短編・中編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
-3.二年後- ※夢主視点
窓から差し込む柔らかい春の光で目を覚ますことが出来るなんて、理想的な朝だ。
ゆっくり瞬きをしてもう一度目を閉じる。ふかふかの枕を顔うずめて、微睡を楽しんだ。
あの日からもう“約束”の夢は見なくなったのは、私とテっちゃんの気持ちがしっかりと通じ合ったからだと思う。
今日から大学一年生。10時から入学式があるから今日は珍しくスーツにパンプスという慣れない服装を着なくちゃいけない。
まだ起きなくても充分間に合うけれど、私はちゃきちゃきと支度を始めた。
万が一にも電車の遅れがでて間に合わなくなったら大変だから余裕を持って向かった方がいい。
…早目に家を出る理由はそれ以外にもあるのだけれど。
朝ごはんを食べて歯を磨き、少しだけ化粧をする。
高校の時は化粧なんてほとんどしなかったけれど、大学生になったらちゃんとしたメイクも覚えないと。
真新しい白いシャツと黒いスーツ、履き慣れないストッキングを履いて鏡の前に立った。
その違和感に思わずはにかんだら、後ろから見ていた母にも「着られちゃってるねぇ」と苦笑していた。
パンプスを履いて鞄を持って玄関のドアノブに手をかけると、目の前に飛び込んできたのはテっちゃんの姿。
テっちゃんが家を出る時間を聞いた私が「一緒に行きたい!」と言ったのを覚えててくれて、迎えに来たようだ。
挨拶を交わしてお互い見慣れない姿をまじまじと見つめ合う。
彼も今日から高校一年生で、真新しい制服をキッチリと着ていた。中学の頃はブレザーだったけど今度は学ランかぁ…。
テっちゃんの通う誠凛高校は、去年出来たばかりの新設校。制服もよく見るとただの学ランではなく洒落たデザインだ。
「テっちゃん、学ラン似合ってる!」
「琴音はスーツが似合ってませんね」
柔らかく微笑みながもひどいことをサラリと告げるテっちゃんは相変わらずだ。
確かに本当のことだけど、会って早々そんなこと言わなくてもいいのに…!
しかし、ショックな気持ちよりも一緒に駅まで並んで歩けることが嬉しくて、私は「ひどいよ!」と抗議しつつもつい頬が自然と緩んでしまう。
後ろ手で玄関のドアを閉めて私も門の前まで出ると、テっちゃんは半歩後退した。
向かい合えば、私の背を越してしまっているのが明らかだ。私の方が背が高かった時期なんてほんの少しだったなぁ。男の子ってすぐ成長しちゃう。
一抹の寂しさを覚えながらもテっちゃんの左手を握ったら、彼からも優しく握り返してくれた。
「部活はもう決まってるんだよね?」
「もちろんです。…もう、逃げません」
強い口調で答え、私を見据えるアクアブルーの瞳の中に強い意志が輝いていた。
間近で見るそれはキラキラしてとても眩しい。
たくさんの困難を乗り越えてテっちゃんが出した答えを、私はどんな時も全力で応援しなくちゃ。
悩む時も一緒に悩み、いつだって味方でいたい。
それぐらいしか出来ないのがもどかしいけど、少しでもテっちゃんの力になればいいなと私は心の中で願った。
でも、願うだけじゃダメかなぁ。
――そうだ。私なりの『おまじない』。
「ほっぺにまつ毛付いてるよ。取ってあげる」
クス、と私が笑うと彼は素直に背を丸くして屈み、私に顔を近づけた。
私は繋いでいない方の手をテっちゃんの顔に近づけ、そっと指で睫を取る…フリをした。
本当は彼の顔にまつ毛なんてついてない。そのまま顔をさらに近づけて鼻先が触れた時、テっちゃんの目が大きく見開いた。
けど、今気づいたってもう遅い。私は内心でほくそ笑んだ。
唇同士が触れ合ってキレイに重なって柔らかさを確かめた後、名残惜しいまま私は顔を離した。
ほんの3秒ぐらいの出来事。テっちゃんの顔を見れば呆然として固まっていた。そしてあっという間にその顔色は朱に染まっていく。
「…っ!」
握った手からテっちゃんが戦慄いているのが伝わってきて、私は堪えきれず吹き出した。
「…っ、何をするんですか」
「テっちゃんが部活を頑張れますようにって、おまじない」
「誰かに見られたらどうするんですか。こんな玄関先で…」
「私は誰に見られても困らないけど?」
挑発的に返せば、彼は余計にムッとした表情になる。恋人になってから二年が経つ私達は、キスだって初めてしたわけじゃない…のに、不意打ちすればこのリアクション。テっちゃんは相変わらず可愛い人だな思う。
「……今度、倍にして返します」
「それは楽しみだねぇ」
声色に悔しさが混ざったまま、テっちゃんは私に宣戦布告してきた。
声を立てて笑い出す私にジト目を向けるも、彼の顔の色はまだ赤いままだった。
テっちゃんは私の手を振りほどいたりしないので、つくづく私は甘やかされていると実感する。
二人の間にふわりと春風が吹いて髪を撫でる。
どこからともなく飛んできた桜の花びらが頬を掠めて飛んでいったのを横目で見送った。
心地よい1日のスタート。今日から新しい生活がはじまるけれど、隣に居る人は変わらないまま。
はじまりの春の日――、恋人になった幼馴染の手の温もりを確かめながら並んで歩く。この上ない幸せが体中を満たしていった。
end.
