つまり世界が滅びの危機にある今だけなのだ。存在し続けたいと願うなら、それは世界の平和を望まないということと同義である。
『ずっとみんなと一緒に』
二つの願いは、共存できない。
耐え切れなくなって手を握れば、開いたそれが再びびぐしゃりと潰された。
辛いのは私ではなく彼女なのに。
いつか、彼女は世界樹へと還る日がやってくる。
そう遠くない、いつか。
2009.07.09
修正
2009.07.07
初出