【第1話】二千年後のあなたへ
深夢人
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「まいどありー。」
元気よく挨拶をする店主に会釈を返し、昼食を軽く済ませたイヴは、帰路に着こうとノアールに乗ろうとした。
その耳に、聞き慣れた声がする。
「そ…それは!僕に降参したって事じゃないのかっ!?」
「う、うるせぇぞ!屁理屈野郎っ!」
それは、路地裏から聞こえてくるようであった。
自然とノアールの手綱をそちらに引いた。
「やめろっ!何やってんだお前らっ!」
『今のは、エレンの声ね…。』
ノアールの手綱を引き、ちょうど角を曲がった時だった。
「あっ!駄目だっ!ミカサがいるぞっ!うわぁぁぁぁあ!」
と声を上げ、こちらに走ってくる少年3人がいた。
『!!!』
「っ!!」
3人は止まることが出来ず、そのままイヴにぶつかった。
『………いたたた。君たち、大丈夫?』
ノアールが背にいた事もあり、イヴは転ばずに済んだ。
「いってぇー。あっぶねぇっ///」
体格の良い少年が暴言を吐こうとするも、相手がイヴと知り、顔を赤らめた。
「イヴっ!?」
その様子を後ろで見ていた、少年エレンは驚きの声を上げる。
エレンに軽く笑顔を返し、イヴは3人の少年に向き直った。
『全く君たちは、またアルミンに悪さしてたの?』
イヴは眉間に軽くシワを寄せながら言った。
「だって、あいつが」
『だってじゃ、ありません。』
少年が何か言おうとするも、イヴはそれを遮った。
『前も言ったでしょう?如何なる理由があろうとも、複数人で1人を苛めるのは、弱い者がすることだって。』
「そうだけど…。」
少年たちはたじたじである。
『一対一の男同士の喧嘩なら、あたしは何も言わないけどっ!』
イヴはそう言って、少年3人の頭をクシャクシャと撫でた。
「ちょっ///子ども扱いしないでよっ///」
イヴに頭を撫でられ、顔が真っ赤の3人である。
「……………屁理…アルミンっ!」
「え?何?」
完全に蚊帳の外だった、金髪の少年アルミンは突然名前を呼ばれ、驚いたように返事をする。
「悪かったなっ!」
ガキ大将であろう少年は、ぶっきらぼうにそう言うと、他の2人と去っていった。
イヴはそれを見送ると、エレン、ミカサ、アルミンに近付いた。
『大丈夫?アルミン?』
イヴはニッコリと笑い、アルミンに声を掛けた。
「大丈夫だよ///」
イジメられている所を、イヴに見られて恥ずかしいのか、アルミンは顔を赤らめた。
『良かった。エレンもミカサも久し振りね。元気そうで良かった。』
同じくニッコリと話し掛ける。
「イヴ、久し振り。」
それに淡々とした様子でミカサが返した。
「いつこっちに来たんだよ?」
エレンはイヴにそう聞いた。
『ん?昼前だよ。エレンの家にも行ったんだけど、会えなかったから、会えて良かった。』
イヴの素直な言葉に、エレンは顔を赤らめた。
『ところで、何で喧嘩になったの?』
イヴはアルミンに向かって聞いた。
「えっ?いや、あの………。」
よほど言い辛いことなのか、アルミンは言葉を濁した。
『?』
「イヴは…。」
決心したように、アルミンは口を開いた。
『うん。』
アルミンの言葉を待って、イヴは静かに相槌を打つ。
「イヴは、僕が人類はいずれ壁の外へ行くべきだって言ったら、どうする?」
……………………………………。
「あっ、やっぱり忘れ」
『あたしもその通りだと思ってるよ。』
静寂に耐えられなくなったアルミンは、慌てたように訂正しようとした。
それをイヴは遮る。
「え?」
イヴの言葉にアルミンだけではなく、その場にいる2人も驚いたようであった。
『あまり大きな声では言えないけどね。』
イヴは微笑を浮かべながら、言葉を続ける。
『………きっと、壁の外にはあたし達が見たことがないような物がたくさんあるに…違いない。あたしはその大きな、大きすぎる世界をこの目で見てみたい。』
イヴの手はノアールを撫で、目は住宅の隙間から見える空を見上げていた。
『でも、人々は此所での暮らしに慣れてしまったのよね。百年、壁が壊されなかった事が、王を始め、人々の感覚を鈍らせてしまったのかもしれない。あたし達は所詮、鳥籠の中の鳥にすぎないのに…。』
「私は…。」
イヴの話を聞いていたミカサが口を開く。
「わざわざ命の危険を侵してまで、外に行く必要はないと思う。」
ミカサのその言葉は、イヴだけに向けられた言葉ではないように感じた。
『そうね。』
イヴはそこで、ふふっと笑った。
『でも、鳥籠の中で羽を思いっきり広げられない鳥に向かって、それでも鳥籠にいろと、ミカサは言える?』
「………………。」
『鳥籠の中で外から来る天敵に怯えながら生涯を終えるか、自らの翼で鳥籠から出て、天敵と対峙するか…。それは、その鳥が決めること。……………人だって同じだと思うよ?』
イヴが目を向けると、3人はそれぞれ真剣な表情を見せながら、その中に様々な表情を浮かべていた。
『………人はそれぞれ【自由の翼】を持っているのだから。……………と、あたしは思っているんだけど、っと!』
イヴはノアールに飛び乗った。
『じゃあ、そろそろ時間だし、あたしは行くね。また…ね。』
3人に笑顔を向けると、イヴはノアールの腹を蹴り、その場を去った。
その背中を、3人は見えなくなるまで見つめていたのであった。