ﾀｶｯﾀｶｯﾀｶｯ

ノアールに乗って、暫く走ると門が近くになってきた。
門が近付くと、イヴはノアールの手綱を引き、スピードを緩めた。
門の回りは家や店が並び、活気に溢れている。
『やっぱり、ノアールは目立つのね。』
誰に言うわけでもなく、一人呟く。
人が多くなるにつれて、好機の目がイヴに向いていた。
イヴは気が付いていないが、町の人は決してノアールだけを見ていただけではない。
真っ黒な大きな美しい馬に、これまた美しい少女が乗っているのだ。
目を引くのも仕方がない。

「おっ！誰かと思えば、イヴじゃねーか。」

門まで来ると、金髪の中年の男性が声を掛けてきた。
『ハンネスさん。おはようございます。』
ハンネスはイヴが知っている、駐屯兵の一人だ。
「こんな朝からどうした？」
ハンネスはそう言いながら、近付いてきた。
『ん？ハンネスさん、飲んでます？』
イヴの半径1mまで近付いた時、ハンネスから酒の臭いがすることに気が付いた。
「ん？あぁ、まぁな。」
にへらっとハンネスは笑う。
『……………………。』
酒の臭いに、軽く顔を歪めながら、イヴは馬の腹を蹴った。
「いやっ、おいおい。」
それをハンネスが止めた。
『なんですか？』
「いや、話の途中だったろ？」
『何か話してましたっけ？』
そう言うイヴの顔は嫌そうである。
「あー…………。」
ハンネスはその表情を見て、固まってしまった。
馬に乗ったまま話をしているため、余計冷たく見えてしまう。
「いや、あのー…(美少女の軽蔑の眼差しってのは、こうも刺さるもんなんだな。)。」
と、ハンネスは何を話そうか迷ってしまう。
『………………ハンネスさん。』
その様子を見て、イヴが話し掛けた。
「はっはい。」
慌てるハンネスの顔に、自身の顔を近付けイヴは言った。
『お酒は飲んでも、飲まれるな…ですよ。』
イヴはそう言うと、ハンネスの額に軽くデコぴんをした。
「あたっ！」
『何かあってからじゃ、遅いんですからねっ！』
そう言うと、イヴはそのまま頬を膨らませ去っていった。

イヴの去っていった方を見ながら、一部始終をその場で見ていた駐屯兵とハンネスは思った。

(((可愛い///)))

その後、ハンネスが他の兵士に質問攻めにあったことは、イヴは知らない。