短編・中編
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Step by Step
季節は春と言えど、夜風はまだ冷たい。持ってきたストールを肩からかけて私は夜道を歩いた。
時計の針はあと15分で夜8時になろうとしている。
久々にめかしこんで行くその場所は、居酒屋だ。大学で仲良くなったばかりの友達がセッティングした合コン。おそらく数合わせだろうなと思いつつも、断れずにそのまま受けてしまって今に至る。
普段はこの時間はバイトか、夕食後でまったりとテレビでも見ている時間なのになぁと思いつつ、私はため息をついた。
しかし、これからの大学生活、こういうことは多々あるだろうし付き合いも大事だからなぁ。
自分を納得させて私は駅に向かっていく。そもそもスタートが遅いんだろう。帰る頃には何時頃になるだろう。あまり遅くなると夜道を歩くのも怖いし、できれば日付が変わる前に家に帰りたいものだ。
駅までの道の途中にある、フェンスで囲まれたストリートコート。通り過ぎるときに必ず横目で見るクセがついてしまった。
ダム、ダム、とボールの弾む音に反応して私はしっかりと動いている人影を見た。
あぁ、あの背格好は、大輝くんだ。
家を早目に出てきたので待ち合わせ時間までまだ余裕がある。私は入口のフェンスの扉をあけて中に静かにコートの中に入った。
誰かと1on1をやるわけでもなく、大輝くんはダムダムとリズムよくドリブルをしてそのまま豪快にダンクを決めた。
「ナイッシュー!」
圧倒的な迫力。私は彼のダンクを久々に目の当たりにして思わず拍手をした。
それに気付いてこちらを振り返った大輝くんは驚いたように目を見開いた。
それは一瞬だけで、またすぐに元の目つきに戻る。睨んでいるわけではないのに目つきが悪いので睨んでるように見えるけれど、昔から知っている私はもう見慣れていた。
よォ、と無愛想に一応挨拶をしてくれた彼を、私はまたマジマジと見つめた。
「少し見ない間にまた背が伸びたんじゃない?」
「知らねーよ」
久しぶりに会ったというのにこれまたぶっきらぼうな相槌に私は苦笑した。まるであの頃と変わっていない。
面影を残したまま、彼はたくましく成長していた。
――大輝くんとさつきちゃんは幼馴染で、私はその二人の家の真向かいの家に住んでいた。
私もよく二人に混ざって遊んでいたのだ。
3つ年上なのでお姉さんみたいなポジション。
かわいい弟と妹が一度に出来たみたいでとても嬉しかった。
さつきちゃんをいじめて泣かせば私は大輝くんを叱った。私が落ち込んでいれば二人が励ましてくれた。
いつからかお互いの生活が忙しくなり、昔のように遊ぶことはなくなってもあの頃の思い出は今でも心の中であたたかく大事にしていた。
私とさつきちゃんは今でも時々会ってお茶をしているので、大輝くんの近況もだいたいは聞いている。
「部活には出ないのにこんなところで練習してるの?さつきちゃんから聞いてるよ?」
「……あのブス余計なことを」
「かわいい幼馴染のことをブスって言わない!」
「へいへい」
明後日の方向を向いて大輝くんはダルそうに返事をした。あんなにかわいい幼馴染がいることを少しは贅沢だと自覚したほうがいい。私がさつきちゃんとお茶したり買い物してるときは100%さつきちゃん目当てでナンパされる。それほどにさつきちゃんはモテるし、かわいいのだ。
昔から一緒に育ってきた彼は、そんなかわいい幼馴染がいて贅沢などとは一生気付くことはないだろう。
『試合には出るが練習には出ない』ことを条件に桐皇学園からのスカウトを受けたこと、自分以上に強い人もおらず目標もなく、鬱屈した日々を送っていることをさつきちゃんから聞いていたので、正直、一人でストリートコートに大輝くんがいるのは驚きだ。
練習…、をしているわけではないのだろうけど。
人生でいくつか越えられないほどの大きな問題…壁にぶつかる時があるというけれど、大輝くんにとってそれは今なんだろうか。自分に勝てるのは自分だけ、というのは超えるものがいなくて退屈で、好きなことにも燃えられない。フラストレーションは溜まる一方だろう。でも、バスケを嫌いになったわけじゃなさそうだ。だってストリートコートに来てるのだから。それだけでも私は安心した。
