10周年記念
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
09 自由な旅を!
拝啓 親愛なるみんなへ
あれからもう十年が経ったんだね。
バイアシオンに戻ってきて、闇の軍勢の脅威も、竜王を倒してしまったことの影響も、今のこの大陸には見られなくて安心しました。
きっとみんながこの大陸中を平和にしようと協力してがんばってきたからだと思います。
そして、私はこの平和な地に長く留まるべきではないと感じました。
抑えているとは言えウルグの放つ闇の気配に魔に属するもの達が集まってこないとも限らないし、今はともかく、こんな人知を超えた力をもつ私は争いの火種になりかねないから。
だから、オルファウスのとこの転送装置でまた別大陸へ旅立つことにしました。
別れの言葉もなしに出て行ってごめんなさい。
十年前のことに対してみんながすごく怒っていることがよく分かったんだけど、さようならを言うのがすごく辛いから同じことをしてしまいました。
今度もまた、みんな怒るかな。それとも呆れて怒る気もなくなっちゃったかな。
どっちにしろ、そうなって当然の事をしているから覚悟はしています。
次にこの大陸に戻ってくるのはいつになるかな。
また十年後かもしれないし、五十年後かもしれない。もう二度と戻ってこないって可能性も、ないわけじゃないかも。
未来のことは分からないけど、またみんなと会いたいと思うのは嘘じゃないよ。
それじゃあみんな、元気で。
敬具
目の前の光景に、私は目を丸くした。
迷いの森の奥深くの猫屋敷。そこには主であるオルファウスと娘のケリュネイアと同居猫のネモしかいないはずであったのに、どういうわけか転送装置の置かれた部屋にはみんなが集まっていた。
置き手紙を見てからの行動ではない。だって、アルノートゥンにウルカーン、エルズからなんて一月以上はかかる距離だ。
「貴女がこっそりとこの大陸を去ると、私が皆の非難を受けることになるんですよ。そんな面倒は遠慮したいものでしてね。皆をこれで呼び出したんです」
「あ、なるほど」
沢山の疑問符を浮かべる私に家主がしてくれた説明に納得してぽん、と手を打つ。
オルファウスが「これ」と指差したのは十年前に仲間の呼び出しに活用し、今また別大陸へと運んでもらおうとしていた転送装置だ。これを使えば一瞬で相手をここへと連れてくることができる。
便利でありがたい装置だけど、今ばかりはその便利さが恨めしい。
だって、これじゃあ置き手紙を残して黙って出てきた意味がない。
「また何も言わずに出て行こうとするなんて酷いよ」
「そーだそーだ!」
「あんまりですわ」
「わたし達のことが嫌いなんですか?」
「薄情者じゃな」
「頼むよ姉ちゃん。オレ弟として恥ずかしいって」
「あれだけ絞られたのに、まだ懲りないのか」
「もっときつーく怒らなきゃだめなのかな」
「レティシアが反省なんてするわけないじゃない」
「人の話を聞かないのは昔と変わらないのか」
「そういうところは成長して欲しいよね。老けないけど、年は取ってくんだし」
次々と出てくるザクザクと胸に突き刺さる非難の言葉に、
「ご、ごめんなさい……」
と、小さくなって謝れば、
「謝るくらいなら最初からするな」
と、みんなが口をそろえて言うのだった。もっともすぎて何も言えない。
その様子を眺めるオルファウスはいつものように微笑んでいたけど、その微笑に呆れがたっぷりと含まれているのは気のせいではないはずだ。
それでも助けを求める視線を向ければ、彼はパンパンと手を打って助け舟を出してくれた。彼こそ救世主だ。
「はいはい。みなさん言いたい事は沢山あるとは思いますが、そのくらいで許してあげてください。彼女もさすがに反省しているようですし」
「本当かなぁ?」
「そうじゃなかったら、ボクまたぶん殴ってるよ」
「蒸し返さない、蒸し返さない。さあ、レティシア」
オルファウスが私を促すとみんなが左右に分かれ、転送装置への道ができた。
あの装置に入ってしまえば、またみんなとお別れだ。そう思うと胸の奥がズンと重たくなる。
装置に入って最後の挨拶をしようとみんなの方を振り返ると、せーのぉ! とルルアンタが元気な声で音頭を取った。
「 」
みんなの口から、同じ言葉が発せられた。
熱いものがこみ上げてくる。鼻の奥がツンと痛み、目が潤むのが分かった。くしゃりと歪んでしまった顔は、たぶん泣き顔と笑顔を混ぜたみたいな妙な表情になってしまっているに違いない。
誰もさようならとは言わなかった。別れは辛いものだけど、再会を信じ、旅の無事と幸運を願ってくれた。贈ってくれたのは冒険者にとって最高の祝福の言葉だ。 ああ、私はなんてバカだったんだろう。言うべき言葉は「さようなら」じゃなかったんだ。
みんなにぶんぶんと手を振り、声を張り上げた。
「行ってらっしゃい。自由な旅を!」
