短編・中編
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キスからはじまるストーリー
「「ーーーッ!」」
火神くんとキスをしてしまった。
なぜ、どうして、こうなった…?!
部室でバスケ雑誌を読んでいる火神くん。
すごく夢中で読んでいるみたいだから何の記事を読んでいるのか気になって後ろから見ていたのだ。
私も気になる記事だったので後ろから覗き込みつつ、「この選手カッコいいよね!」と声をかけたら、火神くんは驚いて私の方を振り向いた。
まさか後ろに人がいて、雑誌を前のめりの体勢で覗き込んでいるとは思いもしなかったんだろう。はしたなく雑誌を覗き込んでいた私が悪いんだけども。
覗き込んでいた私の顔と、私の方に振り向いた火神くんの顔が至近距離で、唇が触れた。
何が起きたかわからず数秒は硬直して、互いの唇が触れたままの状態。
先に「うわぁ!」と驚いて離れたのは火神くんの方だった。私も「あわわわわ」とワケのわからない叫びをした。
お互い赤面してしまい、頭の中で事実を整理しようとするも冷静でいられなかった。
他の部員たちは帰ってしまったので、幸い部室には二人きり。
小金井君あたりがもし見ていたなら私と火神くん以上に好奇心旺盛の声で叫び出していただろう。
「な…んで…、マネージャーが俺の後ろにいんだよ!」
お互い飛び退いて一定の距離を保ちながら私たちは向かい合った。
いつもなら「…です」とか遅れて敬語がつくのに、混乱しているあまりそれも忘れているほど、火神くんは口元を押さえて慌てて声を張り上げた。私も赤面しつつ慌てているのだが、つい、口元をおさえる彼を見て「乙女か!」と思ってしまった。
「さっきからずっといたよ!火神くんが夢中で雑誌読んでたから楽しい記事なのかなと思って覗き込んでたの…」
「だからっていきなり声出すなよ!お、驚くだろ!驚きゃ声の方振り向くだろ!?」
「ご、ごめん…そんなに驚くとは思わなくて……」
「こんなの、ありえねーだろ」
私が申し訳なさそうに謝っても火神くんから返事はなかった。謝ったところで唇が触れた事実は消えない。
これで唇を拭いて、と言って私はハンカチを取り出して火神くんに差し出した。
「まだ使ってない新品のやつだから」と。
黙って受け取った火神くんは特に何もせず、ハンカチに目を落としていた。
しばらく沈黙が続いて、私の体は固まったように動かない。すごく悪いことをしてしまった気持ちになり、心の中で悲しみが渦巻いていた。そんなに嫌だったのかなぁ。もしかしたらと思ってはいたけど、私は火神くんに嫌われていたんだろうか。
口は悪いけど本当は誰よりも熱い気持ちをもった男の子で、最近はよく話してくれるようになったし、徐々に仲良くしてくれて嬉しいな、なんて思っていたのは私だけだったんだろうか。
彼に嫌われているとも知らずに、一方的にそんなことを、思っていたんだな。
突如、虚しさがこみあげてきて、じんわり目頭が熱くなる。泣いたりしたら余計迷惑だから、我慢しないと。
不意に火神くんが椅子から立ち上がった。部室を出るんだろうか。
明日から気まずいな、もうお話もしてくれなくなるかな。
私は彼が部室を出るまで目を伏せて待っていた……が、しばらく経っても部室のドアの音がしない。
目をあけた途端、唇に布きれの感触がした。
「怒鳴ったりして悪かった…です」
火神くんが先程渡したハンカチで私の唇を拭っていた。
今度はちゃんと、いつものように「敬語」口調だったことに、火神くんが冷静さを取り戻したのだと私は悟った。
ハンカチを私に返して、火神くんは頭を下げた。謝るのは俺の方だったと、あんたに謝らせて悪かった、と。
てっきり怒って部室を出ていくと思っていたのに、そうではなかった。
彼は顔を上げると、罰が悪そうに私に背を向けて言った。
「アメリカじゃキスなんて挨拶代わりだったし、バスケの師匠には問答無用でよくやられてた。だから別に、事故でちょっと触れるぐらいなんともねぇはずなのに…何か嫌だったんだ、マネージャーとは」
ガーン!…と、大きなタライが頭上に振ってきたかのようなショックを受けて私は顔を俯かせた。
キスなんて挨拶代わりだったと言いつつも私とは嫌だった、なんて、もう「お前のことなんて嫌いだ」と言われているようなものだ。さすがにそのストレートな嫌い発言に耐えられるほど私の涙腺も忍耐力はない。
視界が涙で歪む。
嫌われたと知って泣くほど悲しい…ってこれってつまり、私は火神くんが好きだったんだ、と、気づいたと同時の失恋なんて悲しすぎる。