窓から差し込む柔らかい春の光で目を覚ますことが出来るなんて、理想的な朝だ。
ゆっくり瞬きをしてもう一度目を閉じる。ふかふかの枕を顔うずめて、微睡を楽しんだ。
あの日からもう“約束”の夢は見なくなったのは、私とテっちゃんの気持ちがしっかりと通じ合ったからだと思う。
今日から大学一年生。10時から入学式があるから今日は珍しくスーツにパンプスという慣れない服装を着なくちゃいけない。
まだ起きなくても充分間に合うけれど、私はちゃきちゃきと支度を始めた。
万が一にも電車の遅れがでて間に合わなくなったら大変だから余裕を持って向かった方がいい。
…早目に家を出る理由はそれ以外にもあるのだけれど。
朝ごはんを食べて歯を磨き、少しだけ化粧をする。
高校の時は化粧なんてほとんどしなかったけれど、大学生になったらちゃんとしたメイクも覚えないと。
真新しい白いシャツと黒いスーツ、履き慣れないストッキングを履いて鏡の前に立った。
その違和感に思わずはにかんだら、後ろから見ていた母にも「着られちゃってるねぇ」と苦笑していた。
パンプスを履いて鞄を持って玄関のドアノブに手をかけると、目の前に飛び込んできたのはテっちゃんの姿。
テっちゃんが家を出る時間を聞いた私が「一緒に行きたい!」と言ったのを覚えててくれて、迎えに来たようだ。
挨拶を交わしてお互い見慣れない姿をまじまじと見つめ合う。
彼も今日から高校一年生で、真新しい制服をキッチリと着ていた。中学の頃はブレザーだったけど今度は学ランかぁ…。
テっちゃんの通う誠凛高校は、去年出来たばかりの新設校。制服もよく見るとただの学ランではなく洒落たデザインだ。
「テっちゃん、学ラン似合ってる!」
「琴音はスーツが似合ってませんね」
柔らかく微笑みながもひどいことをサラリと告げるテっちゃんは相変わらずだ。
確かに本当のことだけど、会って早々そんなこと言わなくてもいいのに…!
しかし、ショックな気持ちよりも一緒に駅まで並んで歩けることが嬉しくて、私は「ひどいよ!」と抗議しつつもつい頬が自然と緩んでしまう。
後ろ手で玄関のドアを閉めて私も門の前まで出ると、テっちゃんは半歩後退した。
向かい合えば、私の背を越してしまっているのが明らかだ。私の方が背が高かった時期なんてほんの少しだったなぁ。男の子ってすぐ成長しちゃう。
一抹の寂しさを覚えながらもテっちゃんの左手を握ったら、彼からも優しく握り返してくれた。
「部活はもう決まってるんだよね?」
「もちろんです。…もう、逃げません」
強い口調で答え、私を見据えるアクアブルーの瞳の中に強い意志が輝いていた。
間近で見るそれはキラキラしてとても眩しい。
たくさんの困難を乗り越えてテっちゃんが出した答えを、私はどんな時も全力で応援しなくちゃ。
悩む時も一緒に悩み、いつだって味方でいたい。
それぐらいしか出来ないのがもどかしいけど、少しでもテっちゃんの力になればいいなと私は心の中で願った。
でも、願うだけじゃダメかなぁ。
――そうだ。私なりの『おまじない』。
「ほっぺにまつ毛付いてるよ。取ってあげる」
クス、と私が笑うと彼は素直に背を丸くして屈み、私に顔を近づけた。
私は繋いでいない方の手をテっちゃんの顔に近づけ、そっと指で睫を取る…フリをした。
本当は彼の顔にまつ毛なんてついてない。そのまま顔をさらに近づけて鼻先が触れた時、テっちゃんの目が大きく見開いた。
けど、今気づいたってもう遅い。私は内心でほくそ笑んだ。
唇同士が触れ合ってキレイに重なって柔らかさを確かめた後、名残惜しいまま私は顔を離した。
ほんの3秒ぐらいの出来事。テっちゃんの顔を見れば呆然として固まっていた。そしてあっという間にその顔色は朱に染まっていく。
「…っ!」
握った手からテっちゃんが戦慄いているのが伝わってきて、私は堪えきれず吹き出した。
「…っ、何をするんですか」
「テっちゃんが部活を頑張れますようにって、おまじない」
「誰かに見られたらどうするんですか。こんな玄関先で…」
「私は誰に見られても困らないけど?」
挑発的に返せば、彼は余計にムッとした表情になる。恋人になってから二年が経つ私達は、キスだって初めてしたわけじゃない…のに、不意打ちすればこのリアクション。テっちゃんは相変わらず可愛い人だな思う。
「……今度、倍にして返します」
「それは楽しみだねぇ」
声色に悔しさが混ざったまま、テっちゃんは私に宣戦布告してきた。
声を立てて笑い出す私にジト目を向けるも、彼の顔の色はまだ赤いままだった。
テっちゃんは私の手を振りほどいたりしないので、つくづく私は甘やかされていると実感する。
二人の間にふわりと春風が吹いて髪を撫でる。
どこからともなく飛んできた桜の花びらが頬を掠めて飛んでいったのを横目で見送った。
心地よい1日のスタート。今日から新しい生活がはじまるけれど、隣に居る人は変わらないまま。
はじまりの春の日――、恋人になった幼馴染の手の温もりを確かめながら並んで歩く。この上ない幸せが体中を満たしていった。
end.