黄金主とだれか。
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世界は廻る。あなたはいない。
薄暗い安宿の一室。
気だるくよどんだ空気は重いが、それ以上に情事のあとの匂いが濃厚だった。
男の逞しい腕に抱かれる女は、まだ顔に幼さを残している。
女の短い金の髪を梳く手は節くれ立って硬いが、優しかった。
「ねぇ。生まれ変わりって、本当にあるのかな」
破壊神の魂をその身に宿した瞬間に輪廻の輪から外れ、世界中でたった一人きりの種となった彼女は、ぽつりと呟くように言った。
そこには恋人に囁くような甘い響きはない。
男の手がほんの少しだけ震えた。
それに気づかないふりをして、女は言葉を続けた。
「もしもまた何処かで出会えるのら、私は永遠を生きる事だって少しは楽しいと思えるの」
男の腕の中で、少女は別の男を望んでいた。
その事を知る男だが、別段胸は痛まない。
彼もまた、彼女を抱きながら別の女を望んでいたからだ。
二人の心は、世界を救ったあの戦いの日から傷付いたまま。
舐めあう傷は、治るどころかただれていく。
二人ともそれを理解してはいたが、暗い痛みが甘美で心地良いせいなのか、寄り添う事を止められなかった。
女の望みを無へと還したのは男だった。
男の望みを無へと還したのは女だった。
恨む事はなかった。
それ以外に闇に堕ちた魂を救う方法がなかったのだと分かっていたし、互いの無くしたものを理解できる者は互いしかいなかった。
男はかすれた声で少女の呟きに応えた。
「あるんじゃないのか?」
「本当に?」
「ああ。あんたは永遠の中で。俺は幾度と繰り返す生の中で。どこかでまた、巡り逢うさ」
「……本当にそうなら、素敵ね」
女は不安を拭い去るように。
男は確かなものを求めるように。
深く交した口付けに、相手への愛は微塵もない。
今はいない者の幻を見ながら、二人は行き場を無くした愛を囁くのだった。
2008.05.26
修正
2006.xx.xx
初出
薄暗い安宿の一室。
気だるくよどんだ空気は重いが、それ以上に情事のあとの匂いが濃厚だった。
男の逞しい腕に抱かれる女は、まだ顔に幼さを残している。
女の短い金の髪を梳く手は節くれ立って硬いが、優しかった。
「ねぇ。生まれ変わりって、本当にあるのかな」
破壊神の魂をその身に宿した瞬間に輪廻の輪から外れ、世界中でたった一人きりの種となった彼女は、ぽつりと呟くように言った。
そこには恋人に囁くような甘い響きはない。
男の手がほんの少しだけ震えた。
それに気づかないふりをして、女は言葉を続けた。
「もしもまた何処かで出会えるのら、私は永遠を生きる事だって少しは楽しいと思えるの」
男の腕の中で、少女は別の男を望んでいた。
その事を知る男だが、別段胸は痛まない。
彼もまた、彼女を抱きながら別の女を望んでいたからだ。
二人の心は、世界を救ったあの戦いの日から傷付いたまま。
舐めあう傷は、治るどころかただれていく。
二人ともそれを理解してはいたが、暗い痛みが甘美で心地良いせいなのか、寄り添う事を止められなかった。
女の望みを無へと還したのは男だった。
男の望みを無へと還したのは女だった。
恨む事はなかった。
それ以外に闇に堕ちた魂を救う方法がなかったのだと分かっていたし、互いの無くしたものを理解できる者は互いしかいなかった。
男はかすれた声で少女の呟きに応えた。
「あるんじゃないのか?」
「本当に?」
「ああ。あんたは永遠の中で。俺は幾度と繰り返す生の中で。どこかでまた、巡り逢うさ」
「……本当にそうなら、素敵ね」
女は不安を拭い去るように。
男は確かなものを求めるように。
深く交した口付けに、相手への愛は微塵もない。
今はいない者の幻を見ながら、二人は行き場を無くした愛を囁くのだった。
2008.05.26
修正
2006.xx.xx
初出