女主とだれか。
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だいきらい
リューガ邸からロストール城までの道は一本だ。
エリエナイ公の秘密をもった妹達は既に王妃の元へついているだろう。
俺が行く必要はないが城へ向かうと、あと少しのところに今最も会いたくないヤツが立っていた。
「よう」
幾らか緊張したが、何も無かったようにオレは片手を上げていつもの様に軽い調子で声をかけた。
ジルはつかつかと俺に近付き右の手を振り上げると、小気味良い音と共に頬に衝撃が走った。
口の中を切ったらしく、血の味が広がった。
俺の胸くらいまでしかない少女は、射殺しそうな目で睨んでくる。
目からは憎悪しか読み取れず、コイツでも感情を剥き出しにすることがあるのかと考え、それが兄に対してなのだと思い至ったら胸のあたりがちくと痛んだ。
「なんであんな事したの、ツェラシェル」
「なんでって、仕事さ。言っただろ?」
「そんなにお金が欲しいの!?」
「当たり前さ。金がありゃ何だってできる。ないよりはあった方がいいに決まってるだろ。……アンタ、俺を何だと思ってんだ? 金のためなら何だってする、卑怯な悪党なんだぜ?」
「……そう、だったわね」
「分かってんなら話は早いな。恨むなら自分の迂濶さを恨めよ」
薄く笑いながら言うと、ジルは黒曜石の目がぎらりと輝かせて背負った大剣の柄に手をかけた。
とっさに後ろへ飛び退くが、剣は唸りを上げて振られ、俺の首は切り落とされた……幻覚を見た。
全身から冷や汗が吹き出す。
これが大陸最強に王手をかけた者の放つ殺意か。
だが、不思議と恐怖はなかった。
「……俺を殺すか?」
正直、それもいいかと思った。
エルファスの呪いで死ぬよりは、……な相手に殺される方がマシだ。
「……しない」
剣が抜かれる事を暗く期待したが、はゆっくりと柄から手を離した。
それは鋼の如く強靭な意思で殺意を押さえ込んだのだろう。ジルの声と手は震えていた。
「あんたを斬ったところで、何かが変わるわけじゃないわ。もう、手遅れだもの」
力なく、ジルは俺の方へと歩いてくる。
伏せられた目は俺を見ていなかった。だから俺も、ジルを見なかった。
すれちがう瞬間、ジルは僅かに足を止めた。
「あんたを……た自分が嫌になる」
聞き取りにくい言葉にハッとして、ジルを見た。
彼女はうつ向いていて、その表情は見えなかった。
「だいきらい」
ぽつりと呟いて、ジルは駆け足で去っていった。恐らくリューガの屋敷に行くのだろう。
「だいきらい、か……」
投げつけられた言葉に、胸が酷く痛んだ。
それを誤魔化すように、もう闇の中に消えた背中にむかって呟いた。
「……俺も、アンタなんか大嫌いだよ」
嫌いだから、嫌われても平気だ。
胸なんか痛まない。
だって嫌いだから、嫌われてせいせいしたさ。
「……いてぇ……」
そう思い込もうとしたが、胸の痛みは酷くなるばかりだった。
2008.05.28
修正
2006.xx.xx
初出 ブログにて
リューガ邸からロストール城までの道は一本だ。
エリエナイ公の秘密をもった妹達は既に王妃の元へついているだろう。
俺が行く必要はないが城へ向かうと、あと少しのところに今最も会いたくないヤツが立っていた。
「よう」
幾らか緊張したが、何も無かったようにオレは片手を上げていつもの様に軽い調子で声をかけた。
ジルはつかつかと俺に近付き右の手を振り上げると、小気味良い音と共に頬に衝撃が走った。
口の中を切ったらしく、血の味が広がった。
俺の胸くらいまでしかない少女は、射殺しそうな目で睨んでくる。
目からは憎悪しか読み取れず、コイツでも感情を剥き出しにすることがあるのかと考え、それが兄に対してなのだと思い至ったら胸のあたりがちくと痛んだ。
「なんであんな事したの、ツェラシェル」
「なんでって、仕事さ。言っただろ?」
「そんなにお金が欲しいの!?」
「当たり前さ。金がありゃ何だってできる。ないよりはあった方がいいに決まってるだろ。……アンタ、俺を何だと思ってんだ? 金のためなら何だってする、卑怯な悪党なんだぜ?」
「……そう、だったわね」
「分かってんなら話は早いな。恨むなら自分の迂濶さを恨めよ」
薄く笑いながら言うと、ジルは黒曜石の目がぎらりと輝かせて背負った大剣の柄に手をかけた。
とっさに後ろへ飛び退くが、剣は唸りを上げて振られ、俺の首は切り落とされた……幻覚を見た。
全身から冷や汗が吹き出す。
これが大陸最強に王手をかけた者の放つ殺意か。
だが、不思議と恐怖はなかった。
「……俺を殺すか?」
正直、それもいいかと思った。
エルファスの呪いで死ぬよりは、……な相手に殺される方がマシだ。
「……しない」
剣が抜かれる事を暗く期待したが、はゆっくりと柄から手を離した。
それは鋼の如く強靭な意思で殺意を押さえ込んだのだろう。ジルの声と手は震えていた。
「あんたを斬ったところで、何かが変わるわけじゃないわ。もう、手遅れだもの」
力なく、ジルは俺の方へと歩いてくる。
伏せられた目は俺を見ていなかった。だから俺も、ジルを見なかった。
すれちがう瞬間、ジルは僅かに足を止めた。
「あんたを……た自分が嫌になる」
聞き取りにくい言葉にハッとして、ジルを見た。
彼女はうつ向いていて、その表情は見えなかった。
「だいきらい」
ぽつりと呟いて、ジルは駆け足で去っていった。恐らくリューガの屋敷に行くのだろう。
「だいきらい、か……」
投げつけられた言葉に、胸が酷く痛んだ。
それを誤魔化すように、もう闇の中に消えた背中にむかって呟いた。
「……俺も、アンタなんか大嫌いだよ」
嫌いだから、嫌われても平気だ。
胸なんか痛まない。
だって嫌いだから、嫌われてせいせいしたさ。
「……いてぇ……」
そう思い込もうとしたが、胸の痛みは酷くなるばかりだった。
2008.05.28
修正
2006.xx.xx
初出 ブログにて