黄金主とだれか。
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逢いに行くよ
日は沈み、既に夕暮れを越えた頃。
依頼の報告と次の依頼を受け終わると、ギルドのいかつい親父は綺麗に包装された箱を差し出してきた。
それと親父とを交互に見やるが、親父の無愛想な顔からは何も読み取れない。
依頼の報酬は既に受け取っているのだから、報酬ではない。
ならば何かと考えたが、すぐに今日が何の日なのかに行き着いた。
「ええと。愛の告白なら申し訳ありませ」
「馬鹿野郎。常識的に考えて竜をひねる様な女に手ぇ出そうなんつー酔狂な男はまずいねえだろ」
「……まあそれもそうなんですが。もうちょっと女の子扱いしてくれても良くはないですか」
「ははあ。その様子だとバレンタインのチョコを贈られたな?」
うっ、と小さく唸ってレティシアは親父から顔背けた。
女性達は目をきらきらと輝かせて、憧れの王子様を見つめるような熱を帯びたいくつもの視線で見つめてきて、積極的にチョコを渡してきた。
せっかく自分の為に用意してくれたものを断るのも気が引けて受け取れば、周囲の男性陣からは羨望と嫉妬の視線が突き刺さった。
何よりも、バレンタインという存在自体をすっかり忘れていて、想う人に何もできなかったという事実。
それらを思い出すと悲しくなった。
「私って女としての魅力が無いんだなあとつくづく思いましたよ」
「魅力以前に、自覚がないのが問題だろ」
ばっさりと切り捨てられ、レティシアは力無く笑った。
そんな気はしていたが、周囲もそう思っていたというのはショックだ。
「まあ安心しろ。こいつぁそんなお前さんに酔狂な野郎からの贈り物だ」
「誰から?」
「そいつぁ自分で確認しな。お前さんに必ず今日届く様に、全都市に同じ依頼を出してんだからよ」
「全都市って……なら、これから別の街に行ったら同じ物を受け取るって事?」
「ま、そうなるな」
「うわ。変なものじゃなきゃいいんだけど……」
小包を受け取ってみると、見た目よりは重かった。軽く振ってみるとがさごそと鈍い音が聞こえる。
中身に思い当たるものが何もなく、レティシアは不思議そうに首を傾げた。
「オラ、いつまでもそこにいんじゃねえよ。後ろが詰まってんだろ」
言われて後ろを振り返れば、そこには数人の冒険者が並んでいた。
慌ててカウンターの前から飛び退き、隅で待つ仲間達の待つテーブルへ移動した。
「あ、レティシアお帰り」
「あれ、その包みは?」
「私宛の贈り物だって」
「誰から?」
「開けてみないと分かんない」
バリバリと包みを破ると、中から紙製の箱と二つ折りにされたカードが出て来た。
まずは箱の蓋を開けてみる。
八つの目が見つめる先には、四粒の茶色い塊が並んでいた。
「……チョコ?」
「バレンタインの贈り物かな」
「んー。美味しそうな匂い」
「美味そうじゃん。どれどってぇっ!」
勝手に手を伸ばしてきたチャカに鉄拳制裁を加えてから、チョコを一粒口に放り込んだ。
ゆっくりと溶けるそれは甘すぎず、ほんのりと苦味が口に広がった。
味に対して頓着しない方だが、これは美味しいと素直に思った。
残りを三人に分け、レティシアは添えられていたカードを開くと、目を丸くさせた。
流麗だが愛想のない字体でレムオン・リューガと署名がされていた。
まさかレムオンがチョコを贈ってくる(しかも必ず受け取れるように全都市配達)とは思ってもみなかっただけに、驚きも大きい。
その衝撃から立ち直ってカードをちゃんと見直すと、たった一言だけ書かれていた。
『たまには帰ってこい』
それだけの、彼らしい素っ気ない手紙だった。けれど、レティシアにはそれで十分だった。
帰ってこいと言ってくれた。
自分に社交辞令を贈る様な人ではないのだから、つまりは会いたいと解釈して問題ないはずだ。
顔が熱くなる。心臓の鼓動が早くなる。無性に、レムオンに会いたくなった。
「私、ロストールに帰る」
「は? ちょ、姉ちゃん!?」
「依頼よろしく。しばらくロストールにいるから、そこで落ち合おう」
「ちょっ、だって、これから夜になるし、ロストールまでどんだけかかると」
「うん。分かったよ」
「無理しないでね。あ、路銀は多めに持っていって」
「ってオイ! 何で止めねえんだよっ」
「だって、ねえ?」
「うん。走り出したら止まらないじゃない。レティシアは」
ルルアンタとナッジは顔を見合わせて微笑んだ。
「理解があって嬉しいよ」
にかりと笑うレティシアに、チャカはがくりと肩を落とすしかなかった。
あいたい。
今すぐ、あの人に会いたい。
会って、力いっぱい抱き締めて、大好きだと伝えたい。
この感情は、誰にも止められない。
止めたら、きっと死んでしまう。
だから、と力強く、レティシアは地面を蹴った。