「時々ここで遊んだよね。なつかしい」
「そーだな」
「年はとりたくないねぇ」
「そーだな」
指の上でくるくるとボールをまわしながら大輝くんはつまらなそうに返事をする。
器用だぁとボールに見いってたら、視線を感じてそちらを見ると、バチリと目が合った。
ぽかんと口をあけてボールを見ているアホ面を見られてしまったようで、大輝くんはクッと喉を鳴らして笑った。
前にもこんなことがあった気がする。
回転したボールをバランスよく指先に乗せる技、私がやると何度やっても上手くいかないから、大輝くんがやる度にそれに見入ってしまう。ちなみに私はさつきちゃん同様よくからかわれていた。
年上なのに。姉のように接してきたつもりが、彼はまったくそんな風に思っていたなかったに違いない。
「そのおもしれーアホ面久々に見たわ。今日はせっかくめかしこんでるのに今の顔は台無しだな」
笑って言う彼の笑顔には、未だ少年の面影があった。
大学に入ってからはメイクもきちんとするようになったけれど、メイク後の顔を大輝くんに見せるのは初めてだろう。
私はいつも通りのつもりでもめかしこんでいるように見えたようだ。
…というか、メイクしてる事に気付いたのが意外すぎた。こーゆーことには鈍感かと思ってた。
「今日はこれから合コンなんだ。だから一応めかしこんでみました。数合わせで呼ばれただけなんだけどさ」
「…何だお前、行くのか?」
「だから行くって言ったよ今…。何?うらやましい?美人で胸大きい子たくさんくるかなーって?」
「違ェーよ!」
ムキになって怒鳴った大輝くんが面白くて私は声をたてて笑った。私がからかわれることがほとんどだったけど、時々、私がやりかえしてからかうこともあったなぁと思いだした。ついでに、スカートめくられて「色気のねーパンツだ」とか言われた時に回し蹴りをくらわせた思い出も過た。なつかしい。
久々に会えたのだからもう少し話していたいところだけど、そろそろ行かなくては。
会えたら一言だけ言おうと思っていたことがあった。メールでなく直接伝えたかったこと。
とっても余計なお世話なので鼻で笑われてしまうかもしれない。でも、それでも――伝えたかった。
「大輝くんより強い人なんて、きっとすぐに現れるよ。だから退屈な日々も必ず終わりが来るから」
この一言で、私が大輝くんの現状を、彼が思っている以上にさつきちゃんから聞いていたことを悟られたに違いない。
それでもよかった。私のエゴだと思ってくれればいいし、これを伝えたかったのは実際、私のエゴ以外の何でもない。
またお節介なこと言いやがってと内心悪態づいてくれてもいい。
ただ、きっと昔みたいに大輝くんがバスケに夢中になる日がくればいいなと心から願っているのは、誓って、私の本心だ。
鬱陶しそうに睨まれるのかと思ったけど、大輝くんは静かに、物悲しそうに笑った。それを月明かりが照らし、私の目に焼きついた。
「お前もテツと同じことを言うんだな」
ポツリと喉から漏れた言葉。はじめてみる表情にドキリと心臓が鳴った。
少年時代のあの頃と何も変わっていないわけじゃあない。
私も彼も、少しずつ大人になっている。見た目も考え方も。
それは当たり前のことなのに、どこかで変わってほしくないなと願っていただけに、大人びた大輝くんを見てチクリと胸が痛んだ。
「じゃあまたね」と手を振って私は踵を返して歩き出そうとしたら、後ろからの強い引力。
何事かと勢いよく振り返ると大輝くんは私の鞄の紐を掴んで引っ張っていた。
しばし沈黙してからお互いの視線が重なり合う。もう一度出口の方を向いて歩きだそうとしてもビクともしない。
大輝くんの力で私を抑えるなど容易いだろう。
「行かねーほうがいいんじゃねぇの?」
「大丈夫、ソフトドリンクしか飲まないから」
「そうじゃねぇって。…もし無理に飲まされて酔っちまったらカンタンにお持ち帰りされて食われちまうぞ」
「ちょ、またえげつないことを言うねぇ…」
鞄の紐を掴んでいる手をペシッと叩くと、簡単に手を離してくれたので、私は肩にかけなおして大輝くんに向き直った。
何か、言いたいことでもあるんだろうか。
合コンにいくなって?なに?
