女主とだれか。
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よくあるはなし
舞台と役者は、長い時間をかけて最高のものが準備されていた。
彼らを最大限に活かせる悲劇を用意するのにあたって、ボクは様々な物語を読んだ。
光に焦がれる闇、というのを題材にしたくて書物を漁ったけれど、数はあまり多くなかった。
それもそうか。
光と闇は敵同士だと、世界が出来たときから決まっているのだから。
よくあるはなし
その日、ロストール城内で見かけたジルは、両王女への訪問を終えて帰るところだった。
いつもと同じ長旅でくたびれた緑の旅装束と荷物の入った袋を背負っていて、衛兵達や貴族の白い目はどこ吹く風とばかりにのんきな顔でいる。豪胆と言うべきか、鈍感と言うべきか。
もう少し登城に相応しい格好をすれば目もつけられないのにと思って、きらびやかなドレスを纏ったジルを想像してみた。……あんまり似合わない。
じっと見ているとボクの視線に気がついたのか、ジルもボクのほうを向いて目が合った。こういった感覚は鋭いのだから、鈍感ではないはずなんだけど。
やあ、と手を上げて声をかけると、向こうも、やあ、と手を上げて返してくれてボクのほうに近づいてきた。
おかしな子だ。
ボクは彼女と彼女の仲間に酷いことをいっぱいしてきたし、彼女の好きな王女サマ達には現在進行形で酷いことを行おうとしているのに、彼女は憎悪も嫌悪もなく、普通にボクに接する。おかしな子だ。
「良かった。会えなかったらどうしようかと思っていたから」
「ボクに? 何の用かな?」
「ちょっと待ってて」
そう言って、鏡のように磨かれた大理石の廊下に無造作に荷袋を下ろした。ほんの少し、黄色い砂埃が床を汚す。
周囲の衛兵の目がいっそう険しくなったけれど、ジルはまったく意に介さない。ごそごそと袋の中を漁って、何かを取り出した。
「はい」
差し出されたのは手の平二つ分くらいの大きさのある木彫りの梟の置物で、反射的に受け取るとずしりと重くて落としそうになった。
ジルの行動が理解できなくて、思わず彼女と置物と交互に見返してしまった。
「なに、これ」
「お土産。テラネの民芸品だって」
「……ボクに?」
「うん」
「……なんで?」
「なんで、って。たまにはシャリにもって思って。要するに気まぐれよ。それだけ」
「それだけって、だって、ジル。キミ、ボクのことキライでしょ」
「そりゃまあ、エステルのアレとか王宮内でしようとしてるソレとか他にもいろいろ思うと腹立たしいけど。なのにキライと結びつかないのが、私としても非常に不本意だわ」
「……キライじゃない、ってこと?」
「平たく言えばそうかもね。あ、それ、いらなかったら捨てちゃっていいから。次はエルズのお土産でも買ってくるわ」
じゃあまたね、とジルは袋を担いで踵を返しながら手をひらりと振って、そのまま去っていった。
取り残されたのは、ボクと、うっかり受け取ってしまった木彫りの梟の置物。
多分笑った顔をしているのだろうけれど細められた目が不気味でしかない。言ってしまえば不細工だ。貰った方は困る以外にない。
どうして数あるであろうお土産品の中から選んだものが、こんな実用的でもなければ飾りとしても微妙な物なのだろう。
ただ、膨らみをもったその形は、なんだかジルに似ていると思った。
「……本当におかしいよ、キミは」
ぽつりと呟いた言葉が、彼女の全てを表した。
まさか、キライじゃないと言われるとは。
おかしな子だ。おおよそ、これまでに出会ったことのない類の人間だ。
人間の考えていることは大抵同じで、手に取るように分かる。でも、彼女の考えていることは良く分からない。唯一分かるのは、必要以上に仲間思いだということくらいだ。
そんな彼女の大事にしている仲間達に行った非道を思い返せば、相手が普通の人間だったら嫌われて当然どころか、即座に剣を抜かれて斬りかかられてもおかしくはない。どう好意的に解釈をしようとしても嫌われる、もしくは憎まれる以外の要因が思いつかない。
あるいはボクの境遇に対しての同情や憐憫と言った感情かもしれないけれど、これまでの行いを見ていればやっぱりそんな感情だって湧かないはずだ。
詰まるところ敵同士にしか成り得ない。
なのに。
いつもいつも、ジルはボクの予想を超える行動ばかり取る。今みたいに。
そしてそれは、ボクの本質は虚無だというのに、内側のほうに何かを残していく。
むずがゆくて、居心地が悪い感覚。なのに、不愉快じゃない。
それに気がついたらおかしくって、自然と笑いがこぼれた。
光に焦がれる闇、なんて物語は、実はありふれた物語なのかもしれない。
だって、ほら。
ボクもキミに焦がれてる。
………
陸潤さまへ
シャリで、との事だったので、好き勝手に書かせていただきました。
こ、こんなのでよろしいでしょうか?
返品も廃棄処分も可能ですので……!
