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05 メーデー! メーデー!
自由都市リベルダムはクリュセイスの手腕とロストールの支援が実り、かつて蹂躙の限りを尽くされた街は見事に復興を遂げた。
「上手いわねぇ。歌聖の名前も伊達じゃないわね」
そんな街の広場で演奏を終えて竪琴を片付けようとしていたボクに、一人の女の人がやあと片手を上げて親しげに近づいてきた。
「ありがと。君に誉めてもらえて光栄だよ。ところで……」
十年ぶりに見る、懐かしい顔。
最後に見たときと何も変わっていない様子が嬉しくもあり、同時に悲しくもあった。
彼女はもう、やっぱり、生命の輪の外の存在になってしまったんだ。
でも、そんな素振りを見せるのは嫌だったから、ボクはできるだけ呆れた風に装った。
「なんで君がこんなところにいるのか聞いてもいい?」
レティシアは、たははと笑って頭を掻いた。
「たまには帰省してみようかなって」
「ふぅん。で、君はまたあっという間にどこかに行っちゃうんでしょう?」
「あー……怒ってる?」
「何に対して?」
「いろいろと」
「怒らせてる自覚はあるんだ」
「そりゃあ、ねぇ」
「ははぁん。もう誰かに怒られたんでしょ。それとも殴られでもしたかな?」
うっ、とレティシアは小さく呻いて明後日の方向に視線をそらした。
ああ、やっぱりね。そんなことだろうと思っていたよ。突然何も言わずに姿を消した彼女に怒っていない人なんて、誰もいなんだから。
「そうだ、知ってる?」
「何を?」
「昨日、ロストール筆頭主席であらせられるティアナ様とその補佐官レムオン様とアトレイア様の連名で一つのクエストが冒険者ギルドに対して発令、同時に対魔物防衛部隊、治安維持の任についている兵士たち以外に同じ命令が下されたんだ」
「っへー? なあにトップスリーが職権乱用? あんまり体面がいいとは言えないわねー」
「大丈夫。報酬は三人の個人資産から出してるし、兵士たちもその命令に喜んでるし。で、その内容ってのがね……」
「いたぞ!」
ボクの言葉を遮って、不意に男の人の叫び声が響いた。次いで鋭い笛の音が鳴った。衛士が使う呼子だ。
一つの音が終わり、遠くから音が返ってきたと思えば大通りの向こうや狭い路地からわらわらとロストール正規兵の鎧を身に付けた兵士や各々自由な装備に身を包む冒険者たちがこちらに向かって駆けてくる。
何事かとその様子をぽかんと見ているレティシアがおかしくて、ボクは小さく噴き出してしまった。
訝しげにこっちを見る彼女に、ボクはにっこりと笑って一枚の紙を広げて見せた。
「君の捕獲だったりするんだよね」
それはギルドの壁に貼られるクエストの用紙で、そのど真ん中にでかでかと描かれているのは己の肖像画と目玉の飛び出そうな桁の賞金額だ。
ティアナ様とアトレイア様とレムオン様が連名で出したクエストの、その正体。
彼女が自体を把握するまでに瞬き三つ分の時間が浪費された。
「は、早く言ええええ!」
叫びながら地面に下ろしていた荷袋を慌てて担ぐと、ぐるりとあたりを確認する。町の出入り口の方角へ伸びる通りは既に抑えられている。いくつもある路地のどれからも人が湧き出してくる。唯一、追手の数が少ないのは船着き場方面だ。そちらに行ってしまえば退路はなく、たぶん追い詰めるためにわざとそちらだけ手薄にしているんだ。
そのことに彼女が気づいていないはずはないけれど、逡巡すらせずに地面を蹴って船着き場の方へと駆け出した。なんとかなると踏んだらしい。
その後を兵士たちと冒険者たちが追いかけていく。
「ま、ボクの分はこれで許してあげるよ」
本当は殴りたいところだけど、そんなことしたら竪琴を奏でる手を怪我しちゃうからしないだけで。
ボクだって怒っているんだから。