心配してくれてるの?色気づいてんじゃねぇよってこと?…どっちだろう?
大輝くんは走るのも早い。私が隙をついて出口に向かって走ったところで簡単に阻止されてしまうだろう。
私はとりあえず、「どうしたの?」と聞いてみた。何も理由ないしに面倒なことをする子ではないと知っているから。気を引きたくてやってるわけじゃないと思うし。多分。
「フリースロー対決、やるか」
「は?」
「俺がやる、っつったらやる」
突然の無茶な提案に黙りこくると、大輝くんは「そっちが先行」と私にボールを渡してきた。
大輝くんとさつきちゃんとよくバスケで遊んでいたといってもそれは大輝くんが本格的に背が伸びる前の小学校までの話だ。
そして私はもとよりバスケが上手くないわけで…。彼もそれをわかっているはずだ。
「大輝くんに意義を申し立てる」
「あんだよ」
「やる前から結果がわかりきってる対決に、意味ある?」
「ねぇよ。うるせーな」
ズバッと言い返されても納得するはずなかった。訳がわからないが、特に怒るほどことでもないので、私はこの対決を受けようと思った。いっそのこと、合コンは理由つけてサボってしまおうか。むしろ、大輝くんが引き止めてくれたおかげでちゃんと行けない理由ができたじゃないか。
大きく深呼吸をして、私はフリースローラインに立った。ゴールを目掛けてボールを投げるも、それは大きく弧を画いてリングの端っこにガツンと当たって外れた。シュートがあまりにも無様だったのか、大輝くんは遠慮なくゲラゲラと笑い出した。対決をしようと言って人に投げさせておいたのはそっちのくせに。
大輝くんは、「この対決にお前が勝ったら教えてやるよ」、と言って、不敵に笑った。
っていうか、私が勝つなんて無理でしょ。
どう考えても大輝くんが勝つでしょうが!
彼の伝えたいことはなんだろう。大切なこと?それともくだらないジョーク?わからない。
勝負が終わるまでそれは考えても無駄なことだと思い、私は投げる前からゴールに入る予感がまったくしない2投目を放り投げた。
季節は春と言えど、夜風はまだ冷たい。持ってきたストールを肩からかけて私は夜道を歩いた。
時計の針はあと15分で夜8時になろうとしている。
久々にめかしこんで行くその場所は、居酒屋だ。大学で仲良くなったばかりの友達がセッティングした合コン。おそらく数合わせだろうなと思いつつも、断れずにそのまま受けてしまって今に至る。
普段はこの時間はバイトか、夕食後でまったりとテレビでも見ている時間なのになぁと思いつつ、私はため息をついた。
しかし、これからの大学生活、こういうことは多々あるだろうし付き合いも大事だからなぁ。
自分を納得させて私は駅に向かっていく。そもそもスタートが遅いんだろう。帰る頃には何時頃になるだろう。あまり遅くなると夜道を歩くのも怖いし、できれば日付が変わる前に家に帰りたいものだ。
駅までの道の途中にある、フェンスで囲まれたストリートコート。通り過ぎるときに必ず横目で見るクセがついてしまった。
ダム、ダム、とボールの弾む音に反応して私はしっかりと動いている人影を見た。
あぁ、あの背格好は、大輝くんだ。
家を早目に出てきたので待ち合わせ時間までまだ余裕がある。私は入口のフェンスの扉をあけて中に静かにコートの中に入った。
誰かと1on1をやるわけでもなく、大輝くんはダムダムとリズムよくドリブルをしてそのまま豪快にダンクを決めた。
「ナイッシュー!」
圧倒的な迫力。私は彼のダンクを久々に目の当たりにして思わず拍手をした。
それに気付いてこちらを振り返った大輝くんは驚いたように目を見開いた。
それは一瞬だけで、またすぐに元の目つきに戻る。睨んでいるわけではないのに目つきが悪いので睨んでるように見えるけれど、昔から知っている私はもう見慣れていた。
よォ、と無愛想に一応挨拶をしてくれた彼を、私はまたマジマジと見つめた。
「少し見ない間にまた背が伸びたんじゃない?」
「知らねーよ」
久しぶりに会ったというのにこれまたぶっきらぼうな相槌に私は苦笑した。まるであの頃と変わっていない。
面影を残したまま、彼はたくましく成長していた。
