【第1話】二千年後のあなたへ
深夢人
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家に着いた時、辺りはすっかり暗くなっていた。
途中、ドンッという地響きがしたが、あれは地震だったのだろうか…
イヴはそう考えながら、ノアールを馬小屋に連れていった。
その音を聞き付けてか、シンシアが出てきた。
「お帰りなさい。」
『ただいま。シンシアさん。これ、頼まれていたものです。』
イヴはグリシャから受け取った薬をシンシアに渡した。
「本当にありがとう。助かったわ。」
『あとこれ。』
「なぁに?」
『好きなもの買ってきて良いって言われたから、買ってきたんですけど…。』
そう言ってイヴがシンシアに見せたのは、1人で食べるには明らかに多い、果物やパンであった。
『あたし1人では多いですし、一緒に食べませんか?』
イヴの好意に、シンシアは嬉しそうな表情を見せた。
2人はそのままシンシアの家で、女だけの夕食を楽しみ、お喋りも楽しんだあと、挨拶を交わして、お互いの家で眠るのであった。
ヒヒーンッ
ヒヒーンッヒヒーンッ
明け方…
滅多に鳴かない、ノアールの声でイヴは目を覚ました。
『ん?………何?』
目を開けると、日はまだ昇り始めたばかりであった。
『どうしたんだろ?』
イヴはそう言って、ベランダへと近付く。
バタタタタタッ
鳥の羽ばたく音が聞こえる。
ワンッワンッワンッ
犬の激しい鳴き声がする。
その事に不思議に思いながら、イヴは窓を開けた。
赤だ…
赤い雨が降っている。
それが、血だと気付くには、そう時間は掛からない。
目の前で首から上がない、男性と思わしき体が宙を浮いている。
胸には駐屯兵団の証の薔薇の紋章。
見上げるとイヴの頭よりも遥かに大きい瞳。
それを通り越して、シンシアが一階の窓からこちらを覗いているのが見えた。
その表情は恐怖で歪んでいる。
それで全てを理解した。
いつか自分が呟いた言葉が甦る。
(百年壊されなかった壁が、壊されないとは限らない。)
ヒヒヒーンッ
『っ!!!』
ノアールの声でイヴはハッと気が付いた。
ドチャッ
【それ】が口にしていた、首から下がイヴの目の前に落ちてくる。
それに軽く吐き気を覚えるも、イヴは見覚えのあるその体を、自身の寝室の奥まで思いっきり引っ張った。
【それ】はイヴを掴もうと、腕を伸ばすが、その手は届かない。
『ハッハッハッハッ。』
額に汗が滲む。
呼吸が浅くなる。
体が震える。
……………………………………。
暫く手を伸ばしていた、【それ】は手が届かないと分かると、窓を壊すことはせず、標的を変えたようであった。
イヴの目に見えるはずのない、シンシアが見えた気がした。
シンシアのことだ、助けようと家から出てきていても不思議ではない。
(シンシアさんが…………危ないっ!)
そう思うもイヴの体は恐怖で動いてくれない。
『何よ。動いてよっ!動けっ動けっ動けっ!』
動かない体に対して、怒りが込み上げる。
『動い、て。』
大切な人を守れないことに対して、涙が出てきた。
『お願いだから、動いて、よ…。』
その時、涙で溢れるイヴの目に、先程引っ張った体が映った。
寝室に首から出る血が広がっていく。
『!!!』
その瞬間、イヴの体に電撃が走ったように感じた。
目に軽く痛みを覚える。
次の瞬間から、イヴは全てを理解できた。
自分の体の全てを支配する。
『殺ら、なきゃ。………殺られる。』
袖で涙を拭う。
立ち上がったイヴの体は、もう震えてなどいなかった。
【二千年後のあなたへ】END
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