黄金主とだれか。
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夜は静けさを失った。
ソファで腹ばいになって携帯をいじるレティシアの両足が、楽しそうにぱたぱたと動く。
その隣(占領されているのでかなり端っこ)に座るレムオンは分厚い本を読んでいる。
携帯を操作するカチカチという音と、ページをめくる音しかしない。静かな夜だ。
だが、そのうちに他の音が混じり始める。
新たな音のする方向に視線を向ければ、携帯のディスプレイを見てにやにやと笑いを浮かべる義妹がいる。
「気色悪い笑い声を出すな」
「気色悪いとは失礼な」
「事実だ」
「いやあ、だってこれ見たら笑っちゃうでしょ。普通」
そう言ってレムオンに突きつけるように見せたディスプレイにはどこかのゲームセンターを背景にして沢山のぬいぐるみを抱きかかえる同級生の姿があった。
ただし、どういうわけかその男の格好は女子生徒の着る制服で、筋骨逞しい足は白いルーズソックスを履いて短いスカートからにょっきり生えていたり、分厚い胸板でシャツとブレザーがぴちぴちしている。
一瞬ふらりと世界が回るような感覚を覚えて、レムオンは頭を抱えた。
「ね、面白いでしょう?」
「気持ち悪い。消せ」
「えー、だめかなあ?」
「当然だ」
これが己の幼馴染で同級生かと思うとふつふつと怒りが沸いてくる。恥ずかしいにも程がある。
明日会ったらくだらないことをするなときつく言っておかなければならない、とこめかみに青筋を浮かべた。
きつく拳を握り締めたところで、突然がしっと肩を抱かれた。
驚いて義妹を見れば、間近に相変わらずにやにや笑いを浮かべる顔があった。
「んもう固いなあ」
「おい何をっ……!」
「はい、ちーずっ」
まっすぐに伸ばされた腕の先には、携帯電話が握られていた。
ぱしゃりと電子音が鳴る。
「よしよし。良く撮れてる」
「おいっ!」
男の抗議を完全に無視して、少女はレムオンの携帯を手に取って勝手に開く。
「ああ、やっぱり可愛くない待ち受け画面」
「勝手に人のものを触るな」
「まあまあ。んー、機種が違うから良く分かんないけど……これをこうで、こうして……」
分からないなどと言いながら、その手は淀みなく動いていく。
「いい加減にしないか!」
声を荒げたレムオンににっこりと笑い、ずいと男の携帯電話を開いてディスプレイを見せた。
そこに写っているのは、顔がくっつきそうなほどに近い二人の写真だ。
顔を真っ赤にして慌てたような表情をするレムオンとは対照的に、レティシアは満面の笑顔で肩に回した手はピースをしている。
こんな写真を待ち受け画面にされてしまっては、恥ずかしくて携帯を開くことができない。
火照りの取れかけていた顔が、また熱くなる。
「…………っ! 直せ! 今すぐ直せ!!」
「そうですねぇ。今度二人でプリクラ撮ってくれたら、替えてあげますよ?」
「分かった。その条件を飲む!」
「ぜったい?」
「ああ!」
「やりぃっ! じゃ、明日プリクラ撮ったらすぐに替えますね」
にこにこと上機嫌に笑いながら、レティシアは携帯を持って居間を出て行った。
精神的な疲れはすぐに肉体的な疲れももたらし、レムオンはソファの背もたれに体を預けて長い息を吐いた。
ひとまずは助かった。あとは明日一日、携帯を開く必要がなければ何の問題もない。
「プリクラの一つでいいのなら、まあ安いも……の……?」
そこではたと気が付いた。
プリクラとは、何枚もの写真を小さなシール状にしたものだと記憶している。
それは、あるいはこの携帯の待ち受け画面よりも性質が悪いのではないだろうか。
だって、シールだ。
もしも人目に付くような場所に貼られてしまったら……
「レティシア!!」
想像に顔を真っ赤にして、レムオンはレティシアの後を猛然と追いかけた。
