レディアントマイソロジー2 まとめ
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熱い一日
バンエルティア号は海を航行するだけでなく、空を飛行することも可能である。船の大きさは巡洋艦ほどあり、元海賊船だけあって戦闘装備も充実していたのだが、グランマニエの支援を受けてその設備は更に強力なものとなった。
この上もなく便利な移動要塞の体を成しているのだが、唯一にして最大の問題があった。
船の大きさとその機能から、一般の港への入港が拒否される事が多々起こるのである。
そのため、町へ食料やら日用品やらを買い出しに行ったり、募集に集まった傭兵を迎え入れたりするのに小型の船舶を使って何往復もしなければならず、それはもうこの上もなく面倒なのであった。こればかりは大国グランマニエの名前を出してもどうにもならず、ジェイドは苦い笑みを浮かべていた。
そして今、今回も入港を拒否されたバンエルティア号は、南の海上に浮かんでいた。
船長を筆頭に何人かのギルドメンバーは小型の船を使って遠くに見える港町まで買出しに行っており、留守を任されて残っている人間はあまり多くない。
ディセとアッシュは、その多くない人間の中に含まれていた。
「暑くないの?」
「……うるせぇ」
日光が痛いほどに降り注ぎ、白いシーツやギルドメンバーの服などがいっぱいに干されて風にはためく甲板に、二人は居た。日の当たる場所ではなく、外壁よりの日陰になっている場所を選んでいる。
ディセの格好は胸を覆うちっぽけな布と股下までの丈の袖なしのジャケットという、夏には最適だが些か過激すぎる出で立ちだ。ちなみにホットパンツを履いてはいるのだがジャケットに隠れてしまって、一見すると下を履いていないようにも見えてしまう。
少女の隣に立つ少年はと言えば、いつもの通りの黒い服でいる。だが良く見れば、いつもはきっちりと閉めている首元も今日は僅かに緩められている。なんとも無いという顔をしていても暑いらしい。
「服、脱いだらいいのに。黒は光を吸収するから熱くなるって、リフィル先生が言ってたよ」
「余計なお世話だ」
声に苛立ちが現れている。
暑いとそれだけで苛々が溜まるんだなあと少女は考えるが、少年のストレスの原因の一端を己が担っているなど、露ほどにも感じていない。
「それにしても暑いねえ」
ぼやきながら額に浮いた汗を手の甲で拭う。ぬるりとした感触が気持ち悪かった。
少年のほうを見れば、やはり彼も額に玉になった汗を浮かべている。そのうちの一つが少年の頬を筋になって伝った。
「やっぱり暑いんじゃない」
「うるせぇよ」
「せめて上着くらい脱いだら?」
「何度も言わせるな。余計なお世話だ」
「私がいると恥ずかしい?」
「……何でそうなんだよ」
げんなりした。暑いというだけで気力は根こそぎ奪われていくというのに、更に追い討ちを掛けられるとは。
アッシュの口からはっきりとした否定の言葉を聞かなかったディセは何を納得したのかうんうんと頷いている。
なんだか面倒な誤解をしているような気がして、アッシュが口を開こうとしたその時。
「じゃあ、脱がせてあげる」
可愛らしい声とは裏腹の、殺気じみた気配に全身が粟立った。
とっさに前方へ跳びながら体を反転させると、一つに束ねられた銀の髪を振り乱して先ほどまでアッシュの立っていた場所に手を伸ばすディセの姿があった。
空を掴んだディセはすぐさまアッシュの方に体を捻り、床を蹴ってアッシュを追いかける。
少年の足が床を捉えて更にバックステップを取ろうとするが、格闘家である少女の方が剣士である彼よりも敏捷性はずっと上だ。ぐんと伸びてきたディセの手が青年の胸倉を掴み、続けて遠慮のない足払い掛けてきた。青い空が見えたと同時に、背中から床に叩きつけられた。その衝撃で一瞬息が詰まり、視界が白くなる。
彼の呼吸と視界が元に戻るよりも早く、ディセは彼の両足の間に己の体を差し込むと、しっかりと二本の腕と胴体でその足を固定して回転を始めた。いわゆるジャイアントスイングである。
男の体が宙に浮く。こうなってしまっては、もう逃れられない。
ぐるん、ぐるん、ぐるん。