「さて、どう逃げ切るのかな?」
2011.04.12
初出
自由都市リベルダムはクリュセイスの手腕とロストールの支援が実り、かつて蹂躙の限りを尽くされた街は見事に復興を遂げた。
「上手いわねぇ。歌聖の名前も伊達じゃないわね」
そんな街の広場で演奏を終えて竪琴を片付けようとしていたボクに、一人の女の人がやあと片手を上げて親しげに近づいてきた。
「ありがと。君に誉めてもらえて光栄だよ。ところで……」
十年ぶりに見る、懐かしい顔。
最後に見たときと何も変わっていない様子が嬉しくもあり、同時に悲しくもあった。
彼女はもう、やっぱり、生命の輪の外の存在になってしまったんだ。
でも、そんな素振りを見せるのは嫌だったから、ボクはできるだけ呆れた風に装った。
「なんで君がこんなところにいるのか聞いてもいい?」
レティシアは、たははと笑って頭を掻いた。
「たまには帰省してみようかなって」
「ふぅん。で、君はまたあっという間にどこかに行っちゃうんでしょう?」
「あー……怒ってる?」
「何に対して?」
「いろいろと」
「怒らせてる自覚はあるんだ」
「そりゃあ、ねぇ」
「ははぁん。もう誰かに怒られたんでしょ。それとも殴られでもしたかな?」
うっ、とレティシアは小さく呻いて明後日の方向に視線をそらした。
ああ、やっぱりね。そんなことだろうと思っていたよ。突然何も言わずに姿を消した彼女に怒っていない人なんて、誰もいなんだから。
「そうだ、知ってる?」
「何を?」
「昨日、ロストール筆頭主席であらせられるティアナ様とその補佐官レムオン様とアトレイア様の連名で一つのクエストが冒険者ギルドに対して発令、同時に対魔物防衛部隊、治安維持の任についている兵士たち以外に同じ命令が下されたんだ」
「っへー? なあにトップスリーが職権乱用? あんまり体面がいいとは言えないわねー」
「大丈夫。報酬は三人の個人資産から出してるし、兵士たちもその命令に喜んでるし。で、その内容ってのがね……」
「いたぞ!」
ボクの言葉を遮って、不意に男の人の叫び声が響いた。次いで鋭い笛の音が鳴った。衛士が使う呼子だ。
一つの音が終わり、遠くから音が返ってきたと思えば大通りの向こうや狭い路地からわらわらとロストール正規兵の鎧を身に付けた兵士や各々自由な装備に身を包む冒険者たちがこちらに向かって駆けてくる。
何事かとその様子をぽかんと見ているレティシアがおかしくて、ボクは小さく噴き出してしまった。
訝しげにこっちを見る彼女に、ボクはにっこりと笑って一枚の紙を広げて見せた。
「君の捕獲だったりするんだよね」
それはギルドの壁に貼られるクエストの用紙で、そのど真ん中にでかでかと描かれているのは己の肖像画と目玉の飛び出そうな桁の賞金額だ。
ティアナ様とアトレイア様とレムオン様が連名で出したクエストの、その正体。
彼女が自体を把握するまでに瞬き三つ分の時間が浪費された。
「は、早く言ええええ!」
叫びながら地面に下ろしていた荷袋を慌てて担ぐと、ぐるりとあたりを確認する。町の出入り口の方角へ伸びる通りは既に抑えられている。いくつもある路地のどれからも人が湧き出してくる。唯一、追手の数が少ないのは船着き場方面だ。そちらに行ってしまえば退路はなく、たぶん追い詰めるためにわざとそちらだけ手薄にしているんだ。
そのことに彼女が気づいていないはずはないけれど、逡巡すらせずに地面を蹴って船着き場の方へと駆け出した。なんとかなると踏んだらしい。
その後を兵士たちと冒険者たちが追いかけていく。
「ま、ボクの分はこれで許してあげるよ」
本当は殴りたいところだけど、そんなことしたら竪琴を奏でる手を怪我しちゃうからしないだけで。
ボクだって怒っているんだから。
「さて、どう逃げ切るのかな?」
2011.04.12
初出