P3P まとめ
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純情な感情に殺される
面倒な日直という当番が回ってきた水曜日。
かなり強烈な個性を持った教師陣に雑用係としてこき使われ、本日最後の雑用は地理で使った教材の片付けで丁度手の空いていたリョージを巻き込んで社会科準備室まで遠征中。一人だと二往復しないとならなかったが、おかげで一度で終われた。あとでダックで奢ってやろう。
ふと外から声が聞こえてきた。
窓際に寄ってみると校庭が一望でき、そこに声の発生源を見つける。
「うっひょー! いーい眺めぇ! ほれリョージも見てみろよ!」
「もう! 人に押しつけておいてそれはないんじゃないの」
テニスコートに数人の女子が集まっている。テニス部が活動を始めたらしい。
無粋なジャージなんかじゃなくて、ちゃんとしたテニスウェアを着ている。短いスコートから伸びる足が眩しい。
テキトーな棚に教材を押し込んだリョージが、俺の隣に立つ。
「あ、公子ちゃんだ」
「えっ、どこどこ」
「あそこ。今走ってる」
「お、本当だ。お前よく分かったな」
「公子ちゃんなら分かるよ。千人の中からだって見つけられる」
「おーおー、ノロケてくれるねぇ」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉をいつもの軽い調子で受け流す。真面目にだろうが不真面目にだろうが、相手をすると軽く一時間や二時間は惚気てくれるから勘弁してほしいものだ。
窓の外に目を戻すと、生まれついての栗色の髪が走るリズムに合わせて上下に跳ねている。昨日はタルタロスで大暴れしたって言うのに、なんだってあいつはああも元気なのかね。
んん? と指折り数える。
特別課外活動部に生徒会に保健委員に料理部にファッション部にテニス部。友達と遊んで、勉強して、バイトして、時々カラオケでストレス発散。よくもまあ体がもつな、あいつ。俺なら無理だ。あんな細っこい体してるくせに、どこにそれだけのパワーがあるのかね。まあその分よく食うけど。それで太らないってんだから、どれだけのカロリーを日々消費しているのか教えてもらいたい。
と、感心するのはここまでにして、俺は目の前のパラダイスに集中することにした。
実にいい眺めだ。
タルタロスに挑むとき、制服のスカートから覗く白い足と偶然にもちらりと覗くその奥に目を奪われ、危うくやられそうになったことは数知れず。(「ごっめーん」と棒読み且つ無表情に謝るゆかりっちの誤射含む)
今は絶好のチャンスだ。邪魔をするシャドウも、おっかないゆかりっちもいない今ならば、心行くまであの足と見えるか見えないかのぎりぎりのチラリズムを堪能できる!
「ねえ、順平君」
隣で微笑む死神が、ひたりと首筋に容赦なく命を刈り取る鎌の刃を当ててくる。
当然、気のせいだ。だが、隣に立つ綾時の柔らかな声はそんな錯覚を引き起こさせるのに十分な冷たさをしていた。
背中を冷や汗が滑って、血の気が引くのを感じる。
怒っている時の桐条先輩よりも怖い。マジで。恐怖の代名詞となったブフダインでさえ、この声の前ではひらひらと舞う一片の雪みたいなものだ。
錆びついたブリキの人形のように、ぎこちなく振り返る。気分はホラー映画の主人公。効果音がつくなら、絶対に『ぎぎぎ』だ。
そこに立つリョージは、いつもと同じようににこにこと笑っている。ただし、笑っているのは顔だけだ。ガラスみたいに透き通る眼は笑っていない。
なんだっけ。
本当に熱い炎は赤ではなく青い色をしてるとか、もっと熱くなると視認すらできないとかなんとかって授業でやってたような気がする。
こいつの眼はそれだ。熱量が高すぎて、いっそ冷たいとすら感じるほどの炎が燃えている。
「あんまり彼女をイヤラシイ目で見ないでくれるかな」
すっかりリョージの鬼気迫る雰囲気に呑まれた俺はコクコクと首を縦に振った。拒否なんてしたらどうなるか、想像できない。
「分かってくれたならいいんだよ。さて、片付けも終わったし、帰ろっか」
リョージは笑う。絶対零度の微笑ではなく、いつもののほほんとした柔らかな笑顔。それでも、その笑顔がちょっと怖いと思ってしまうのは仕方ないことだと思って欲しい。
こっそりとオレの心の内にある『怒らせたらいけない人物ノート』のトップに望月綾時の名前が入ったのは、言うまでも無い。