三回転で十分な勢いがつき、四回転目で少女は。
「そぉ、れぇっ!」
「―――っ!!」
少年を海に向かって放り投げた。
聞き慣れた波の音に混じって、どっぽーんという派手な音が聞こえた。船がもう少し小さければ、もしかしたら水柱が立ったのが見えたかもしれない。
ディセは備え付けられている縄梯子を持って自分の身長よりも高い塀によじ登って海を見下ろすと、海面に深紅の塊がゆらゆらと漂っているのが見える。アッシュの頭だ。
手を振って合図を送ってから縄梯子を垂らすと、アッシュはそれを登ってきた。
ぽたぽたと海水を滴らせる顔はとても不機嫌で、小刻みに体が震えているのは寒さのせいではない。
「てめぇ……」
「これで服、脱げるね」
十二分に溜まった怒りを衝動に任せて怒鳴り散らせなかったのは、恐ろしいことに少女が心の底から彼のためになると思っているからだ。もっとも、これが例えば双子の兄であれば例え純然たる親切心からの行動であっても問答無用で抜刀して袈裟斬りにしているところである。
ならばディセをこのまま無罪放免で許すかと言えば、そんなことは断じてありえない。 屈託のない笑顔が憎かった。
未だ縄梯子に掴まっている少年は、少女に向かって片手を出した。
「手ぇ貸せ」
「あ、そっか。はい」
差し出された手をしっかりと握って、少女は少年をぐいっと引っ張り上げた。
だが、少年がわざとその力に抵抗しているのか彼の体は船の上に戻ってこない。
「アッシュ?」
ディセからは見えない位置で、アッシュの足の裏が船の外壁をしっかりと捉えていた。
頭に疑問符を浮かべる少女に、少年はにやりと笑った。
「せいぜい驚きやがれ」
梯子を掴んでいた片手が、少女の手首を掴んだ。力が込められて痛いくらいだ。
「え?」
少年の足が外壁を思い切り蹴ると、ふわりと体が宙を舞った。
手を握られていた少女の体もまた、少年の後を追って宙を舞う。
「こんなんじゃ、全然溜飲は下らないがな!」
「きひゃあーーーーっははははは!」
アッシュの怒声とディセの笑い交じりの悲鳴が響いた直後にどっぼーんという着水音がして、大きな水柱が一つ、穏やかな海に立った。
2009.04.07
初出
バンエルティア号は海を航行するだけでなく、空を飛行することも可能である。船の大きさは巡洋艦ほどあり、元海賊船だけあって戦闘装備も充実していたのだが、グランマニエの支援を受けてその設備は更に強力なものとなった。
この上もなく便利な移動要塞の体を成しているのだが、唯一にして最大の問題があった。
船の大きさとその機能から、一般の港への入港が拒否される事が多々起こるのである。
そのため、町へ食料やら日用品やらを買い出しに行ったり、募集に集まった傭兵を迎え入れたりするのに小型の船舶を使って何往復もしなければならず、それはもうこの上もなく面倒なのであった。こればかりは大国グランマニエの名前を出してもどうにもならず、ジェイドは苦い笑みを浮かべていた。
そして今、今回も入港を拒否されたバンエルティア号は、南の海上に浮かんでいた。
船長を筆頭に何人かのギルドメンバーは小型の船を使って遠くに見える港町まで買出しに行っており、留守を任されて残っている人間はあまり多くない。
ディセとアッシュは、その多くない人間の中に含まれていた。
「暑くないの?」
「……うるせぇ」
日光が痛いほどに降り注ぎ、白いシーツやギルドメンバーの服などがいっぱいに干されて風にはためく甲板に、二人は居た。日の当たる場所ではなく、外壁よりの日陰になっている場所を選んでいる。
ディセの格好は胸を覆うちっぽけな布と股下までの丈の袖なしのジャケットという、夏には最適だが些か過激すぎる出で立ちだ。ちなみにホットパンツを履いてはいるのだがジャケットに隠れてしまって、一見すると下を履いていないようにも見えてしまう。
少女の隣に立つ少年はと言えば、いつもの通りの黒い服でいる。だが良く見れば、いつもはきっちりと閉めている首元も今日は僅かに緩められている。なんとも無いという顔をしていても暑いらしい。
「服、脱いだらいいのに。黒は光を吸収するから熱くなるって、リフィル先生が言ってたよ」
「余計なお世話だ」