「行ってきます! みんなも、自由な旅を!」
2012.03.25
初出
拝啓 親愛なるみんなへ
あれからもう十年が経ったんだね。
バイアシオンに戻ってきて、闇の軍勢の脅威も、竜王を倒してしまったことの影響も、今のこの大陸には見られなくて安心しました。
きっとみんながこの大陸中を平和にしようと協力してがんばってきたからだと思います。
そして、私はこの平和な地に長く留まるべきではないと感じました。
抑えているとは言えウルグの放つ闇の気配に魔に属するもの達が集まってこないとも限らないし、今はともかく、こんな人知を超えた力をもつ私は争いの火種になりかねないから。
だから、オルファウスのとこの転送装置でまた別大陸へ旅立つことにしました。
別れの言葉もなしに出て行ってごめんなさい。
十年前のことに対してみんながすごく怒っていることがよく分かったんだけど、さようならを言うのがすごく辛いから同じことをしてしまいました。
今度もまた、みんな怒るかな。それとも呆れて怒る気もなくなっちゃったかな。
どっちにしろ、そうなって当然の事をしているから覚悟はしています。
次にこの大陸に戻ってくるのはいつになるかな。
また十年後かもしれないし、五十年後かもしれない。もう二度と戻ってこないって可能性も、ないわけじゃないかも。
未来のことは分からないけど、またみんなと会いたいと思うのは嘘じゃないよ。
それじゃあみんな、元気で。
敬具
目の前の光景に、私は目を丸くした。
迷いの森の奥深くの猫屋敷。そこには主であるオルファウスと娘のケリュネイアと同居猫のネモしかいないはずであったのに、どういうわけか転送装置の置かれた部屋にはみんなが集まっていた。
置き手紙を見てからの行動ではない。だって、アルノートゥンにウルカーン、エルズからなんて一月以上はかかる距離だ。
「貴女がこっそりとこの大陸を去ると、私が皆の非難を受けることになるんですよ。そんな面倒は遠慮したいものでしてね。皆をこれで呼び出したんです」
「あ、なるほど」
沢山の疑問符を浮かべる私に家主がしてくれた説明に納得してぽん、と手を打つ。
オルファウスが「これ」と指差したのは十年前に仲間の呼び出しに活用し、今また別大陸へと運んでもらおうとしていた転送装置だ。これを使えば一瞬で相手をここへと連れてくることができる。
便利でありがたい装置だけど、今ばかりはその便利さが恨めしい。
だって、これじゃあ置き手紙を残して黙って出てきた意味がない。
「また何も言わずに出て行こうとするなんて酷いよ」
「そーだそーだ!」
「あんまりですわ」
「わたし達のことが嫌いなんですか?」
「薄情者じゃな」
「頼むよ姉ちゃん。オレ弟として恥ずかしいって」
「あれだけ絞られたのに、まだ懲りないのか」
「もっときつーく怒らなきゃだめなのかな」
「レティシアが反省なんてするわけないじゃない」
「人の話を聞かないのは昔と変わらないのか」
「そういうところは成長して欲しいよね。老けないけど、年は取ってくんだし」
次々と出てくるザクザクと胸に突き刺さる非難の言葉に、
「ご、ごめんなさい……」
と、小さくなって謝れば、
「謝るくらいなら最初からするな」
と、みんなが口をそろえて言うのだった。もっともすぎて何も言えない。
その様子を眺めるオルファウスはいつものように微笑んでいたけど、その微笑に呆れがたっぷりと含まれているのは気のせいではないはずだ。
それでも助けを求める視線を向ければ、彼はパンパンと手を打って助け舟を出してくれた。彼こそ救世主だ。
「はいはい。みなさん言いたい事は沢山あるとは思いますが、そのくらいで許してあげてください。彼女もさすがに反省しているようですし」
「本当かなぁ?」
「そうじゃなかったら、ボクまたぶん殴ってるよ」
「蒸し返さない、蒸し返さない。さあ、レティシア」
オルファウスが私を促すとみんなが左右に分かれ、転送装置への道ができた。
あの装置に入ってしまえば、またみんなとお別れだ。そう思うと胸の奥がズンと重たくなる。
装置に入って最後の挨拶をしようとみんなの方を振り返ると、せーのぉ! とルルアンタが元気な声で音頭を取った。
「 」
みんなの口から、同じ言葉が発せられた。
熱いものがこみ上げてくる。鼻の奥がツンと痛み、目が潤むのが分かった。くしゃりと歪んでしまった顔は、たぶん泣き顔と笑顔を混ぜたみたいな妙な表情になってしまっているに違いない。
誰もさようならとは言わなかった。別れは辛いものだけど、再会を信じ、旅の無事と幸運を願ってくれた。贈ってくれたのは冒険者にとって最高の祝福の言葉だ。 ああ、私はなんてバカだったんだろう。言うべき言葉は「さようなら」じゃなかったんだ。
みんなにぶんぶんと手を振り、声を張り上げた。
「行ってらっしゃい。自由な旅を!」
「行ってきます! みんなも、自由な旅を!」
2012.03.25
初出
10/10ページ