2008.03.23
修正
2008.02.14
初出 ブログにて
日は沈み、既に夕暮れを越えた頃。
依頼の報告と次の依頼を受け終わると、ギルドのいかつい親父は綺麗に包装された箱を差し出してきた。
それと親父とを交互に見やるが、親父の無愛想な顔からは何も読み取れない。
依頼の報酬は既に受け取っているのだから、報酬ではない。
ならば何かと考えたが、すぐに今日が何の日なのかに行き着いた。
「ええと。愛の告白なら申し訳ありませ」
「馬鹿野郎。常識的に考えて竜をひねる様な女に手ぇ出そうなんつー酔狂な男はまずいねえだろ」
「……まあそれもそうなんですが。もうちょっと女の子扱いしてくれても良くはないですか」
「ははあ。その様子だとバレンタインのチョコを贈られたな?」
うっ、と小さく唸ってレティシアは親父から顔背けた。
女性達は目をきらきらと輝かせて、憧れの王子様を見つめるような熱を帯びたいくつもの視線で見つめてきて、積極的にチョコを渡してきた。
せっかく自分の為に用意してくれたものを断るのも気が引けて受け取れば、周囲の男性陣からは羨望と嫉妬の視線が突き刺さった。
何よりも、バレンタインという存在自体をすっかり忘れていて、想う人に何もできなかったという事実。
それらを思い出すと悲しくなった。
「私って女としての魅力が無いんだなあとつくづく思いましたよ」
「魅力以前に、自覚がないのが問題だろ」
ばっさりと切り捨てられ、レティシアは力無く笑った。
そんな気はしていたが、周囲もそう思っていたというのはショックだ。
「まあ安心しろ。こいつぁそんなお前さんに酔狂な野郎からの贈り物だ」
「誰から?」
「そいつぁ自分で確認しな。お前さんに必ず今日届く様に、全都市に同じ依頼を出してんだからよ」
「全都市って……なら、これから別の街に行ったら同じ物を受け取るって事?」
「ま、そうなるな」
「うわ。変なものじゃなきゃいいんだけど……」
小包を受け取ってみると、見た目よりは重かった。軽く振ってみるとがさごそと鈍い音が聞こえる。
中身に思い当たるものが何もなく、レティシアは不思議そうに首を傾げた。
「オラ、いつまでもそこにいんじゃねえよ。後ろが詰まってんだろ」
言われて後ろを振り返れば、そこには数人の冒険者が並んでいた。
慌ててカウンターの前から飛び退き、隅で待つ仲間達の待つテーブルへ移動した。
「あ、レティシアお帰り」
「あれ、その包みは?」
「私宛の贈り物だって」
「誰から?」
「開けてみないと分かんない」
バリバリと包みを破ると、中から紙製の箱と二つ折りにされたカードが出て来た。
まずは箱の蓋を開けてみる。
八つの目が見つめる先には、四粒の茶色い塊が並んでいた。
「……チョコ?」
「バレンタインの贈り物かな」
「んー。美味しそうな匂い」
「美味そうじゃん。どれどってぇっ!」
勝手に手を伸ばしてきたチャカに鉄拳制裁を加えてから、チョコを一粒口に放り込んだ。
ゆっくりと溶けるそれは甘すぎず、ほんのりと苦味が口に広がった。
味に対して頓着しない方だが、これは美味しいと素直に思った。
残りを三人に分け、レティシアは添えられていたカードを開くと、目を丸くさせた。
流麗だが愛想のない字体でレムオン・リューガと署名がされていた。
まさかレムオンがチョコを贈ってくる(しかも必ず受け取れるように全都市配達)とは思ってもみなかっただけに、驚きも大きい。
その衝撃から立ち直ってカードをちゃんと見直すと、たった一言だけ書かれていた。
『たまには帰ってこい』
それだけの、彼らしい素っ気ない手紙だった。けれど、レティシアにはそれで十分だった。
帰ってこいと言ってくれた。
自分に社交辞令を贈る様な人ではないのだから、つまりは会いたいと解釈して問題ないはずだ。
顔が熱くなる。心臓の鼓動が早くなる。無性に、レムオンに会いたくなった。
「私、ロストールに帰る」
「は? ちょ、姉ちゃん!?」
「依頼よろしく。しばらくロストールにいるから、そこで落ち合おう」
「ちょっ、だって、これから夜になるし、ロストールまでどんだけかかると」
「うん。分かったよ」
「無理しないでね。あ、路銀は多めに持っていって」
「ってオイ! 何で止めねえんだよっ」
「だって、ねえ?」
「うん。走り出したら止まらないじゃない。レティシアは」
ルルアンタとナッジは顔を見合わせて微笑んだ。
「理解があって嬉しいよ」
にかりと笑うレティシアに、チャカはがくりと肩を落とすしかなかった。
あいたい。
今すぐ、あの人に会いたい。
会って、力いっぱい抱き締めて、大好きだと伝えたい。
この感情は、誰にも止められない。
止めたら、きっと死んでしまう。
だから、と力強く、レティシアは地面を蹴った。
2008.03.23
修正
2008.02.14
初出 ブログにて