声に苛立ちが現れている。
暑いとそれだけで苛々が溜まるんだなあと少女は考えるが、少年のストレスの原因の一端を己が担っているなど、露ほどにも感じていない。
「それにしても暑いねえ」
ぼやきながら額に浮いた汗を手の甲で拭う。ぬるりとした感触が気持ち悪かった。
少年のほうを見れば、やはり彼も額に玉になった汗を浮かべている。そのうちの一つが少年の頬を筋になって伝った。
「やっぱり暑いんじゃない」
「うるせぇよ」
「せめて上着くらい脱いだら?」
「何度も言わせるな。余計なお世話だ」
「私がいると恥ずかしい?」
「……何でそうなんだよ」
げんなりした。暑いというだけで気力は根こそぎ奪われていくというのに、更に追い討ちを掛けられるとは。
アッシュの口からはっきりとした否定の言葉を聞かなかったディセは何を納得したのかうんうんと頷いている。
なんだか面倒な誤解をしているような気がして、アッシュが口を開こうとしたその時。
「じゃあ、脱がせてあげる」
可愛らしい声とは裏腹の、殺気じみた気配に全身が粟立った。
とっさに前方へ跳びながら体を反転させると、一つに束ねられた銀の髪を振り乱して先ほどまでアッシュの立っていた場所に手を伸ばすディセの姿があった。
空を掴んだディセはすぐさまアッシュの方に体を捻り、床を蹴ってアッシュを追いかける。
少年の足が床を捉えて更にバックステップを取ろうとするが、格闘家である少女の方が剣士である彼よりも敏捷性はずっと上だ。ぐんと伸びてきたディセの手が青年の胸倉を掴み、続けて遠慮のない足払い掛けてきた。青い空が見えたと同時に、背中から床に叩きつけられた。その衝撃で一瞬息が詰まり、視界が白くなる。
彼の呼吸と視界が元に戻るよりも早く、ディセは彼の両足の間に己の体を差し込むと、しっかりと二本の腕と胴体でその足を固定して回転を始めた。いわゆるジャイアントスイングである。
男の体が宙に浮く。こうなってしまっては、もう逃れられない。
ぐるん、ぐるん、ぐるん。
三回転で十分な勢いがつき、四回転目で少女は。
「そぉ、れぇっ!」
「―――っ!!」
少年を海に向かって放り投げた。
聞き慣れた波の音に混じって、どっぽーんという派手な音が聞こえた。船がもう少し小さければ、もしかしたら水柱が立ったのが見えたかもしれない。
ディセは備え付けられている縄梯子を持って自分の身長よりも高い塀によじ登って海を見下ろすと、海面に深紅の塊がゆらゆらと漂っているのが見える。アッシュの頭だ。
手を振って合図を送ってから縄梯子を垂らすと、アッシュはそれを登ってきた。
ぽたぽたと海水を滴らせる顔はとても不機嫌で、小刻みに体が震えているのは寒さのせいではない。
「てめぇ……」
「これで服、脱げるね」
十二分に溜まった怒りを衝動に任せて怒鳴り散らせなかったのは、恐ろしいことに少女が心の底から彼のためになると思っているからだ。もっとも、これが例えば双子の兄であれば例え純然たる親切心からの行動であっても問答無用で抜刀して袈裟斬りにしているところである。
ならばディセをこのまま無罪放免で許すかと言えば、そんなことは断じてありえない。 屈託のない笑顔が憎かった。
未だ縄梯子に掴まっている少年は、少女に向かって片手を出した。
「手ぇ貸せ」
「あ、そっか。はい」
差し出された手をしっかりと握って、少女は少年をぐいっと引っ張り上げた。
だが、少年がわざとその力に抵抗しているのか彼の体は船の上に戻ってこない。
「アッシュ?」
ディセからは見えない位置で、アッシュの足の裏が船の外壁をしっかりと捉えていた。
頭に疑問符を浮かべる少女に、少年はにやりと笑った。
「せいぜい驚きやがれ」
梯子を掴んでいた片手が、少女の手首を掴んだ。力が込められて痛いくらいだ。
「え?」
少年の足が外壁を思い切り蹴ると、ふわりと体が宙を舞った。
手を握られていた少女の体もまた、少年の後を追って宙を舞う。
「こんなんじゃ、全然溜飲は下らないがな!」
「きひゃあーーーーっははははは!」
アッシュの怒声とディセの笑い交じりの悲鳴が響いた直後にどっぼーんという着水音がして、大きな水柱が一つ、穏やかな海に立った。
2009.04.07
初出