2008.11.02
修正
2008.10.28
初出
舞台と役者は、長い時間をかけて最高のものが準備されていた。
彼らを最大限に活かせる悲劇を用意するのにあたって、ボクは様々な物語を読んだ。
光に焦がれる闇、というのを題材にしたくて書物を漁ったけれど、数はあまり多くなかった。
それもそうか。
光と闇は敵同士だと、世界が出来たときから決まっているのだから。
よくあるはなし
その日、ロストール城内で見かけたジルは、両王女への訪問を終えて帰るところだった。
いつもと同じ長旅でくたびれた緑の旅装束と荷物の入った袋を背負っていて、衛兵達や貴族の白い目はどこ吹く風とばかりにのんきな顔でいる。豪胆と言うべきか、鈍感と言うべきか。
もう少し登城に相応しい格好をすれば目もつけられないのにと思って、きらびやかなドレスを纏ったジルを想像してみた。……あんまり似合わない。
じっと見ているとボクの視線に気がついたのか、ジルもボクのほうを向いて目が合った。こういった感覚は鋭いのだから、鈍感ではないはずなんだけど。
やあ、と手を上げて声をかけると、向こうも、やあ、と手を上げて返してくれてボクのほうに近づいてきた。
おかしな子だ。
ボクは彼女と彼女の仲間に酷いことをいっぱいしてきたし、彼女の好きな王女サマ達には現在進行形で酷いことを行おうとしているのに、彼女は憎悪も嫌悪もなく、普通にボクに接する。おかしな子だ。
「良かった。会えなかったらどうしようかと思っていたから」
「ボクに? 何の用かな?」
「ちょっと待ってて」
そう言って、鏡のように磨かれた大理石の廊下に無造作に荷袋を下ろした。ほんの少し、黄色い砂埃が床を汚す。
周囲の衛兵の目がいっそう険しくなったけれど、ジルはまったく意に介さない。ごそごそと袋の中を漁って、何かを取り出した。
「はい」
差し出されたのは手の平二つ分くらいの大きさのある木彫りの梟の置物で、反射的に受け取るとずしりと重くて落としそうになった。
ジルの行動が理解できなくて、思わず彼女と置物と交互に見返してしまった。
「なに、これ」
「お土産。テラネの民芸品だって」
「……ボクに?」
「うん」
「……なんで?」
「なんで、って。たまにはシャリにもって思って。要するに気まぐれよ。それだけ」
「それだけって、だって、ジル。キミ、ボクのことキライでしょ」
「そりゃまあ、エステルのアレとか王宮内でしようとしてるソレとか他にもいろいろ思うと腹立たしいけど。なのにキライと結びつかないのが、私としても非常に不本意だわ」
「……キライじゃない、ってこと?」
「平たく言えばそうかもね。あ、それ、いらなかったら捨てちゃっていいから。次はエルズのお土産でも買ってくるわ」
じゃあまたね、とジルは袋を担いで踵を返しながら手をひらりと振って、そのまま去っていった。
取り残されたのは、ボクと、うっかり受け取ってしまった木彫りの梟の置物。
多分笑った顔をしているのだろうけれど細められた目が不気味でしかない。言ってしまえば不細工だ。貰った方は困る以外にない。
どうして数あるであろうお土産品の中から選んだものが、こんな実用的でもなければ飾りとしても微妙な物なのだろう。
ただ、膨らみをもったその形は、なんだかジルに似ていると思った。
「……本当におかしいよ、キミは」
ぽつりと呟いた言葉が、彼女の全てを表した。
まさか、キライじゃないと言われるとは。
おかしな子だ。おおよそ、これまでに出会ったことのない類の人間だ。
人間の考えていることは大抵同じで、手に取るように分かる。でも、彼女の考えていることは良く分からない。唯一分かるのは、必要以上に仲間思いだということくらいだ。
そんな彼女の大事にしている仲間達に行った非道を思い返せば、相手が普通の人間だったら嫌われて当然どころか、即座に剣を抜かれて斬りかかられてもおかしくはない。どう好意的に解釈をしようとしても嫌われる、もしくは憎まれる以外の要因が思いつかない。
あるいはボクの境遇に対しての同情や憐憫と言った感情かもしれないけれど、これまでの行いを見ていればやっぱりそんな感情だって湧かないはずだ。
詰まるところ敵同士にしか成り得ない。
なのに。
いつもいつも、ジルはボクの予想を超える行動ばかり取る。今みたいに。
そしてそれは、ボクの本質は虚無だというのに、内側のほうに何かを残していく。
むずがゆくて、居心地が悪い感覚。なのに、不愉快じゃない。
それに気がついたらおかしくって、自然と笑いがこぼれた。
光に焦がれる闇、なんて物語は、実はありふれた物語なのかもしれない。
だって、ほら。
ボクもキミに焦がれてる。
………
陸潤さまへ
シャリで、との事だったので、好き勝手に書かせていただきました。
こ、こんなのでよろしいでしょうか?
返品も廃棄処分も可能ですので……!
2008.11.02
修正
2008.10.28
初出
4/4ページ