――大輝くんとさつきちゃんは幼馴染で、私はその二人の家の真向かいの家に住んでいた。
私もよく二人に混ざって遊んでいたのだ。
3つ年上なのでお姉さんみたいなポジション。
かわいい弟と妹が一度に出来たみたいでとても嬉しかった。
さつきちゃんをいじめて泣かせば私は大輝くんを叱った。私が落ち込んでいれば二人が励ましてくれた。
いつからかお互いの生活が忙しくなり、昔のように遊ぶことはなくなってもあの頃の思い出は今でも心の中であたたかく大事にしていた。
私とさつきちゃんは今でも時々会ってお茶をしているので、大輝くんの近況もだいたいは聞いている。
「部活には出ないのにこんなところで練習してるの?さつきちゃんから聞いてるよ?」
「……あのブス余計なことを」
「かわいい幼馴染のことをブスって言わない!」
「へいへい」
明後日の方向を向いて大輝くんはダルそうに返事をした。あんなにかわいい幼馴染がいることを少しは贅沢だと自覚したほうがいい。私がさつきちゃんとお茶したり買い物してるときは100%さつきちゃん目当てでナンパされる。それほどにさつきちゃんはモテるし、かわいいのだ。
昔から一緒に育ってきた彼は、そんなかわいい幼馴染がいて贅沢などとは一生気付くことはないだろう。
『試合には出るが練習には出ない』ことを条件に桐皇学園からのスカウトを受けたこと、自分以上に強い人もおらず目標もなく、鬱屈した日々を送っていることをさつきちゃんから聞いていたので、正直、一人でストリートコートに大輝くんがいるのは驚きだ。
練習…、をしているわけではないのだろうけど。
人生でいくつか越えられないほどの大きな問題…壁にぶつかる時があるというけれど、大輝くんにとってそれは今なんだろうか。自分に勝てるのは自分だけ、というのは超えるものがいなくて退屈で、好きなことにも燃えられない。フラストレーションは溜まる一方だろう。でも、バスケを嫌いになったわけじゃなさそうだ。だってストリートコートに来てるのだから。それだけでも私は安心した。
「時々ここで遊んだよね。なつかしい」
「そーだな」
「年はとりたくないねぇ」
「そーだな」
指の上でくるくるとボールをまわしながら大輝くんはつまらなそうに返事をする。
器用だぁとボールに見いってたら、視線を感じてそちらを見ると、バチリと目が合った。
ぽかんと口をあけてボールを見ているアホ面を見られてしまったようで、大輝くんはクッと喉を鳴らして笑った。
前にもこんなことがあった気がする。
回転したボールをバランスよく指先に乗せる技、私がやると何度やっても上手くいかないから、大輝くんがやる度にそれに見入ってしまう。ちなみに私はさつきちゃん同様よくからかわれていた。
年上なのに。姉のように接してきたつもりが、彼はまったくそんな風に思っていたなかったに違いない。
「そのおもしれーアホ面久々に見たわ。今日はせっかくめかしこんでるのに今の顔は台無しだな」
笑って言う彼の笑顔には、未だ少年の面影があった。
大学に入ってからはメイクもきちんとするようになったけれど、メイク後の顔を大輝くんに見せるのは初めてだろう。
私はいつも通りのつもりでもめかしこんでいるように見えたようだ。
…というか、メイクしてる事に気付いたのが意外すぎた。こーゆーことには鈍感かと思ってた。
「今日はこれから合コンなんだ。だから一応めかしこんでみました。数合わせで呼ばれただけなんだけどさ」
「…何だお前、行くのか?」
「だから行くって言ったよ今…。何?うらやましい?美人で胸大きい子たくさんくるかなーって?」
「違ェーよ!」
ムキになって怒鳴った大輝くんが面白くて私は声をたてて笑った。私がからかわれることがほとんどだったけど、時々、私がやりかえしてからかうこともあったなぁと思いだした。ついでに、スカートめくられて「色気のねーパンツだ」とか言われた時に回し蹴りをくらわせた思い出も過た。なつかしい。
久々に会えたのだからもう少し話していたいところだけど、そろそろ行かなくては。
会えたら一言だけ言おうと思っていたことがあった。メールでなく直接伝えたかったこと。