2008.05.26
修正
2008.05.13
初出
ソファで腹ばいになって携帯をいじるレティシアの両足が、楽しそうにぱたぱたと動く。
その隣(占領されているのでかなり端っこ)に座るレムオンは分厚い本を読んでいる。
携帯を操作するカチカチという音と、ページをめくる音しかしない。静かな夜だ。
だが、そのうちに他の音が混じり始める。
新たな音のする方向に視線を向ければ、携帯のディスプレイを見てにやにやと笑いを浮かべる義妹がいる。
「気色悪い笑い声を出すな」
「気色悪いとは失礼な」
「事実だ」
「いやあ、だってこれ見たら笑っちゃうでしょ。普通」
そう言ってレムオンに突きつけるように見せたディスプレイにはどこかのゲームセンターを背景にして沢山のぬいぐるみを抱きかかえる同級生の姿があった。
ただし、どういうわけかその男の格好は女子生徒の着る制服で、筋骨逞しい足は白いルーズソックスを履いて短いスカートからにょっきり生えていたり、分厚い胸板でシャツとブレザーがぴちぴちしている。
一瞬ふらりと世界が回るような感覚を覚えて、レムオンは頭を抱えた。
「ね、面白いでしょう?」
「気持ち悪い。消せ」
「えー、だめかなあ?」
「当然だ」
これが己の幼馴染で同級生かと思うとふつふつと怒りが沸いてくる。恥ずかしいにも程がある。
明日会ったらくだらないことをするなときつく言っておかなければならない、とこめかみに青筋を浮かべた。
きつく拳を握り締めたところで、突然がしっと肩を抱かれた。
驚いて義妹を見れば、間近に相変わらずにやにや笑いを浮かべる顔があった。
「んもう固いなあ」
「おい何をっ……!」
「はい、ちーずっ」
まっすぐに伸ばされた腕の先には、携帯電話が握られていた。
ぱしゃりと電子音が鳴る。
「よしよし。良く撮れてる」
「おいっ!」
男の抗議を完全に無視して、少女はレムオンの携帯を手に取って勝手に開く。
「ああ、やっぱり可愛くない待ち受け画面」
「勝手に人のものを触るな」
「まあまあ。んー、機種が違うから良く分かんないけど……これをこうで、こうして……」
分からないなどと言いながら、その手は淀みなく動いていく。
「いい加減にしないか!」
声を荒げたレムオンににっこりと笑い、ずいと男の携帯電話を開いてディスプレイを見せた。
そこに写っているのは、顔がくっつきそうなほどに近い二人の写真だ。
顔を真っ赤にして慌てたような表情をするレムオンとは対照的に、レティシアは満面の笑顔で肩に回した手はピースをしている。
こんな写真を待ち受け画面にされてしまっては、恥ずかしくて携帯を開くことができない。
火照りの取れかけていた顔が、また熱くなる。
「…………っ! 直せ! 今すぐ直せ!!」
「そうですねぇ。今度二人でプリクラ撮ってくれたら、替えてあげますよ?」
「分かった。その条件を飲む!」
「ぜったい?」
「ああ!」
「やりぃっ! じゃ、明日プリクラ撮ったらすぐに替えますね」
にこにこと上機嫌に笑いながら、レティシアは携帯を持って居間を出て行った。
精神的な疲れはすぐに肉体的な疲れももたらし、レムオンはソファの背もたれに体を預けて長い息を吐いた。
ひとまずは助かった。あとは明日一日、携帯を開く必要がなければ何の問題もない。
「プリクラの一つでいいのなら、まあ安いも……の……?」
そこではたと気が付いた。
プリクラとは、何枚もの写真を小さなシール状にしたものだと記憶している。
それは、あるいはこの携帯の待ち受け画面よりも性質が悪いのではないだろうか。
だって、シールだ。
もしも人目に付くような場所に貼られてしまったら……
「レティシア!!」
想像に顔を真っ赤にして、レムオンはレティシアの後を猛然と追いかけた。
2008.05.26
修正
2008.05.13
初出