2009.12.12
初出
面倒な日直という当番が回ってきた水曜日。
かなり強烈な個性を持った教師陣に雑用係としてこき使われ、本日最後の雑用は地理で使った教材の片付けで丁度手の空いていたリョージを巻き込んで社会科準備室まで遠征中。一人だと二往復しないとならなかったが、おかげで一度で終われた。あとでダックで奢ってやろう。
ふと外から声が聞こえてきた。
窓際に寄ってみると校庭が一望でき、そこに声の発生源を見つける。
「うっひょー! いーい眺めぇ! ほれリョージも見てみろよ!」
「もう! 人に押しつけておいてそれはないんじゃないの」
テニスコートに数人の女子が集まっている。テニス部が活動を始めたらしい。
無粋なジャージなんかじゃなくて、ちゃんとしたテニスウェアを着ている。短いスコートから伸びる足が眩しい。
テキトーな棚に教材を押し込んだリョージが、俺の隣に立つ。
「あ、公子ちゃんだ」
「えっ、どこどこ」
「あそこ。今走ってる」
「お、本当だ。お前よく分かったな」
「公子ちゃんなら分かるよ。千人の中からだって見つけられる」
「おーおー、ノロケてくれるねぇ」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉をいつもの軽い調子で受け流す。真面目にだろうが不真面目にだろうが、相手をすると軽く一時間や二時間は惚気てくれるから勘弁してほしいものだ。
窓の外に目を戻すと、生まれついての栗色の髪が走るリズムに合わせて上下に跳ねている。昨日はタルタロスで大暴れしたって言うのに、なんだってあいつはああも元気なのかね。
んん? と指折り数える。
特別課外活動部に生徒会に保健委員に料理部にファッション部にテニス部。友達と遊んで、勉強して、バイトして、時々カラオケでストレス発散。よくもまあ体がもつな、あいつ。俺なら無理だ。あんな細っこい体してるくせに、どこにそれだけのパワーがあるのかね。まあその分よく食うけど。それで太らないってんだから、どれだけのカロリーを日々消費しているのか教えてもらいたい。
と、感心するのはここまでにして、俺は目の前のパラダイスに集中することにした。
実にいい眺めだ。
タルタロスに挑むとき、制服のスカートから覗く白い足と偶然にもちらりと覗くその奥に目を奪われ、危うくやられそうになったことは数知れず。(「ごっめーん」と棒読み且つ無表情に謝るゆかりっちの誤射含む)
今は絶好のチャンスだ。邪魔をするシャドウも、おっかないゆかりっちもいない今ならば、心行くまであの足と見えるか見えないかのぎりぎりのチラリズムを堪能できる!
「ねえ、順平君」
隣で微笑む死神が、ひたりと首筋に容赦なく命を刈り取る鎌の刃を当ててくる。
当然、気のせいだ。だが、隣に立つ綾時の柔らかな声はそんな錯覚を引き起こさせるのに十分な冷たさをしていた。
背中を冷や汗が滑って、血の気が引くのを感じる。
怒っている時の桐条先輩よりも怖い。マジで。恐怖の代名詞となったブフダインでさえ、この声の前ではひらひらと舞う一片の雪みたいなものだ。
錆びついたブリキの人形のように、ぎこちなく振り返る。気分はホラー映画の主人公。効果音がつくなら、絶対に『ぎぎぎ』だ。
そこに立つリョージは、いつもと同じようににこにこと笑っている。ただし、笑っているのは顔だけだ。ガラスみたいに透き通る眼は笑っていない。
なんだっけ。
本当に熱い炎は赤ではなく青い色をしてるとか、もっと熱くなると視認すらできないとかなんとかって授業でやってたような気がする。
こいつの眼はそれだ。熱量が高すぎて、いっそ冷たいとすら感じるほどの炎が燃えている。
「あんまり彼女をイヤラシイ目で見ないでくれるかな」
すっかりリョージの鬼気迫る雰囲気に呑まれた俺はコクコクと首を縦に振った。拒否なんてしたらどうなるか、想像できない。
「分かってくれたならいいんだよ。さて、片付けも終わったし、帰ろっか」
リョージは笑う。絶対零度の微笑ではなく、いつもののほほんとした柔らかな笑顔。それでも、その笑顔がちょっと怖いと思ってしまうのは仕方ないことだと思って欲しい。
こっそりとオレの心の内にある『怒らせたらいけない人物ノート』のトップに望月綾時の名前が入ったのは、言うまでも無い。
2009.12.12
初出