ぽたりと、涙が頬を伝う前に、どうか早く部室から去って欲しい。火神くんの背中を見つめてそう願った。
「好きな奴とはちゃんとしてぇから」
火神くんは、少しだけ声のトーンを落として言った。
が、その重大な発言はこの静まり返った部室では私の耳にもバッチリ届いた。
意味を理解することができず、私は素っ頓狂な声をあげて聞き返す。
な、何を言ってるのか、意味が…。
「あの、意味が……」
「な、何回も言わせんな!です!」
「ご、ごめん!」
「いや、違う!なんつーか、その、…何て言やいいんだ?」
相変わらずこちらを向かずに会話している私たちの姿は何と滑稽なんだろう。
火神くんは言いたいことをうまくまとめようとしているが、どうやら慌てているせいで上手くまとまらないみたいだった。
頭を掻いて考えているその後ろ姿が可愛く思えた。背も高くて体つきもいい、少し荒っぽいけど優しい男の子。私が好きになった人は間違いなく火神くんだ。
顔が赤らんでいく私と同時に、後ろから見ている火神くんの耳もみるみる赤くなっていく。
「俺はあんたが好きなんだ。だからあんなんじゃなくて、キスするならちゃんとしてぇし」
「そ、そうだったの…?」
「ホントは今言うつもりもなかったんだよ!つーか、WC出場が決まったら言おうかと思って……こっちはバカなりに色々考えててだな」
「そうだったんだ。私、すごい嫌われてるのかと思って本気で泣きそうになっちゃったよ…」
精一杯の告白に、私は一歩踏み出して火神くんに近づいた。
大きな背中に手の平を当てて寄り添うと、驚いたように体が少しだけ動いた。
――この意味、分かるかな?
女心が分からないと黒子くんに諭されていた火神くんでも、きっとわかるよね。
嫌われて泣きそうになっただなんて、「好き」だと言ってるようなものだろうか。
伝われ、伝われ、と心の中で念じた。
今だけどうか、女心に敏感になって。
「嫌いだなんて、そんなことあるはずねー……あるはず、ねーです」
火神くんの体がゆっくり向き直って、私の目を見た。身長差があるので私は彼を見上げる形になる。
数秒、見つめ合ってから火神くんの顔がゆっくり近づいてきた。頬を紅潮させながら、私はゆっくりと目を閉じる。
――「うっかり触れてしまった」と、そんな事故的なものでなく、今度は故意に、待ちわびていたものが触れるだろう。
「「ーーーッ!」」
火神くんとキスをしてしまった。
なぜ、どうして、こうなった…?!
部室でバスケ雑誌を読んでいる火神くん。
すごく夢中で読んでいるみたいだから何の記事を読んでいるのか気になって後ろから見ていたのだ。
私も気になる記事だったので後ろから覗き込みつつ、「この選手カッコいいよね!」と声をかけたら、火神くんは驚いて私の方を振り向いた。
まさか後ろに人がいて、雑誌を前のめりの体勢で覗き込んでいるとは思いもしなかったんだろう。はしたなく雑誌を覗き込んでいた私が悪いんだけども。
覗き込んでいた私の顔と、私の方に振り向いた火神くんの顔が至近距離で、唇が触れた。
何が起きたかわからず数秒は硬直して、互いの唇が触れたままの状態。
先に「うわぁ!」と驚いて離れたのは火神くんの方だった。私も「あわわわわ」とワケのわからない叫びをした。
お互い赤面してしまい、頭の中で事実を整理しようとするも冷静でいられなかった。
他の部員たちは帰ってしまったので、幸い部室には二人きり。
小金井君あたりがもし見ていたなら私と火神くん以上に好奇心旺盛の声で叫び出していただろう。
「な…んで…、マネージャーが俺の後ろにいんだよ!」
お互い飛び退いて一定の距離を保ちながら私たちは向かい合った。
いつもなら「…です」とか遅れて敬語がつくのに、混乱しているあまりそれも忘れているほど、火神くんは口元を押さえて慌てて声を張り上げた。私も赤面しつつ慌てているのだが、つい、口元をおさえる彼を見て「乙女か!」と思ってしまった。
「さっきからずっといたよ!火神くんが夢中で雑誌読んでたから楽しい記事なのかなと思って覗き込んでたの…」
「だからっていきなり声出すなよ!お、驚くだろ!驚きゃ声の方振り向くだろ!?」
「ご、ごめん…そんなに驚くとは思わなくて……」
「こんなの、ありえねーだろ」
私が申し訳なさそうに謝っても火神くんから返事はなかった。謝ったところで唇が触れた事実は消えない。
これで唇を拭いて、と言って私はハンカチを取り出して火神くんに差し出した。
「まだ使ってない新品のやつだから」と。
黙って受け取った火神くんは特に何もせず、ハンカチに目を落としていた。
