ソウルクレイドル まとめ

私と貴方は永遠に



 真っ白なドレスに憧れたことが無いとは言わない。
 幼い頃は祝福してくれる人たちに向かってブーケを投げる姿を想像したことだってある。
 顔を隠す薄いベールをそっとどかされて、伏せていた目を開ければそこに愛しい人が穏やかに微笑んで立っているのが理想の最終形態だ。
 だが。
 好意を寄せる相手が自分と融合する実体のない男で、しかも人間でなく神の一柱であればそんなものは夢のまた夢であり、更に言えば傍若無人で厚顔で不遜で乱暴者で重度のホタポタマニアである半身と言ってもいい相棒が仮に体を持つ人間であったとしても、そんなものを期待するだけ無駄だと悟ったのはわりと前だった。
 むしろ、どうしてそんなダメな奴が相棒で、絶望しかないであろう相手に恋をしているのかリベア自身にもわからない。
 まったくもって人の心とは分からないものだと、リベアは他人事のように考えた。

「いいよねー。結婚式って」
「そうかあ? 一生お互いを愛と言う名の鎖で束縛しますっつー究極の囚人だろ。それとも相棒、マゾなんか?」
「……夢も希望もぶち壊してくれてありがとう。ちなみに私はマゾじゃないよ」
「おう、いくらでもぶち壊してやるぜ。相棒が普通の感覚の持ち主でよかったぜ」

 リベアはため息をついて力なく笑った。
 噴水の縁に座るリベアの目の前で行われるのは、恋人同士から夫婦、さらには家族になるという儀式だ。
 式の主役である二人も、その二人を祝福する参列者も、みんな幸せそうに笑っている。それを見ていると、漠然とだがいいなと羨ましく思う。
 たとえば、世界を喰らうものを全部倒せたら。
 たとえば、ギグとの融合が解けてまた普通の生活を送ることができるようになったら。
 いつか、自分はギグ以外の誰かとあんなふうに永遠の愛を誓い合う日がくるのだろうか。子供を成して、おだやかに伴侶と共に年を重ね、やがて死んでいくのだろうか。

「ねえ、ギグ」
「あん?」
「ギグが私の体を奪わないで、ギグも私も意志も体もある状態にって、どうやったらなるかなあ?」
「しらねーよ。つか、めんどくせぇだろ。んなの」
「そうかなあ。全部丸く収まっていいと思うんだけど」
「そうに決まってんだろ。さっさと相棒がオレに体を明け渡すのが一番手っ取り早いぜ。つーことで今すぐ渡せ」
「やだよ。私だってまだしたいこと、沢山あるしさ」
「花嫁衣裳を着ることがかぁ?」
「……まあ、それも無いとは言わないけど。まず相手がいないし」
「ああ、剣ぶん回すような女じゃまず貰い手なんてねーだろーなあ」

 おまけにオレと融合してるし? とギグは可笑しそうに笑う。
 むっとしたリベアは、それから手をぽんと打ち合わせてにっこりと微笑んだ。
 その表情をたとえるのなら、最高のいたずらを思いついてそれを実行して上手くいったのを見届けたときの子供みたいなイイ笑顔だった。

「あー、じゃあギグに責任とってもらわないと」
「……は?」
「私がお嫁に行けなくなった責任。よく考えたらお風呂もお手洗いも一緒で全部見られてるわけだからそう言う責任も取ってもらわなくちゃ」
「待て! それは不可抗力だろ! 第一、オレ様だって見たくて見てるわけじゃねぇ!」
「うん大丈夫大丈夫。私は心の広い人間だからね。ギグがそうやって意地を張るのは照れてる証拠だって知ってるから」
「意味が分かんねぇぞコラ!」
「あっはっはーつまりね」

 リベアは本気で、本心で、心の底から思っていることを口にした。

「私と貴方は永遠に相棒同士だってこ・と」
「待て! オレ様の意思は!?」
「さあ? ま、そういうことでこれから先もずっとよろしくね、相棒」
「話を進めんじゃねーーー!」

 青い空に、ギグの悲鳴が響き渡った。
 なんと不似合いな、とリベアは他人事のように思うのであった。



2008.03.23
修正

2007.03.24
初出 ブログにて



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