とっても余計なお世話なので鼻で笑われてしまうかもしれない。でも、それでも――伝えたかった。
「大輝くんより強い人なんて、きっとすぐに現れるよ。だから退屈な日々も必ず終わりが来るから」
この一言で、私が大輝くんの現状を、彼が思っている以上にさつきちゃんから聞いていたことを悟られたに違いない。
それでもよかった。私のエゴだと思ってくれればいいし、これを伝えたかったのは実際、私のエゴ以外の何でもない。
またお節介なこと言いやがってと内心悪態づいてくれてもいい。
ただ、きっと昔みたいに大輝くんがバスケに夢中になる日がくればいいなと心から願っているのは、誓って、私の本心だ。
鬱陶しそうに睨まれるのかと思ったけど、大輝くんは静かに、物悲しそうに笑った。それを月明かりが照らし、私の目に焼きついた。
「お前もテツと同じことを言うんだな」
ポツリと喉から漏れた言葉。はじめてみる表情にドキリと心臓が鳴った。
少年時代のあの頃と何も変わっていないわけじゃあない。
私も彼も、少しずつ大人になっている。見た目も考え方も。
それは当たり前のことなのに、どこかで変わってほしくないなと願っていただけに、大人びた大輝くんを見てチクリと胸が痛んだ。
「じゃあまたね」と手を振って私は踵を返して歩き出そうとしたら、後ろからの強い引力。
何事かと勢いよく振り返ると大輝くんは私の鞄の紐を掴んで引っ張っていた。
しばし沈黙してからお互いの視線が重なり合う。もう一度出口の方を向いて歩きだそうとしてもビクともしない。
大輝くんの力で私を抑えるなど容易いだろう。
「行かねーほうがいいんじゃねぇの?」
「大丈夫、ソフトドリンクしか飲まないから」
「そうじゃねぇって。…もし無理に飲まされて酔っちまったらカンタンにお持ち帰りされて食われちまうぞ」
「ちょ、またえげつないことを言うねぇ…」
鞄の紐を掴んでいる手をペシッと叩くと、簡単に手を離してくれたので、私は肩にかけなおして大輝くんに向き直った。
何か、言いたいことでもあるんだろうか。
合コンにいくなって?なに?
心配してくれてるの?色気づいてんじゃねぇよってこと?…どっちだろう?
大輝くんは走るのも早い。私が隙をついて出口に向かって走ったところで簡単に阻止されてしまうだろう。
私はとりあえず、「どうしたの?」と聞いてみた。何も理由ないしに面倒なことをする子ではないと知っているから。気を引きたくてやってるわけじゃないと思うし。多分。
「フリースロー対決、やるか」
「は?」
「俺がやる、っつったらやる」
突然の無茶な提案に黙りこくると、大輝くんは「そっちが先行」と私にボールを渡してきた。
大輝くんとさつきちゃんとよくバスケで遊んでいたといってもそれは大輝くんが本格的に背が伸びる前の小学校までの話だ。
そして私はもとよりバスケが上手くないわけで…。彼もそれをわかっているはずだ。
「大輝くんに意義を申し立てる」
「あんだよ」
「やる前から結果がわかりきってる対決に、意味ある?」
「ねぇよ。うるせーな」
ズバッと言い返されても納得するはずなかった。訳がわからないが、特に怒るほどことでもないので、私はこの対決を受けようと思った。いっそのこと、合コンは理由つけてサボってしまおうか。むしろ、大輝くんが引き止めてくれたおかげでちゃんと行けない理由ができたじゃないか。
大きく深呼吸をして、私はフリースローラインに立った。ゴールを目掛けてボールを投げるも、それは大きく弧を画いてリングの端っこにガツンと当たって外れた。シュートがあまりにも無様だったのか、大輝くんは遠慮なくゲラゲラと笑い出した。対決をしようと言って人に投げさせておいたのはそっちのくせに。
大輝くんは、「この対決にお前が勝ったら教えてやるよ」、と言って、不敵に笑った。
っていうか、私が勝つなんて無理でしょ。
どう考えても大輝くんが勝つでしょうが!
彼の伝えたいことはなんだろう。大切なこと?それともくだらないジョーク?わからない。
勝負が終わるまでそれは考えても無駄なことだと思い、私は投げる前からゴールに入る予感がまったくしない2投目を放り投げた。