しばらく沈黙が続いて、私の体は固まったように動かない。すごく悪いことをしてしまった気持ちになり、心の中で悲しみが渦巻いていた。そんなに嫌だったのかなぁ。もしかしたらと思ってはいたけど、私は火神くんに嫌われていたんだろうか。
口は悪いけど本当は誰よりも熱い気持ちをもった男の子で、最近はよく話してくれるようになったし、徐々に仲良くしてくれて嬉しいな、なんて思っていたのは私だけだったんだろうか。
彼に嫌われているとも知らずに、一方的にそんなことを、思っていたんだな。
突如、虚しさがこみあげてきて、じんわり目頭が熱くなる。泣いたりしたら余計迷惑だから、我慢しないと。
不意に火神くんが椅子から立ち上がった。部室を出るんだろうか。
明日から気まずいな、もうお話もしてくれなくなるかな。
私は彼が部室を出るまで目を伏せて待っていた……が、しばらく経っても部室のドアの音がしない。
目をあけた途端、唇に布きれの感触がした。
「怒鳴ったりして悪かった…です」
火神くんが先程渡したハンカチで私の唇を拭っていた。
今度はちゃんと、いつものように「敬語」口調だったことに、火神くんが冷静さを取り戻したのだと私は悟った。
ハンカチを私に返して、火神くんは頭を下げた。謝るのは俺の方だったと、あんたに謝らせて悪かった、と。
てっきり怒って部室を出ていくと思っていたのに、そうではなかった。
彼は顔を上げると、罰が悪そうに私に背を向けて言った。
「アメリカじゃキスなんて挨拶代わりだったし、バスケの師匠には問答無用でよくやられてた。だから別に、事故でちょっと触れるぐらいなんともねぇはずなのに…何か嫌だったんだ、マネージャーとは」
ガーン!…と、大きなタライが頭上に振ってきたかのようなショックを受けて私は顔を俯かせた。
キスなんて挨拶代わりだったと言いつつも私とは嫌だった、なんて、もう「お前のことなんて嫌いだ」と言われているようなものだ。さすがにそのストレートな嫌い発言に耐えられるほど私の涙腺も忍耐力はない。
視界が涙で歪む。
嫌われたと知って泣くほど悲しい…ってこれってつまり、私は火神くんが好きだったんだ、と、気づいたと同時の失恋なんて悲しすぎる。
ぽたりと、涙が頬を伝う前に、どうか早く部室から去って欲しい。火神くんの背中を見つめてそう願った。
「好きな奴とはちゃんとしてぇから」
火神くんは、少しだけ声のトーンを落として言った。
が、その重大な発言はこの静まり返った部室では私の耳にもバッチリ届いた。
意味を理解することができず、私は素っ頓狂な声をあげて聞き返す。
な、何を言ってるのか、意味が…。
「あの、意味が……」
「な、何回も言わせんな!です!」
「ご、ごめん!」
「いや、違う!なんつーか、その、…何て言やいいんだ?」
相変わらずこちらを向かずに会話している私たちの姿は何と滑稽なんだろう。
火神くんは言いたいことをうまくまとめようとしているが、どうやら慌てているせいで上手くまとまらないみたいだった。
頭を掻いて考えているその後ろ姿が可愛く思えた。背も高くて体つきもいい、少し荒っぽいけど優しい男の子。私が好きになった人は間違いなく火神くんだ。
顔が赤らんでいく私と同時に、後ろから見ている火神くんの耳もみるみる赤くなっていく。
「俺はあんたが好きなんだ。だからあんなんじゃなくて、キスするならちゃんとしてぇし」
「そ、そうだったの…?」
「ホントは今言うつもりもなかったんだよ!つーか、WC出場が決まったら言おうかと思って……こっちはバカなりに色々考えててだな」
「そうだったんだ。私、すごい嫌われてるのかと思って本気で泣きそうになっちゃったよ…」
精一杯の告白に、私は一歩踏み出して火神くんに近づいた。
大きな背中に手の平を当てて寄り添うと、驚いたように体が少しだけ動いた。
――この意味、分かるかな?
女心が分からないと黒子くんに諭されていた火神くんでも、きっとわかるよね。
嫌われて泣きそうになっただなんて、「好き」だと言ってるようなものだろうか。
伝われ、伝われ、と心の中で念じた。
今だけどうか、女心に敏感になって。
「嫌いだなんて、そんなことあるはずねー……あるはず、ねーです」
火神くんの体がゆっくり向き直って、私の目を見た。身長差があるので私は彼を見上げる形になる。
数秒、見つめ合ってから火神くんの顔がゆっくり近づいてきた。頬を紅潮させながら、私はゆっくりと目を閉じる。
――「うっかり触れてしまった」と、そんな事故的なものでなく、今度は故意に、待ちわびていたものが触れるだろう。